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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
血と腸の降る夜に
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血と腸の降る夜に 5


 「おいおい、こりゃまた大げさな話になってきたな……どうやって収拾つけるつもりなんだよ。下手すりゃ暴動にでも発展しかねねえぞ、こりゃ」

 「んー、そうでしょうか? ここまでの賞金がかかっている以上、難易度は高いんじゃないですか? そもそも、二流三流のヘッポコ共じゃあ返り討ちになってしまうのが関の山。築いてしまう屍の山。そして最後はお山の大将がいいとこをかっさらってしまうのが世の道理というものですよ」

 「おめえはやっぱりピントがずれてんな」


 たった今、大量にばらまかれた手配書を見てのスカリーとマイディ。その感想はそういうものだった。

 二人がいるのは酒場ではあるのだが、無法の街らしく集まっているのは荒くれものばかり。他の都市であるのならば表舞台には決して出てきてはいけないような連中ばかりだ。

 

 そんな集団の真っただ中にまき散らされた手配書は異常なほどに精密。

 おそらくは、腕のいい人間に書き写させたのだと思わせるほどにしっかりとした絵なので、本物を見ても間違うことはないだろう。

 

 それだけならば問題はなかった。

 問題なのはついている賞金と条件。

 

 〈Dead or Alive〉 金貨五百。


 生かしていようと殺していようと支払われる賞金に変化はなし。

 つまり、本人であることが確認できるのならば、どこまで損壊していても問題はなく、生け捕りにするよりも数段容易であり、殺すだけでもいいので参加のハードルは格段に低い。

  

 なにしろ、描かれている対象はどう見ても子供なのだった。

 下手をしたら棒か何かで殴りつけただけでも死にかねない。


 気の早い幾人かは、すでに会計を済ませて店を後にしようとしていた。 

 どこに向かうのか? 聞くまでもない。手配書にあった拠点の場所だろう。

 なにかしらの痕跡(こんせき)は残っているはず。それを手掛かりにして追い詰める。

 そういう腹積もりなのは疑いようもなかった。


 「あーあ。どうすんだよ。仕掛けたのは『大佐』か? 何のつもりなんだよあのジジイ。バスコルディアで戦争おっぱじめたいのかよ」

 「あながち否定できないのが悲しいところですね。あの人中毒ですし」

 「なんの中毒だよ? ヤバいクスリか?」

 「戦争ですよ。闘争と言い換えてもいいですし、命の取り合いと言ってもいいでしょう。

 なんならもっと簡潔に殺し合いとか。とにかく、殺し殺されの関係に飢えているんですよ、ああいう手合いは。そこにちょどよく玩具が出てきたもんだから大喜びしてるんでしょう」


 どこか不満げに、いつものふざけた様子とは少し違うマイディ。

 

 「はン。知った風なコトをいうじゃねえか」

 「……自分を見ているようで不快なんです。同族嫌悪っていうんでしたっけ?」

 「……自覚あるんなら改めろよ」

 「わたくしはわたくし、他の誰でもない唯一無二。それこそが誇り、それこそが信念。それこそがわたくしなのですよ、スカリー?」

 「ゴリッパでいらっしゃるぜ、まったく」

 「おかわりください!」


 

 

 東区の共同墓地にはすでに幾人(いくにん)もの有象無象(うぞうむぞう)が集合していた。

 特に当てがあるというわけではない。

 手配書に書かれていた唯一の手掛かりらしい手掛かり、その場所にやってきたというだけの短絡的思考の持ち主たちである。

 

 ゆえに、調査といえるような調査は行われず、ただただその辺をうろつきまわっているか、隠れようもない場所をひっくり返しているだけ。


 一応は見張りのために回されている『大佐』の部下の二名はそのような現状にかなり歯がゆい思いをしつつも、命令の順守のために耐えていた。


 血走った目であたりを見回す賞金稼ぎらしき集団も、彼らに対しては視線を向けない。

 下手に刺激して対立することになっても得にはならないから。それよりも、目の前にぶら下げられているニンジンを追うことに夢中になっているのだ。


 「オットー。任務とはいえ、これはあまりにも……」

 「言うなスロック。俺も同じだ。だが必要なんだ。もし、ヤツがなんからの事情で戻ってきたのならば迎え撃つ必要がある。そのためには馬の骨どもでは心もとない。俺たちのような兵士が必要なんだ」

