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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
爆裂オレンジ祭り!
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核撃ドロンキー 登場!

 「おいおい、どうなってやがる?」

 「まるで竜巻でも発生したかのようですね」


 ビエンティを撃退した後、三人はバスコルディア中央区に到着していた。

 本来ならば様々な店が脇に建ち並び、ややもすれば乱雑とも取られかねないほどに混雑しているはずの幹線道路はひどい有様だった。


 急遽引っ込める途中であったと推測される露店はオレンジ色の果汁に染まり、周辺にはごろごろと転がる人々がいた。

 もちろん皆、オレンジ色に染まっていた。


 「おいアンタ。どうなってんだ? 何が起こった」


 手近に転がっている犬頭族(コボルド)に尋ねるスカリーだったが、もろに鼻っ面に食らってしまっている犬頭族は喚きながら転がっているだけだった。


 「……ダメだな。他も似たようなもんか」


 他に転がっている者も全員が例外なく爆裂オレンジを受けているようだった。

 老若男女、種族も関係ない。


 「なんでしょうね? 少なくとも自然災害ではないようですけど」


 生物以外は爆裂オレンジの直撃を受けていないことにマイディは気付く。

 もちろん、ほぼ同時にスカリーも気付いていた。

 しかし、何が起こったのかは分からない。


 「生きてるヤツだけを狙った襲撃者か? なんだそりゃ? ドンキーのほら話のほうがまだ信じられるぜ」

 「とは言っても、このまま見晴らしの良い場所にいるのはまずいんじゃないですか? オレンジを消費する存在が減っているということは、まだまだわたくし達に投擲するモノは残っていることでしょうし」

 「だな。おいハンリ、調子はどうだ?」

 「うん、なんとか大丈夫」


 オレンジ酔いを起こしてしまっていたハンリはここまで来る時間でなんとか回復していた。

 幹線道路の周辺は生物以外をオレンジが襲っていないのでそれほど香りも濃くはなかった。

 少し、スカリーは思案する。


 行き先を変更するべきか否か。


 本来の目的地は、中央広場である。

 太陽が昇っている間は常に何かしらの商取引が行われているその場所は、祭りが始まった直後から激戦が繰り広げられているはずだった。なにしろ常に誰かしらはいるのだから。


 例年ならば、中央広場は開催から数時間も経ってしまうと安全地帯になっている。

 しかし、想定外の『なにか』がある以上、その予想は当てにならない可能性もあった。

 引っかき回している存在。その正体が分からないのであればこそこそと隠れるのが正解にも思えてくる。  


(どうしたもんか……久しぶりに運頼みってヤツをするか)


