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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
フェイク・フェイス・ファクト
25/98

残酷ファクト

 6


 コルクエントは待っていた。


 自分にケチをつけようとしていた愚か者共を抹殺したという報告を。

 決闘場内部の入り口にある小さな小屋の中で、優雅にワインを傾けながら待っていた。


 土を踏む三人の足音が聞こえてくる。

 三人が帰ってきたことを確信して、懐中時計を取り出す。

 開始の合図から一時間も経っていない。


 やはり自分は間違っていなかったのだと確信する。

 このまま上手く事が運べば『明けの開拓団』の名声を利用していくらでも金儲けができる。そのように考えると、コルクエントの胸中は(おど)った。


 ドアがノックされる。


 「開いている。入りなさい。諸君らの新しい武勇伝を聞かせてもらおうかな」


 グラスを揺らしながら鷹揚(おうよう)な態度で返答すると、ドアが蹴り開けられた。

 いや、正確には蹴り壊された。


 「やあ。覚悟はいいかな?」


 最初に入ってきたのはドンキーだった。


 「あら、良い物を呑んでますね。頂きます」


 次に入ってきたマイディはめざとくワインが上物であることを察知すると、素早く奪った。


 「まだクソ漏らすには早えぞ、たっぷり後悔させてやる。テメエが生まれてきたことを後悔して自分から殺してくれるように懇願(こんがん)するまで痛めつけてやる」


 最後に入っていたスカリーはすでに弾薬を装填した拳銃を抜いている。


 「ひ、ひぃぃぃいっ⁉」


 予想だにしていなかった事態にコルクエントは混乱する。

 三人とも全くの無傷である。

 そして、この開始地点に来ているということは、自分の仲間達が全滅したことを示していた。


 「な、な、なんでぇっ⁉」


 銃声(バン)


 四十四口径の弾丸がコルクエントの耳を掠める。


 「喋って良いのは俺達が許可してからだ。それ以外にテメエが出来るのは祈ることだけ。漏らすのも許さねえ。漏らした瞬間、後ろにいるシスターが尻をスライスしてくれるからな」


 いつの間にか背後に回っていたマイディがコルクエントの背中に山刀を突きつける。

 怪我をしない程度に押し込んで、きっちりと準備が整っていることを知らせる。


 「……ぁ……ぅ……」


 銃口の先はしっかりとコルクエントを捉えており、忠告に従わなければ容赦なく発砲するという意思がひしひしと感じられた。

 ゆえに、何も言えない。


 詐欺師であるこの男には、尋問されるという経験は初めてだった。

 潜った修羅場は少ない。

 そして、打開するだけの能力も無かった。


 「さあて、尋問の開始だ。まずはテメエの目的はなんだ?」


 適当に見繕った椅子をコルクエントの前に置き、スカリーは座ってから尋ねる。しっかりとこめかみに銃口を突きつけた上で。


 「……は、はひ……は、は……」


 かちん、という音が撃鉄の起こされた音だということぐらいはコルクエントにも理解できた。後は数十グラムの力が引き金に加われば、問題なく弾丸は発射される。


 「五……四……三……」

 「金儲けですぅっ! 明けの開拓団の名前を使ったら金儲けできると思いましたぁっ!」


 突如開始されたカウントダウンというプレッシャーに負けてあっさりと口を割る。


 「ホントか?」

 「本当ですっ! 誓って嘘は……」


 銃声(バン)


