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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
真実の探求者
38/98

無計画とともに

 4

 

 「いましたよ。ゴミの中なんぞに隠れているから正直近寄りたくなかったんですけど、仕方なく連れてきました。こんなにわたくしは働き者なのに、なんで世の中は冷たいのでしょうか。きっと神の与えられた試練だと思うことにします。そうしないとやってられません」


 肩に担いでいたジョリコをスカリーの目の前に投げ出しながらマイディは愚痴る。

 投げられた方にとってはそんな事情はどうでもよかった。

 現在のジョリコの状態はというと、着ていた服をバラバラにされ、それによってより上げられた紐によって手足を縛り上げられている。

 両手両足をまとめられているので、見ようによっては丸焼きにされる寸前の豚に見えないこともない。状況としても大差なかった。


 「……誰だそいつ? おめえがぶっ殺したやつの親戚かなにかか? だったらおめえが処分しな。俺には関係ねえ。そして、二度と厄介事を持ち込まないようにドンキーにぶっ飛ばされてこい」

 「あら、わたくしはぶっ殺……こほん。神の御許(みもと)に導くときには後腐れ無くやってますから感謝こそされど恨まれる覚えはありませんね」

 「よく言うぜ」


 拳銃をしまってからスカリーはジョリコに近づく。


 きっちりと猿ぐつわをかまされているので喋ることも叶わず、もぞもぞと蠢いているだけの人間。スカリーからみたジョリコはそういうモノだった。

 もごもごと先程からしきりに何かを言っているようだったが、生憎と言葉になっていないのでスカリーには理解できなかったし、猿ぐつわをされている人間の発音を正確に読み取るような技能も持ち合わせてはいなかった。

 黙ってスカリーはナイフを取り出すとジョリコの口を、塞いでいる布きれから解放してやった。


 「ぶはっ! な、何をするんだ⁉ いくらここが無法都市だと言ってもやっていいことと悪いことがあるっていうことを――がっ!」

 「黙りな。テメエは馬鹿みてえに俺達の質問に答えていたらいいんだよ。それ以外の行動をした場合は寿命がチーズを削り取るみてえに減っていくからな。ちなみに俺は(かたまり)を一気にひっぺがすのが好きだ。どうでもいいことだがな」


 叫びだしたと同時に叩き込まれた拳によって強制的に沈黙させられ、その上に脅しを受ける。常人ならば、もしくはバスコルディア以外の住人ならば震え上がってしまうようなシチュエーションである。


 だが、ここで引き下がるようではこの場所では食い物にされるだけ。仮にも記者としてやっているジョリコも間違いなく『住人』だった。


 「……取引しよう。僕はできうる限りそちらの望む報酬を払う。だからとりあえずは手足を解放してくれないかな? ちょっとばかり痛くなってきた」

 「俺は『質問に答える以外に口を開くな』って言ったんだが、伝わらなかったか? ならもっとわかりやすく――余計なコトを言ったら端から刻んでいく」


 ぎらりとナイフが光る。 


 良く研がれているようで、間違いなく殺傷用の形状だ。

 それがジョリコの喉元に突きつけられる。

 それでもジョリコは、新聞記者は確信していた。自分の寿命はまだまだ残っていることを。


 脅すということは――換言すれば即座に殺さないということは、何かしらの利用価値があると判断されているということだ。人質にする? それはない。なぜならばジョリコは一人でこの取材に来ているし、その情報を目の前の男が持っているはずもない。


 では金銭か? 即座に否定。

 そもそもどれだけを持っているのかが分からない上に、持っているカネ程度ならばとっとと殺すなり気絶させるなりして奪った方が合理的だ。現状と照らし合わせるとそぐわない。


 ということは、情報。


 「――テメエは何者だ? なんでこの教会に盗視なんぞかけやがった。素直に答えたほうがいい。俺は男の悲鳴なんぞ聞きたくもねえし、おめえも上げたくねえだろ」


 内心ジョリコはほくそ笑む。


 予想は的中。さらに、スカリーが殆ど情報を持っていないという事実も確認できた。

 状況は不利だ。非常に不利で、非情なほどに危うい。

 しかし、この程度の命の危機などはいくらでも転がっている。最悪、その辺の酒場で呑んでいるだけでもあり得る程度の危険でしかなかった。


 「僕はジョリコ。ジョリコ・アリコン。バスコルディア新報の新聞記者をやっているんだ。どうにもそういう人種ってヤツは面白そうなヤツとか、物騒なヤツ、滅多に見られないヤツ……あとは怖がられているような存在に近づいて、取材して、記事にまとめたくなってしまうんだよ。本能的な行動なん――」

 「その辺にしときなおしゃべりブンヤが。黙ってペンを握ってせこせこデスクで原稿でも書いてるのがお似合いだぜ」


 ジョリコの喉の皮膚にナイフの先端が触れ、流石に黙る。


 「あら、新聞記者なんですね。わたくしはてっきりゴミの中に籠もるのが趣味の変人かと思っていたんですけど」

 「どんな変態だよ、そりゃ。……とにかく、質問その二だ。なんでここを取材しようと思ったんだよ。その辺のアホでもとっ捕まえて聞きまくったらいいじゃねえか。この辺にいるような奴らは馬鹿か真正の馬鹿しかいねえぜ」