 「わかってる。わかってるさ」


 渋々といった様子でスロックは再び待機の姿勢に戻る。

 二人が潜んでいるのはちょうど墓地を見下ろせる位置にある建物。その屋上からこっそりと見張っているのだ。


 退屈な仕事であるということは否定できない。

 いざというときのための備えだということは理解していても、獲物を探し回っているほうが現状よりは幾分かましなのではないかという思いを抱くのも何度目か。

  

 やってきたごろつき共はどいつもこいつも考えなしにしかみえない。

 ひどい者になると他の墓を掘り返し始めているような頓珍漢(とんちんかん)まで存在していた。

 そんな阿呆どもを監視していないといけないというのは苦痛だ。

 訓練された軍人である二人は尋常ならざる忍耐力を持ってはいるのだが、それをもってしても耐え難い苦痛であった。


 (まさか、馬鹿を見張る任務とは……)

 

 心中だけで毒づき、オットーは頭を振る。

 これは『大佐』から与えられた任務だ。気を抜くことは許されない。

 生来の生真面目さがそう言っていた。


 「……おい、オットー。ありゃなんだ?」

 「どうした?」


 怪訝そうなスロックの声に反応してオットーは双眼鏡を視線の先に向ける。

 その先にあるのは死体。

  

 獲物――ドレスの少女に殺されたはずの情報屋の死体だった。

 ただでさえみすぼらしい身なりだったのに、すでに身包(みぐるみ)みを剥がされてしまっているので目も当てられないような状態なのだが、放置されていたのだ。

 それが、立ち上がっていた。


 濁った眼が虚空をにらみつけ、切り開かれ、無理矢理に縫製(ほうせい)用の糸によって縫合された腹からはどす黒いものがこぼれる。


 死んでいる。死んでいるはずだ。

 動くはずもない。

 だが、動いていた。


 そして、そのすぐ(そば)に背中を見せている男が一人。


 「まずい――!」


 警戒を(うなが)すためにオットーは叫ぼうとした。

 しかし、結局それは間に合わなかった。

 叫ぶよりも早く、死体は()ぜた。


 死体が肉片に変わり、骨片に変わり、血煙に変わり、一気に周囲へとぶちまける。

 当然、そのような事態を予想している者はいなかった。


 まともに爆風を受けた者。飛来する肉片、骨片を受けて負傷する者。血煙を浴びて視界を奪われる者。

 被害はさまざまであるが、共通しているのは完全に虚をつかれたということ。

 ――致命的な隙が生まれたということ。


 今度は地面が爆ぜた。


 間欠泉のように吹き上げられる土砂、それに混じってソレは這い出てきていたのだ。

 

 最初に気づいたのはやはりオットーだった。


 「なんだあれは。なんなんだあれはっ!?」

 「おいどうしたんだオットー?」


 動揺する戦友を目の当たりにして、急いでスロックも確認する。


 見えたのは、異形だった。


 一見すれば人間のように見えなくもない。

 しかし、それはよくよく見れば人間ではないと否定できるという事実でもある。

 なぜならば、人間には胴体に頭部がくっついているということはない。

 三本も腕はない。眼球も二つだけだ。数える気もしないほどの目玉などはない。

 なにより、本来ならば顔があるはずの部分にはまってるのは、ただの黒い石だった。


 化け物、という言葉が脳裏によぎり、それでも兵士として厳しい訓練に耐えきったスロックとオットーは即座に行動していた。


 傍らに置いていた愛用のライフルを構え、照準。

 距離は三百。調整された彼らのライフルならば狙撃可能な間合いだ。


 息を吐き、止める。

 

 銃声(ダァン)


