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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
真実の探求者
40/98

無法者とともに

 6


 銃声銃声銃声銃声銃声。

 

 スカリーの連射によって一気に三人が塀から叩き落される。

 一人は額で銃弾を受けて即死だった。

 

 「マイディ! あと十だ! 塀の向こう!」

 「オーケー! 任せてください!」


 弾丸のような勢いでマイディは駆ける。

 その先には生物が触れると強烈な粘着力を発揮するという塀がある。いや、あった。

 

 「とうっ!」

 

 軽々とジャンプ一発でマイディは向こう側に着地すると、そのまま近くにいた男に切りかかる。


 重量のある山刀が、肉を引きちぎるようにして切り込み、致命傷を与える。

 いきなり現れたマイディに、塀の向こうで待機していた男たちはひどく動揺していた。

 十人近くの数がいたのだが、そのほとんどはいまだに武器も抜いておらず、半数は鉤付きのロープをたよりに塀を登ろうとしていたところだったのだ。


 「あと九人」


 一撃で致命傷を与えたマイディは次の獲物に向かって疾走する。

 突然の事態に対処できない二人目は一人目と同じように一振りで頭を割られる。

 

 「あと八」


 血の糸を引きながら山刀を引き抜き、マイディは凄絶に笑う。

 恐怖という原始的な感情を与えるのには十分だった。


 「……派手にやりやがる」


 塀の向こうの音を聞きながらスカリーは呆れる。

 どんな武装をしているのかわからないうえに、数も不明の敵の中に単身で突っ込んでいく。絶対的な自信がなければ絶対に実行できないし、そもそも実行できたとしても犬死するのが相場、のはずだった。

 

 しかし、音を聞いていると上がっているのは男の悲鳴だけ。

 どうやら、マイディはものともせずに次々に片づけているらしかった。


 心配することもないかと考え、スカリーは自分が担当すべき本題のほうにかかることにする。

  

 ハンリと一緒に二人の決闘を見守ろうとしていたジョリコ。その額に弾薬を再装填した拳銃を向ける。

 

 「スカリー⁉」

 「離れてなハンリ。その野郎は斥候(せっこう)だ。俺たちの動向やら能力やら、罠の有無を調べるために来たのさ」

 「えっ⁉」

 「いいから離れろって。外はマイディが片づけてるから俺のほうに来い。人質にされても面倒だしな」

 

 一瞬だけハンリはスカリーを信じたほうがいいのかどうか迷ったのだが、初対面のジョリコとスカリーを比較したのならば、信頼に足るほうは明白だった。


 「いい子だ。そのまま動かないほうがいい。野郎がやけになったときにどうなるかわからねえしな。……さあて、いろいろと疑問があるだろうな新聞記者。聞きたいことは教えてやってもいい。冥土の土産にな。あるのかは知らねえが」

 

 かちり、と撃鉄を起こしてスカリーは告げる。

 最後通牒を。いくらもしないうちに殺すという予定を。


 「…………な、何を言っているんですかスカハリーさん? ぼ、僕は純粋にあなたたちを取材するためにたまたまここにやってきただけであって、何かの悪意を持ってやってきたわけじゃあ――」

 

 銃声。

 

 耳元を掠めた銃弾によって、ジョリコの言葉は強制的に中断させられる。

 

 「わかってんだよこのクソ野郎が。テメエ自身に盗視の魔法がかかってたんだろ? おそらくはそれなりの魔法使いがかけたんだろうが、トイレとかぬかして席を外したのは失敗だったな。その間に外と通信したのはわかってたのさ。……なんつってもこっちは魔力が見えるやつがいる。そんなとんでもねえ奴がいることなんて想定なんぞしやしねえ。だからこそ、テメエも失敗したんだろうがな」


 諧謔的に笑みを浮かべるスカリーとは対照的に、ジョリコは明らかに動揺していた。

 顔からは血の気が引き、おびただしい量の冷や汗が噴き出し始める。

 

「ああ、別にテメエがどうだとかじゃねえんだ。どうでもいい。俺もマイディも記事にされようが、陰口をたたかれようがしったことじゃねえ。賞金稼ぎなんぞやってたらそういう事態は避けられねえし、俺らも好き勝手に言ってるわけだしな。……ただ、殺す気なら、先に殺す。それだけのこった」


 銃口はぶれない。 

 まっすぐにジョリコに照準があった鋼の筒は、静かにおのれの活動の瞬間を待っていた。

 

 「……さて、一応聞いておきたいことがあるな。なんで手引きなんぞしたんだ?」


 純粋に疑問だった。

 新聞記者が、バスコルディアの中では比較的にまっとうな職業であるはずのジョリコがなぜスカリーやマイディを襲う人間に協力したのか。

 相応のリスクを背負うはずであり、実際にそうなっている。

 それに、もし気づかれなかったのだとしてもメリットがわからなかった。

 

