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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
ご令嬢、再び
44/98

その4

 4



 差し込んでくる朝日。それによってスカリーは目を覚ました。

 

 (寝る場所に文句たれるほど贅沢なつもりはなかったんだけどな……ったく)


 横たわっていた床から身を起こす。背中は痛むが気にしない。

 ベッドではローザが静かに寝息を立てているのが見えていた。

 

 (……脱ぐなっつたのに脱いでやがるしよぉ……なんなんだよ、このガキ)


 床に転がしているのはあまりにも横暴だと思ってしまったがために、ついでにベッドで寝ていたらそのまま寝込みを襲われそうだったから。

 本人としては合理的な判断によって、ローザにベッドを譲ったスカリーなのだ。

 

 (……ま、これから地獄みてえなイカレ共を目の当たりにするんだからな! せいぜいその時にショックを受けてくれよ!)


 知り合いに挨拶するという名目でバスコルディア教会の面々に会わせる。きっとそれはこのやけに一途な少女の偶像と化してしまっているスカリーを粉々に砕いてくれるはずだった。

 

 (今日に限っては期待してるからな、マイディ!)


 一番の問題児に対して望むのはいつも以上に暴れること。

 この一件が片付くまでは暴走を止めるつもりはない。たとえ地獄の窯が開こうとも煽りこそすれ制御はしない。

 できることならば復讐心に駆られた馬鹿が教会を襲撃することぐらいはやってほしいが、それはちょっと出来すぎている。

 

 「……ぁ。……お、おはよう、スカリー」

 「……よぉ、おはよう」


 はにかみながら声をかけるローザ。一応は返事をするスカリー。

 微妙な距離感がそこにはあった。

 

 「……あ、あのさ。着替え、たいんだよ。ちょっと出てくれない?」

 「……ああ、わかったよ。朝飯を食ったら教会に行くぞ」

 「お化粧とか……」

 「いらねえよ。自然でいいのさ、自然で」


 なるべく強引に持っていく。これによって少しでも嫌悪感を持ってくれれば御の字だと思いながら。

 これから年若い少女の夢を砕くのは忍びないが、それでも自身の平穏のためにスカリーは拳を握った。


 (いくらでも時間かけやがれぇ! おめえに待ってるのは精神的な死だけだッ! 燃え尽きちまっても知らねえからな!)


 もとい、いろいろと複雑な感情を持て余して拳を握った。

 



 準備をしたいと言い張るローザを無理やりに引っ張るようにして教会まで連れていく。

 なぜか最初は抵抗していたローザも途中から抵抗しなくなってきたので、妙だとは思いつつもとっとと解放されたいスカリーは道を急ぐ。

 

 「……ね、ねぇスカリー。アタシ……変じゃないよね?」

 「変じゃねえよ。大丈夫だ安心しな。それに、この辺で多少の格好を気にするようなやつはいねえ。首から頭蓋骨でもぶら下げてねえ限りは見とがめられねえから安心しな」

 「……わ、わかったよ」

  

 何か言いたげなローザだったが、スカリーは足を止めることはない。

 現状でも何人かには目撃されているのだから、一刻も早くこの少女に自分のことを諦めさせたかった。

 

 そして、二人は目的地に到着する。

 バスコルディア教会。

 今日の早朝にドンキーが帰ってきているはずだ。 

 つまりはフルメンバー。

 やばいやつが手ぐすねを引いている。

 

 「入る前に一つだけ言っとく……絶対に『テリヤキ』とはいうんじゃねえ。理由は聞くな。死にたくなかったらな」

 「ぇ、あ……うん」


 なぜか上の空のローザに一応は釘を刺しておく。

 とはいっても、そうそうマイディと争いになることはないだろうと思いながらも。一応は。

 一呼吸おいて、スカリーはいつにもまして慎重にドアを押し開けた。


 「あら、おはようございますスカリー」

 「おはよう、スカリー」


 一番に会ったのはマイディとハンリ。

 できればマイディ単独がよかったのだが、文句は言えない。たとえハンリが隣にいようとも、変態であることには変わりないのだから。

 

 「よぉ、おめえらも朝からご苦労なこったぜ。毎日毎日掃除掃除。信者も来やしねえのの飽きないのかねえ」

 「んまっ! なんて不敬な! いつでも清潔。それが教会のあるべき姿なのですよ。わわたくしたちは神の忠実な信徒としてそれを実行しているだけの話なのです。まあ? スカリーのような無精者にはわからないことでしょうけどね。ひげが伸びてますよ。司祭様ぐらいにナイスミドルな外見ならともかく、スカリーじゃあ渋みが足りませんね」

 

 「あー、ったく。おめえは本当にどうでもいいことだけは舌も頭も回りやがる。他のことに使いやがれってんだよ、このアホ」

 「ふ、なんとでも言いなさい。わたくし達の崇高な使命はスカリー程度には理解できませんよ。まるで馬に料理をしなさいというようなものですからね。ふふん!」


 そこまでやりあったところで、マイディはやっとスカリーの影に隠れるようにしている少女に気が付いた。

 

 「あら? どなたですか?」

 「入信希望者だと最初に思わねえところに、おめえの信仰心の薄さが表れてるな……ちょっと一回会わせておこうと思ってな。まあ、知り合いだよ。名前はローザ」

 「あ……アタシは、じゃない……こ、こんにちは。始めまして」


 深々と頭を下げる少女。

 なぜか何も言わないマイディ。

 

 (おら! とっとと抱きつくなり暴言を吐くなり挑発するなりやってみやがれ! ちょうどおめえが好みそうな年頃だろうがよっ! ガキが大好物だろうがおめえは!)