 二人の銃声は完全に重なった。


 想定した通りの軌道を描いた銃弾は、想定した通りに二発とも胴体に命中する。

 口径の大きいライフルのために、命中した箇所が抉れる。

 だが、それでも異形は立っていた。

 

 肉が(えぐ)れたことによって上半身を支えることができなくなり始めたのか、上半身が徐々に前傾していくが、それでもまだ立っていた。


 「次弾準備」

 

 排莢、再装填。

 同時に、同じ速度の動作。

 

 再び異形に照準を合わせて発砲しようとした。

 このまま死ぬまで鉛玉を食らわせてやるつもりだった。


 「みぃーつけたっ! 悪いひとたちみつけたぁ! パーエ見つけちゃったもん! パパをいじめるんだから悪いひとっ!」

 

 背後からの甲高い声。

 即座に反転した二人は撃鉄を引こうとして――。


 「おいたはだぁめ! パーエは痛いのいやだもん。だからパーエに痛いことしようとする悪いひとたちはパパとママがやっつけてくれるんだからっ!」


 包帯の――体格からして女。

 それが二人のライフルを捕まえ、銃口を空へ向けていた。


 銃声。

 

 放たれた弾丸は何にも当たらずに飛んでいく。


 「――シャッ!」「っらぁ!」


 オットー、スロック。二人は訓練された軍人だった。

 この程度のことで動揺して動けなくなるということはなく、闘志は燃え滾っている。

 ゆえに、即座にライフルを手放し、包帯の女へと打撃を加え、その隙に拳銃で射殺するつもりだった。


 放った拳打は間違いなく包帯の女に突き刺さった。

 大の男でも無傷ではいられない。

 なのに、だというのに、敵は微動だにしない。

 それどころか、二人の拳のほうが傷ついていた。


 「がっ!」「ぐぁ!」


 針。

 太い針が二人の拳を貫き、縫い止めている。


 当たった角度の関係なのか、それともたまたまなのか、引き抜くこともできないほどにその針は二人の肉に食い込んでいく。

 まるで意思を持っているかのように。

 

 「やったぁ! ママすごい!」


 嬉々(きき)とした様子で黒いドレスの少女は近づく。

 激しい痛みにさいなまれながらも、二人はそれを確認し、ブーツに仕込んだナイフを掴み、握りしめる。


 刺し違えても、殺す。

 それが二人の覚悟なのだ。

 『大佐』の命令は絶対なのだ。

 

 「パパとママ、そしてパーエがいたら悪いひとはみぃんな死んじゃうの。だってパーエはいい子だから。とってもいい子だから。悪いひとをたっくさん懲らしめてるパーエはとってもいい子。だからパーエは天国に行くの。パパとママとパーエで天国に行くの。だけどまだ、パパとママの分が足りないから――悪いひとたち死んでよ」


 どずり、という音がした。


 なんの音だろう。

 奇妙な音だ。

 自分の体からしたようだが、そんな音を奏でるような仕組みをしていただろか?

 そういう考えとともに、オットーは視線を下に向けた。


 胸に太い針が刺さっていた。


 「――――え?」


 よくよく見てみれば、その針はオットーの拳を貫いていたモノが変形していた。

 心臓が脈打つのに合わせて致命的な血液の流出が起こるのが、わかる。

 数十秒のうちに自分は死ぬだろう。そんなことを考えた。


 「……スロック」


 戦友に最期の言葉だけは言っておきたかった。

 部隊で一緒に戦ってきた戦友にだけは。

 

 だというのに、スロックはオットーと同じように心臓を貫かれて死んでいた。

 

 広がった血の染みがすでに上着を真っ赤に染めて、戦友はすでにこと切れていたのだ。

 

 「…………あ、ああ……なん、で……こんな、こんな……」


視界に(もや)がかかり始めたオットーの頭を少女がつかむ。

 

 「それはね……あなたたちが“悪いひと”だから。パーエと違って悪いひとだから。だからね、死んで? パーエのために死んで。パーエ達が天国に行くために死んで。死んで死んで死んで死んで死んで、――――――――――――死ね」

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