 賞金稼ぎが襲われる。殺される、もしくは殺す。そういう当たり前の出来事を取材してなにになるのか? そういう動機のような部分がいまだに明確になっていない。

 性分として、気になってしまう。


 問いに、新聞記者は答える。


 「『なぜ?』。そんなの決まってるじゃないか! 新聞記者は人々が飛びつくような情報が欲しいんだっ! 人間の生き死になんてものはありふれている? そんなことは知ったことじゃない! いいか、自分以外の不幸は面白くってしょうがないんだよ! 知性がある生物っていうのはそういうものだ! 僕はその欲求を満たすためなら何でもやって見せる! なぜならば、僕は新聞記者なんだから!」

 

 いままでのどこか気弱そうな青年の姿ではなく、熱病に浮かされている患者のような表情で、どこか陶酔した表情でジョリコは一気に叫ぶ。

 

 情熱。そう表現することもできたのかもしれないが、彼の場合は少し違っていた。


 「僕が書いた記事を人々は夢中になって読むんだ。だって、僕の筆先には不思議な力が宿っているんだから。なのに……なのになのになのにっ! 最近は少し、ほんの少しだけその力が落ちてきている! だからもっと刺激的な記事が必要だったんだ! 目の前で何人も殺されるか、それともとんでもなく強いやつが殺される事件っ! それを目の前で見て、克明に描写したらきっとこのバスコルディアの人々も貪るように読むに違いないよ! この街には確かに中央政府の法が適用されないけど、下の階層の存在っていうのは確実にいるはずだからね! 僕はそんな彼らに希望を与えるんだ! 弱者のための記事! それが僕の使命なんだからねっ!」


 哄笑。


 堰を切ったように本性をさらけ出すと。そのままジョリコはけたたましく笑う。

 いまままでの真面目そうな新聞記者の仮面は脱ぎ捨て、エゴイスティックな承認欲求を隠そうともせずに。


 笑う。笑う。笑う。

 いままで隠してきた本性を誰かにさらけ出すということがここまで爽快感を伴うとは思っていなかった。

 もしかしたら自分は人生で一番自分らしく生きているのではないだろうか、そんな疑問がふと、ジョリコの脳内に浮かぶほどに。


 「終わりましたよ。どいつもこいつも三流未満の大根ばっかりでした。わたくし、ちょっと不満です。この責任は取ってもらいますよ?」

 「早かったじゃねえか。あと、誤解を受けそうな発言をするんじゃねえよ」


 いつの間にかマイディが戻ってきていた。

 その両手には血で染まった山刀が握られている。


 「で、あれはどうしますか? 一応は新聞記者らしいですし、逃がしますか? わたくし、あんまりあることないこと書かれるのは嫌ですし」

 「んー、どうしたもんか」

 「困るなぁ! ここは逃げるよ! だって僕にはこの事件を記事にするという使命があるんだから! そして、いつの日か君たちの死にざまをっ! この手で記事にしないと!」


 ハンリにはジョリコのこの後の運命が決定した音が聞こえたように思えた。

 まるで天上に上った魂が受ける審判で打ち鳴らされるという木づちのような音が。


 銃声。

 

 「……え?」


 じわり、とジョリコの腹部が徐々に血に染まり始める。

 少し遅れて、鈍痛がやってくる。

 少しずつ少しずつ、その痛みは強くなり、わずか数秒で立っていられないほどに。


 「な、なんで? なんで僕を撃つんだ……だって、だって僕は使命があるんだぞ?」


 混乱する頭でぶつぶつとなにかをつぶやく。

 即死にはいたらなかったが、四十四口径の弾丸は内臓をずたずたにして――人体にとっては致命的な損傷をもたらしていた。

 

 膝をついたジョリコは、いつの間にかスカリーが近づいてきていたことを知る。

 靄がかかりつつも、痛みによって強制的に覚醒させられている意識は思わず顔を上げさせた。


 「使命だのなんだのうっせぇんだよ。単にテメエがちやほやされてぇだけじゃねえか。どんな言葉で飾っても変わらねえ。その辺で管巻いてるやつらと同じさ」

 「なに……!」

 「自分でコトを起こしてそれを記事にしようだなんてアホのすることだ。知ってるか? 自作自演っていうのはな、バレた時にはぶっ殺されるって相場が決まってるのさ」


 今度はしっかりと額に照準する。

 先ほどはわざと外した。

 しかし、今度はきっちりとやる。


 「お前らと……僕が一緒のわけがないだ……ろうが! 僕は、僕は新聞記者なんだぞ」

 「じゃあ生き返ってみな、便所紙野郎」


 銃声。


 額を撃ち抜かれたジョリコは白目をむいて倒れる。

 ぴくりとも動くことはなく、完全に死んでいた。

 

 「あら、殺しちゃったんですか? てっきり色々と恩を売っておくのかと思っていたんですけど」

 「こういう手合いには恩は売れねえよ。妄想癖があるやつは助けてやってもいつか恨んでくるからな。きっぱりと関係を終わらせとくに限る」

 「そういうものですか」

 「そういうもんだよ。……あぁ、穴を掘らねえと。このアホの死体を放っておいたらドンキーにぶん殴られるぜ」

 「面倒くさいですねぇ。ちゃんと棺桶ぐらいは用意してきてほしいものです。わたくしが押し込んで差し上げるのに」

 

 ただの死体になった新聞記者は、ただの死体として扱われた。

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