 おくびにも出さないが、ひどいことを考えているスカリーだった。

 しかし。

 

 「まあまあまあまあ! ローザちゃん! わたくしはマイデッセ・アフレリレン。通称はマイディです。このバスコルディア教会でシスターをしております。どうぞお見知りおきを」

 

 そのままローザと同じように深々と頭を下げる。

 まるで普通のシスターのように。

 

 (なにぃ! どういうこったよ⁉ なんでおめえがそんな普通の対応してやがるっ! 期待してるのはそういうのじゃねえぞ! いつも通りに馬鹿やってくれよ!)


 予想外の反応。あまりにも普段のマイディからはかけ離れている。

 丁々発止(ちょうちょうはっし)スカリーとやりあった後なので今一つ乗り気ではないということはないだろう。

 完全に予想外。想定にない事態にプランの変更を即座に加える。

 

 「こっちはハンリ。マイディの後輩だよ。年も近いから仲良くしな」


 「あ、あの……よ、よろしくお願いします」

 「こ、こっちこそ……」


 ハンリに関しては予想通りだったのだが、スカリーは計画に修正を加えるのに夢中で気づかない。

 ハンリの顔には初対面とは違う緊張感が漂っていることに。

 

 (マイディに馬鹿やらせる方法、方法、方法! くそ、頼んでもねえときには嬉々としてやるくせに期待してるときにはやらねぇとは! 本当にこの腐れアマは!)

 

 毒づくことに夢中のスカリーはやはり気づかない。

 マイディがにっこりと笑ってローザを観察していることを。

 

 「……さてスカリー。ちょっとローザちゃんを借りますよ?」

 「は?」

 「いいからいいから。わたくしに任せてくれてればいいんですよ。ここでちょっと待ってなさい。すぐに戻ってきますから。さ、行きましょうか」

 「え、ちょっと、アタシは……」

 「ハンリちゃんもいきますよ。一名様ごあんなーい」

 

 困惑するローザの手を引きながらマイディは奥の居住スペースに消えていく。 

 呆然と、スカリーはそれを見ていた。

 なぜかこっちに親指を立ててから消えていったマイディを怪訝に思いつつも。


 「……どう、なってやがる?」


 何かがおかしい。

 具体的に何が、と問われれば『すべてが』と答えるしかないのだが。

 手持無沙汰になってしまったスカリーは倒れこむようにして長椅子に座る。

 

 (……なんなんだよ……全部変だ。どこかの歯車がかみ合ってねえ。どうしてこんなに妙なことが連続しやがる。一つ二つならともなく、こんなに連続してるのはおかしいだろうが。……いや、まてよ?)


 ふと、ひらめいた。

 

 (マイディのやつ……実はローザを気に入ってたんじゃねえのか? 最初の印象で最大限に警戒されないように猫被ってやがった……で、今はどこぞに連れてってる。……多分マイディの部屋だろ。部屋なんぞに連れ込んでどうするんだ? 決まってら。……襲うだろ。若い男女……マイディは女か。まあ、どっちもいけるから同じことだ。それが狭い部屋の中。……は! こいつァいいぜ。願ってもねえ。予想以上に働いてくれるじゃねえかよマイディ!)


 「……く、くく……くくく……」


 漏れる笑みを抑えきれない。

 なるほど、そう考えてみればマイディの言動にも多少の納得がいった。

 

 (最後の親指は『これからしっぽり決めてやるよ』ってことか。いいぜ、ごゆっくり。ハンリが襲われねえ限りは俺は動かねえからよ)


 やっとこのどうにももやもやとした状態から抜け出せる。

 そう考えると、やっと人心地つける。

 

 「あ……酒」


 今日は持ってきていない。

 ローザを連れてくるのが目的だったので、余計な荷物は持てなかった。

 

 (まあいい。……俺はハンリの悲鳴が上がらなきゃ動かなくていいんだから、な)


 そう考えて、スカリーは完全な脱力状態へと移行した。


 死体のようにスカリーがぐったりし始めて十五分後。

 

 「お待たせしましたスカリー! さあ! 刮目(かつもく)しなさい!」

 

 ドアを蹴り破るような勢いでマイディが戻ってきた。

 

 「……あん? どうした? 逃げられたのか? まあ無理もねえ。おめえのやり方は狩りみたいなもんだからな。獲物は逃げるもんだ。次の教訓にしな」

 「何を言っているんですか貴方は? お化粧が終わったんですよ」

 「化粧だぁ? 誰のだよ? 今度はどこのどいつのをぶっ殺しやがった」

 「? 死に化粧じゃなくて普通のお化粧ですよ。ローザちゃんのに決まってるじゃないですか」


 「…………なんだと?」

 

 「じゃじゃーん! 二人とも入っていいですよ!」


 言われたことが理解できないスカリーは気にせずにマイディがドアのほうに呼びかける。


 先に入ってきたのはハンリ。こっちは普段通りだったし、化粧もしていなかった。

 しかし、ハンリに手を引かれて入ってきたローザは違った。


 パサついていた毛先は整えられ、キレイに結い上げられてる。

 多少荒れた状態だった肌も、きれいに白粉(おしろい)が覆って白い肌を際立たせている。

 頬紅と口紅をしっかりとひいて、やや血色が悪かったがゆえに不健康そうだったイメージが一新されていた。


 少女から大人の女へと変貌する過程にある、真っただ中。

 女の人生の中でもこの時期だけしか発揮されない、一種の異様な色気を放っている。

 美しい蝶へと変化したローザは、はにかみながら尋ねた。


 「どうかな……スカリー。アタシ、きれいかい?」

 

 一方、混乱の極みにあるスカリーはこう返した。

 

 「……なんで……そうなるんだよ」

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