 「馬鹿なことを言わないで欲しいな。バスコルディア新報は常に最先端を行っていないといけないんだよ。その辺のごろつきを捕まえて取材する? そんな程度で記事になるわけがないだろう。僕を舐めないでほしい! これでも僕は記者という職業に誇りを持っているんだ。そんな僕は取材対象も当然選ぶ。選り好みする。さらにはその上で厳選――」


 数センチナイフが離れたことで一気呵成にまくしたてるジョリコだったが、再びの鉄の感触であっけなく沈黙した。


 「……マイディ、俺は頭が痛くなってきた。替わってくれ。アホの相手は手慣れたもんだろ」

 「まあ、根性なしですねえ。信仰心という絶対的な加護を得ていないスカリーでは仕方ないのかも知れませんけどね。ふふ、わたくしの見事な質問術を御覧に入れましょう。あ、言っておきますが、門外不出の秘伝みたいなものですからね? 真似したらいけませんよ?」

 「できるわきゃねえ」


 肩をすくめてスカリーはマイディと入れ替わるように移動する。

 先程の不機嫌そうな様子のスカリーとは違って、マイディはにこにこしていた。

 尋問するという行為からは遠すぎるぐらいににこにこしていた。


 「ハンリ、耳を塞いで向こう見てな」

 「え? な、なんで?」

 「気分が悪くなる」


 戸惑うハンリに無理矢理耳を塞がせ、マイディに『質問術』を施されてしまうジョリコが視界に入らないようにする。ついでにスカリーも今日の新聞を拾い上げてその文字を追い始めた。


 「まずは親指からいきましょう。天に座さるる我らが神よ、この不肖の信徒にどうかご加護を」「は? 親指? ちょ、ちょっとまっギャァァァァァァァ!」「はい次」「お、お前! や、やめ、止めろ! 止めてェアアアアァァッァァァ!」「うーん。なかなか粘りますね。こうなったら思い切って三本目いきましょうか。根性入っているといえますけど、あまり無理はよくないですよ。指って治るのは時間がかかりますからね」「なん、なんなんだよォ! 一体何が聞きたいんだァァァアッァァァァ!」


 三本。あっという間にジョリコの左手の指はへし折られ、使い物にならなくなってしまっていた。


 「あら、そういえば何を聞けば良いんでしょか? わたくし、考えていませんでしたよ。うっかりうっかり」

 「アホか。いや、アホだったな」

 「んまっ! スカリーはバスコルディア教会式教育術を希望しますか? 未だに司祭様から受けた心の傷が治っていませんし、その分の八つ当たりも兼ねてやってあげますよ」

 「とばっちりも良いとこだぜ。んなことよりも、だ。問題はそのアホがなんでココを狙ったのか、っていうトコだろうがよ。忘れてんじゃねえよ」

 「? さっき言ってたみたいにわたくしがあまりにも美麗で華麗で端麗で見目麗しく、強くしなやか強靭無敵、向かうところ敵なし、歩く後には更地が広がる準最強だからじゃないですか? ちなみに最強は司祭様ですよ」


 深く深くスカリーは嘆息する。まるで自分のペットが料理を盛った皿をひっくり返してしまった主人のように。物覚えの悪い飼犬をどうやってしつけたいいのか考えを巡らせる人間のように。


 「……おめえの自己評価がどうなってるのかなんて知ったことじゃねえんだが、ちっとは脳みそを使って行動しな。俺もおめえも時間が無限にあるわけじゃあねえし、そもそも危険が迫ってるのかもしれねえんだからよ」

 「危険? 危険とはなんですか? 怒った司祭様がわたくしに天罰と称した体罰を与えることですか? それは確かに危険ですね。このしょぼくれた男をとっととぶっ殺して逃げましょう」


 さらりと出てきた『殺す』という単語にジョリコは凍り付く。

 いくら何でもそこまで簡単に殺人に踏み切るとは思ってもみなかったし、ついでのように殺されてしまいそうになっているという事実が衝撃的だった。


 「た、たのむ! 殺さないでくれ! 何が望みなんだ⁉ 僕ができることならなんでもするから命だけは助けてくれっ!」


 これまで何人も同じような命乞いをして死んでいった。

 ゆえに、スカリーが抱いた感想は『代り映えしねえな』という身もふたもないものである。そこにはなんの感傷も存在しない。


 「なんでも、ねぇ。……ならさっさとゲロったほうがいいぜ。俺と違ってそっちのシスターは手加減も常識も知らねえからな。今日の晩飯がテメエの脳みそになったって何の不思議もねえ。……答えろ。わざわざこんなぼろい教会を『取材』に来やがった」


 ごく自然にスカリーは拳銃を抜いてジョリコの脳天に突きつける。

 もし、幸運なことに一発をどうにかして免れたとしても、続く第二、第三の発砲を交わすことは不可能に近い、というか不可能である。

 そもそも、両手両足を縛られて身動きも満足にできない現状では初弾が命中する確率さえも百パーセントに極めて近いだろう。例外はスカリーが突然死するぐらいである。

 

 奇跡のような確立にかけた上でマイディに殺されるよりも、白状することにした。本来ならば目的を達成するまで秘匿しておくべき事実を開陳することにした。


 「じ、実は……とあるごろつき達がこの教会の襲撃計画を立てているということを聞きまして……あわよくばその現場に居合わせることによって記事になればいいな……なんて思っちゃったり、しなかったり」


 十分に、それは十分にスカリーを呆れさせる理由たり得た。

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