 こめかみからつま先に照準を変更したスカリーの拳銃は見事に足の親指だけを吹き飛ばしていた。


 「……ぎっっっぁあぁぁぁあああああああ⁉」

 「騒ぐんじゃねえよ。テメエの声は耳障(みみざわ)りなんだ」


 再びこめかみに銃口が密着する。

 熱を帯びた金属が肌を焼くが、スカリーの目が完全に据わっているのを見てコルクエントは沈黙する。


 「嘘じゃねえな?」

 「本当ですっ! ほんどうなんでずッ! 信じてぐだざいィィィィ」


 涙と鼻水を垂れ流しながら懇願する。


 「だとよ。どう思う?」


 マイディとドンキーに尋ねる。


 「本当なんじゃないですか? わたくしカンは鋭い方なのです」

 「これで吐かないような根性があるようには見えないね」


 二人とも肯定だった。

 スカリーも反応から嘘は言っていないと判断する。


 「じゃあ、次だ。俺達が片付けたあの三流どもはどこの馬の骨だ?」

 「他の街の賞金稼ぎでずっ! たまたま腕の立つのがいたので今回の計画に参加させまじだっ! 嘘じゃないでずっ!」


 精一杯に声を張り上げているのでコルクエントの喉はすでに張り裂けそうになっているが、それでも声量を絞ろうとはしなかった。

 良く聞こえなかったという理由で更に撃たれる可能性もあるからだ。


 「腕の立つ、ねぇ。あれならその辺の蜥蜴族(リザーディ)のほうがまだ手強いぜ」

 「はいっ! クソの役にも立ちませんでしたぁっ!」


 もはや死んでいるので、けなすことには何の痛痒(つうよう)も感じなかった。ただ、自分が少しでも生き残る可能性を高めるためだけに同調する。


 かちん。


 再び撃鉄が起こされる。


 「これが最後の質問だ。終わったら解放してやる」

 「ほ、ほ、本当ですかっ⁉」

 「ああ、本当だ。で、質問なんだが……遺言はなんだ?」

 「…………は?」


 突然の死刑宣告にコルクエントは固まる。

 つい今し方、生きる光明が見えたと思ったのに、なぜ再び目前に死が迫っているのか。

 なぜ、目の前の男は全く銃口をどけてくれないのか。そういった類いの疑問によって頭がいっぱいになる。


 「……残念、時間切れだ」

 「ま、待ってく……」


 銃声。


 側頭部から侵入した弾丸は脳をぐちゃぐちゃにかき回し、いくらか砕けた状態で反対側から脱出した。破片がいくつか砕けて残り、例え即死を免れたとしても致命傷になる。

 ぐるんと白目を剥いて、詐欺を働こうとした男はこの世から解放された。


 「ったく、クソみてえな理由だったな。……死体もバラバラにしとくか?」

 「やめておいた方がいい。無駄に(はずかし)めることはない。ツケは払わせたんだろう?」

 「へいへい、司祭様はお優しいぜ」


 椅子を死体の上に重なるように蹴り倒しながらスカリーは立ち上がる。


 「さあて、戻ろうぜ。ハンリがいい加減にしびれ切らしそうだ。いつまでも神に祈らせとくのもきついだろうしな」


 とっとと戻ろうとするスカリーとドンキーだったが、出口の前でマイディが道を塞ぐ。


 「何やってやがる。さっさと出ろよ」


 片付いたので比較的穏やかにスカリーは声をかける。

 が、マイディは少しばかり真剣な顔だった。


 「スカリー、司祭様。わたくし、なぜ二人が今回の件に首を突っ込んだのかが理解できないのですよ。こんなちんけな詐欺師なんて放っておいたらいいでしょう?」

 「あー……」「ふむ……」


 二人が言い(よど)んだのを見て、何か事情があることをマイディは察する。


 「事情を説明してくれないなら、わたくし駄々(だだ)をこねますよ。しかも、ハンリちゃんと一緒になって。恥も外聞もありません。」


 ドンキーならば『説得』するのも可能ではあったが、ハンリも巻き込むつもりとなると話が変わってくる。

 ドンキーとしても、ゴートヴォルク家とのトラブルは避けたかった。


 「……仕方ない。説明しよう」

 「おいっ、ドンキー!」

 「スカリー。この先ずっとシスター・ハンリッサとシスター・マイデッセに駄々をこねられても平気かね? 私は無駄に疲労したくない。秘密の一つぐらいはいいだろう」

 「……ちっ」


 ふてくされたようにスカリーはそっぽを向き、ドンキーは咳払いを一つ。


 「実は私もスカリーも『明けの開拓団』の元団員だ。しかも解散時にいた。私が“破壊者”でスカリーは“双刃”だね」

 「…………………はい?」


 突然すぎる宣言に流石のマイディも硬直する。


 「ついでに言うと、キミが戦ったことがあるリリゼットは“黒影”だ」

 「…………」

 「まさか今更になって私達の名前を利用されるとは思ってなくてね。こういう輩には手荒に処理することにしているんだよ。私としても自分達の偽物が大手を振って歩いているのは不愉快だしね。……ん? シスター・マイデッセ?」


 反応がないマイディをいぶかしんでドンキーが声をかけるが返事はない。

 スカリーがひらひらと目の前で手を振っても反応はなかった。


 「気絶してら」

 「……精神的ショックには意外と弱いね」






 「はっ! わたくし、一体何を?」

 「やっと気がついたかよ。世話の焼けるヤツだ」


 マイディはスカリーの背中で目を覚ました。

 未だに決闘場の中心あたりである。


 「ちょっと白昼夢をみてしまったようですね。スカリーと司祭様が『明けの開拓団』の団員だった、なぁーんてちょっと無茶が過ぎますよ。あはははは……」


 けらけらと笑おうとしたマイディだったが、微妙に乾いた笑い声だった。


 「夢ですよね?」

 「夢じゃねえよ」

 「夢じゃないね」


 「ああぁ! 嘘です嘘です嘘ですっ! 『明けの開拓団』の団員はもっと紳士的でかっこよくて優雅で優しくって趣味の良い方達のはずですっ! わたくし認められませんっ‼ こんな罵倒としごきに自分の能力を無駄に消費している人達がわたくしの理想だっただなんてぇ‼」


 「……このアマ……」

 「理想は自由だがねえ。……あとでこれはバスコルディア教会式悔い改め術その五を(ほどこ)す必要があるかもね」

 「ほらぁ! ソレですよ! そういうところ!」

 「ほざいてんじゃねえよ。とっとと降りろ」

 「きぃぃぃぃぃいっ! スカリーも何か言ってやってくださいよ!」

 「俺が言いたいのは一つだ。自分で歩きやがれ」


 喧々諤々(けんけんがくがく)といった調子で三人は歩いて行った。


 

 


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