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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
血と腸の降る夜に
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血と腸の降る夜に 9

 9


 工房から脱出したスカリーとマイディ。

 だが、マイディはこれからどうしたらいいのかがわからなくなってきていた。


 偶発的に出会った獲物には逃げられ、その上に行先の手掛かりもない。

 そういう事態になってしまったからには、もはや手立てはないに等しい。

 再び捜索するにしても、バスコルディア全体から、さらに今度は警戒心も強まっているであろう相手を探すのは骨が折れる。

 

 今回の一件ばかりはそろそろ手を引いたほうがいいのかもしれない。

 その程度の考えが脳裏をよぎる程度には行き詰っているのだ。


 だが、その前にやることがある。


 「出てきな。こそこそ俺たちを見張ってたのは知ってるんだ。気配の消し方は上手いもんだが、ちょっとばかり場数が足りねえな。もうちっと修羅場を潜ってこい」

 「今すぐに出てくるのならばちょっとは手加減して差し上げますよ? こう見えてもわたくし、とっても優しいタイプなんです。いえいえ、見た通りのとっても優しいシスターですから安心してください」


 拳銃と山刀を構えた状態で二人は宣言。

 墓地には二人以外の人影は見えない。

 

 だが、数々の戦いを切り抜けてきた二人は気づいていた。

 自分たちを見張っている気配に。 

 死体と戦っていた時にも張り付いていた視線。


 攻撃する意思は全く感じられなかった。

 ゆえに無視していたのだが、そろそろ解決したほうがいい。

 無用に情報をつかまれてしまうのは好ましくなかった。特に相手の思惑(おもわく)がわからない場合は。


 反応はない。

 ただ静寂(せいじゃく)が返ってきただけ。


 「ああそうかい。だったら自分から姿を現したくしてやるよ。ちょっとぐらいは痛い目にあっても文句言うなよ? テメエで招いた事態だ」


 銃声、銃声。


 容赦のない銃撃が墓石を抉る。

 分厚い墓石は二発程度では崩れこそしないが、このまま撃ち込まれ続けたら崩壊するだろうことは明白だった。そして、それを察知できないような者ではない。


 「待て。撃たないでくれ。私は『大佐』の命令によってキミ達の行動を追っていただけなんだ。邪魔をしようとか、不利益を与えようとかいう意思はない。決して……そう、決して」


 墓石の裏から声が響く。

 予想していた事態なので、二人とも動揺はない。

 ただ、いつでも迎撃できるように準備だけはしている。


 「両手をしっかりとドタマにくっつけてからゆっくりと出てきな。従えねえっていうんなら撃つ。殺す気もねえが、殺さねえ気もねえぞ」

 

 「……従う。だから、撃たないでくれ」


 渋々といった様子で墓石の裏に隠れていた人物が姿を現す。

 年齢はスカリーと同じ程度か。しかし、荒事に生きているというよりも、書類の整理でもしているほうが似合っているような線の細い男だった。

 腰に拳銃こそ差しているが、今一つ位置がしっくりきていないようであり、男の震えを反映するようにゆらゆらと安定しない。


 「……『大佐』がつけた見張り、ねぇ。……いや、ちょうどいいか。おい、連絡用の手段ぐらいは持ってるんだろ? 出しな。ただし、ゆっくりとな」


 男の頭に照準を合わせて、要求。

 人にものを頼む態度ではなかったが、男は素直に『連絡手段』を取りだす。

 (ふところ)に潜ませていた一羽の鳩を。


 「……なんですか、これ? 伝書鳩ですか?」

 「ちげえよ。……もっと効率化した鳩だ」


 男の手から生きている鳩を奪い取る。

 そのままスカリーは握りつぶさんばかりに鳩を握りしめる。


 悲しげに鳩が鳴き声を上げるが、そんなことは眼中にないとばかりに。むしろ潰れてしまえとばかりに。

 

 「ちょっとスカリー?」

 「黙ってな」


 やがて、鳩の悲しげな鳩の鳴き声は徐々に、徐々にノイズ音へと変わっていく。

 生物の声から、無生物の声に。

 

 十数秒もすれば、すでに鳩からはノイズ音だけがしていた。

 そして、それも止まる。

 

 「……誰だ?」


 鳩の口から発せられたのは人間の声。

 年齢を感じこそすれど、その奥にははっきりとした自信と実力、さらには信念を感じさせる力強い声。

 

 「『大佐』か? ドンキーの知り合いのスカハリー・ポールモートだよ」

 「……ああ、『剣弾』か。お前さんが連絡をよこしたってことは、つけておいた見張りは見つかったみたいだな。……だが、何かを掴んでいるんだろう? 無駄に俺様にコンタクトを取っても損しかねえのはわかってるはずだ」


 伝言鳩(でんごんばと)

 品種改良と、特殊な生育環境。さらには魔法的な処置によって離れた相手との対話を可能にする魔法生物である。

 もちろんコストは高く、更には伝言鳩同士でしか通話はできないので、導入しているのはごく一部でしかないが。

 それでも、中央政府の部隊にいた『大佐』が所持している可能性は高かった。

 

 「その通りだ。アンタの狙ってるクソガキと交戦した。……奴さんが尻尾巻いて逃げ出したもんで逃がしちまったけどな」

 「フフフ、正直だな『剣弾』。が、そんなことはどうでもいい。そうだろ? 俺様が知りたいのはそういうことじゃねえ。大事なことを忘れちゃあならねえ」


 内心でスカリーは思案する。

 どこまで情報を渡したらいいのか? 自分の推測混じりになってしまうが、それで『大佐』は納得するだろうか? 