 ポケットからコインを取り出す。

 貨幣として使われているモノではなく、何かの記念品のようだった。


 「マイディ、表が出たら中央広場に行く。裏だったら路地に逃げ込む」


 コインの裏表を示しながらスカリーはマイディとハンリに行動方針を説明する。

 二人とも頷いてくれたので、躊躇無くスカリーはコインを指で空中に弾いた。

 回転しながら落ちてくるコインを空中でつかみ取ると、そのまま逆の手の甲に叩きつける。


 コインは表を見せていた。


 「どーれ、なら中央広場に行ってみるか。もし厄介なことになったら……ハンリ、マイディを責めろ」

 「なぜですか⁉」

 「神はなんでも知ってるんだろ?」

 「……まあそうですけど、関係ないのではありませんか?」

 「ここに敬虔な信徒が二人もいるのになんの加護もくれないようなら、そういうヤツはクソッタレなんだよ」

 「ちがいまーすぅ。神のお与えになった試練です」

 「へいへい。一応気をつけとけよ。まだ食らってないヤツだっているだろうしな。特にハンリ、何か気付いたらすぐに言え」

 「う、うん」


 きょろきょろと辺りを見回しながら、ハンリは二人の後についていった。






 バスコルディア中央広場。


 かなりの広さを持つこの場所は、本来は多目的な利用を想定されているはずなのだが、ほとんど常に怪しげな露店が立ち並ぶ闇市の様相を呈している、はずだった。

 到着した三人が見たのは、そういった露店がきれいになくなってしまっている中央広場だった。


 当たり前のように存在していたモノがなくなると、以前よりも格段にスペースが増したように見える。

 しかし、妙な点はそれだけではなかった。


 「汁が散ってねえな」


 爆裂オレンジ祭りに際しては、中央広場からも露店は撤退する。

 その後に、ここを中心にして中央区のオレンジ合戦は展開していく。

 ゆえに、この場所は地面がオレンジ色に染まってしまっているはずなのだった。


 それが、ほとんどなかった。

 おそらくは余波であろうモノは散見されるのが、地面に直撃したような痕跡は一つも無かった。


 「例の『だれかさん』がここでも暴れたのでしょうね。……今はいないみたいですけど」


 周辺を警戒していたマイディはそう呟く。

 顔面をオレンジの果汁まみれにしている者はそれなりにいるが、現在進行形で戦いは起こっていないようだった。


 「穴でも掘って時間まで隠れてますか?」

 「そうだな、ここまで暴れてるんだからスタミナが持つはずがねえ。『だれかさん』もそろそろへばってるだろうし、モグラみてえに埋まってるのもいいかもな」

 「……う、掘るの?」

 「安心しろよハンリ。この馬鹿力のシスターが三人分掘ってくれるだろうよ」

 「わたくしの扱いがひどいのは後で抗議しましょう。今は準備が先決ですね」


 方針が決まり、三人が中央広場に足を踏み入れた瞬間だった。

 ぞくり、と嫌な感覚をスカリーとマイディは覚える。

 殺気ではなかった。


 それとは異質だが、なんとも言えない嫌な予感だった。

 二人の判断は早く、マイディがハンリを抱えて前に、スカリーは後ろに跳んだ。

 一瞬遅れて三人がいた場所にオレンジが着弾し、炸裂する。


 「「!」」


 二人の行動は素早かった。

 スカリーは拳銃を引き抜き、オレンジが飛んできた方向に銃口を向け、マイディはハンリを守るように山刀を構えてハンリの前に立っていた。

 視界にいるのは、転がっている者だけだった。


 しかし、確実にオレンジを投擲してきた者はいるはずだった。

 そう考えて警戒態勢に入ってる二人の後方でなにか重い物体が落ちた音がした。


 「マイディ! そっちは頼む!」


 スカリーが言う前にマイディは振り向いていた。


 「あら、司祭様」


 そして、やけに気の抜けた声を発した。


 「やあシスター・マイデッセ。それにシスター・ハンリッサとスカリー」

 「あん? ドンキーか? 今ちょっと取り込んでるから後にしてくれ。どっかから俺たちにオレンジぶん投げてきてるアホがいやがる」

 「うん? それは私だ」

 「……なんだと?」


 スカリーも振り返った。


 見えるのはマイディとハンリの後ろ姿、そして、司祭服を着た二メートルを軽く越える巨漢だった。

 珍しくもないダークブラウンの短く刈り込んだ髪、厚手の司祭服の上からでも分かるたくましい体つき。そしてその上に乗っている温厚そうな中年の顔。

 間違いなくバスコルディア教会の司祭であり、スカリーの知り合いのドロンキー・ガズミスだった。


 「どういうこった、ドンキー? テメエ何考えてやがる」

 「いや、私も本当はこんなことはしたくないんだ。しかしね、役目がある以上、それを全うするのは当然だろう?」


 至極当然、といった風にドンキーは肩をすくめる。


 「役目? 俺たちをオレンジ果汁まみれにするのが役目ってか? また変な密造酒でも決めてんのか、テメエは」


 迷うことなくスカリーは銃口をドンキーに向ける。


 「わたくしもスカリーに同意します。司祭様、一体どうなさったというのですか?」


 山刀こそ抜いているものの、マイディは動揺を隠せていなかった。

 ハンリも同じであり、突然現れたドンキーに戸惑って上手く言葉を発することができなくなっていた。

 ぽりぽりとドンキーは顎を掻いていたが、そのうちに何かに気付いたように手を叩く。


 「ああそうか! 今年は不意打ちでの開催だったから二人とも聞いていないのだね」 


 そう言うと、ごそごそとポケットから何かの紙を取り出して、三人に見えるように広げる。


 〈爆裂オレンジ祭り開催! 今年はもっとお祭りを盛り上げるために狩人(ハンター)を用意しております。本来、オレンジ祭りにおいての対人攻撃はオレンジのみに限定しておりましたが、狩人に限っては無制限に行ってかまいません。皆様のご健闘をお祈りしております〉


 最後にバスコルディア自治協会のマークが入ったソレは、本来ならば開催の一週間前に張り出され始めるはずの『お知らせ』だった。


 「私はこの狩人に任命されてしまってね。なんどか断ろうと思ったんだけど、熱心に説得されてしまってね。熱意に打たれて引き受けることにしたんだよ」


 悪びれる様子もなく、朗らかにドンキーは言う。

 そんなドンキーとは対照的に、スカリーとマイディは呆れかえっていた。

 自分達に黙ってそんな依頼を受けているとは思わなかったのだ。


 「あ、あの司祭様」

 「ん? 何かな。シスター・ハンリッサ」

 「見逃して……もらえますよね?」

 「だめ」

 「………………え?」


 思ってもいなかった答えに硬直するハンリを押しのけるようにしてマイディが前に出る。

 同じく、スカリーも。


 「ぅおい、クソドンキー。テメエがどんな餌に釣られたのかは知らねえが、俺たちとやるって言うんなら……手加減しねえぞ」

 「わたくしも、全力で行かせて頂きます。狩人をお引き受けになられていらっしゃるのならば、それは想定の範囲内ですよね?」

 「もちろんだ。かかってきなさい二人とも」


 にっこりと笑いながらドンキーは抱擁(ほうよう)でもするかのように手を広げる。


 「だが、シスター・ハンリッサのことが心配だろう? それは私がどうにかしよう」


 ドンキーの右手が素早く動き、何かの印を空中に描く。


 「我は安息を求めたり。御業(みわざ)よ、我を守護したまえ。魂と肉と聖霊に()りて、在れ」


 印が弾けて、中央広場を覆うように薄く光のドームが現れる。


 「『聖域(サンクテュアリ)』。中から出るのは自由だが、入ることはできない。これで安心だろう?」


 かなり高度な神聖魔法だったのだが、なんでもないことのようにドンキーは再び抱擁するかのような体勢に戻る。


 「……ご丁寧にどうも。礼にたっぷり鉛玉を叩き込んでやるぜ」

 「司祭様、普段の鬱憤(うっぷん)をぶつけるわたくしをお許しください。具体的には今日のことは不問にしてください。……ハンリちゃん、下がっていてください。あと、わたくし達の近くに来てはいけませんよ。危ないですからね」


 戦闘が始まることは避けられない事を悟ったハンリは大人しくマイディの指示に従う。


 (二人とも……怪我しないでね)


 心配するハンリをよそに、スカリーもマイディも殺気満々だった。

 殺気に鈍いハンリは気付いていなかった。


 「さあ、かかってきたまえ。斬撃と銃撃のスラッシュアンドシュートスカリー、そして双山刀ダブルマシェットマイディ!」

 「やってやろうじゃねえか! 核撃(コアインパクト)ドロンキー!」



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