 

 (……知らねえよ)


 今回の一件の当事者ではない。少なくともスカリーは。

 ゆえに、渡せるだけ渡すことにした。

 

 「情報料はアンタが決めてくれ。あと、俺の推測も混じってるから鵜呑みにするんじゃねえぞ?」

 「ああ構わんさ。俺様は寛容(かんよう)なんだ」

 

 「獲物は死霊術師。本当の拠点は中央区の共同墓地にある。連れてる死体は二つ。改造しまくってやがる。……多分、やばい改造だろうな。俺とマイディがやりあったのは腕が五本もありやがったし、片方は中に鉄を仕込んでやがった。……もう肉の塊に戻ったけどな」

 「なるほど。厄介な相手だ。……それで?」


 内心、スカリーはぎくりとする。

 見透かされているのかとも思うが、カマかけだろうと推測する。

 それでも、一応は伝えておいたほうがいいだろう。

 

 「…………ガキにはまだ隠してるモンがある。見せてない手がな。ついでに、普通の死霊術でもねえ。勝手に死体が動きやがった。術者の命令なし、接続されてたわけでもねえ」

 

 鳩の向こうの『大佐』が沈黙するのがわかった。

 これが事実なのだとしたら、あぶりだすのは非常に難易度が跳ね上がる。

 死霊術師の弱点、それは術者の命令変更がないと死体には融通(ゆうづう)が利かないこと。

 それを克服できるというのならば、隠れているだけでいいのだ。

 自分は安全な場所から、次々に死体を送り込む。

 

 相手の疲労は蓄積するが、材料さえあればいくらでも手駒が出来る術者側は途切れることのない攻めを展開し、そのままじわじわと圧殺することだろう。

 たった一人の少女に、大人数が蹂躙(じゅうりん)される可能性も十分にある。

 

 「……ふん。例えどんな相手だろうと関係ねえな。例えクソ溜めの中に潜んでいても見つけ出して――殺す。それだけだ。情報は終わりか? 今回の一件が終わったら部下にカネを届けさせる。お前さんは馬鹿が死んだ報告と一緒に受け取りな」

 「ああ。そう、させてもらうぜ。アンタのほうが頭にきてるみたいだしな」

 「わかってるならいいのさ。……邪魔をしたら承知しねえ。俺様から言いたいことはそれだけだ」


 伝言鳩から発せられる音が再びノイズに戻る。

 『大佐』が通話を切ったということだ。

 

 「う~ん、ちょっと話が見えないんですけど、わたくし達は帰りますか? やる気になってる『大佐』の邪魔はしたくありませんし」

 「そうしたほうがいいかもな。これ以上は(やぶ)をつついて蛇を出すことになる。返すよ、ありがとな」


 見張りの男に伝言鳩を返却し、そのままスカリーは教会へ戻る方角へ歩き――出せなった。

 

 (……あのガキ、なんつった? パパ、ママつってたよな? どういうことだ? 両親の死体を使ってやがったのか? いやいや、そうじゃねえだろ。死体なんぞどんなに防腐処理をしたってそう長く保つもんじゃねえ。戦闘に使ってるのなら猶更(なおさら)だ。じゃあ、何のことを言ってやがる?)


 「ちょっとスカリー? どうしたんですか? お腹でも下しました? だったらわたくし秘蔵のお薬をあげましょう。その辺の土から作っているんですけど。病は気からといいますからね。気合入れて飲んだら一発ですよ」


 マイディのたわ言は無視して思考を続ける。

 

 (パパ、ママ、死霊術……。…………くそ! そういうカラクリか!)


 気づく。

 ある一つの可能性に。

 “明けの開拓団”時代に巡り合ったことがある、とある邪法の可能性に。


 「おい! 鳩貸せ!」

 「な、なにを⁉」


 一度は返した伝言鳩を再び奪い取ったスカリーだったが、鳩は反応しない。

 

 (ちっ! 再使用時間がありやがるのかコイツ!)


 魔法生物ではあるが、小動物でもある伝言鳩は体力の消耗も計算に入れて使わねばならない。

 それをスカリーは知らなかった。使ったことがないので当然なのだが。


 「……クソ! マイディ! 『大佐』のとこにいくぞ!」

 「はぁ⁉ 何言ってるんですか? 訳が分かりませんよ」


 マイディにはスカリーが主張を二転三転させているようにしか見えない。思考をのぞけるわけがないので至極当然。

 しかし、そんなことに頓着しているような時間が残っているとは思えなかった。


 「……最悪、『大佐』の部隊が全滅しかねねえ。しかも、連鎖的に他の奴らもヤバい。仕留められるのはドンキーか俺ぐらい、だろうな。……こんなことはゴメンだってのに、よ」


 一人で盛り上がっているスカリーを尻目に、まったく事情が分からないマイディはただ困惑しているだけ。

 だが、駆けだしたスカリーを反射的に追う。

 

 「もう! 何をやっているんですか。ちょっとはわかるように説明してください! やる気が違ってくるんですから」


 走りながら、尋ねる。

 責めるような口調のマイディに対して、スカリーは焦りを含んで答えた。


 「相手は一人じゃねえ。三人……いや、もしかしたらそれ以上いやがる」

 「…………はぁ?」

 

 すでに西の空には日が沈み始めていた。

 夜が来る。

 

 無法都市の夜が。

 邪魔をする者など一人もいない、闇の時間が。

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