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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
フェイク・フェイス・ファクト
24/98

ダブル・アンド・ダブル

 5


 警戒はしつつも、軽やかな調子でマイディは進む。

 周囲にあるのは廃墟と化した建物ばかり。今のところ何からの気配もなかった。

 ゆえに山刀マシェットも抜いておらず、しかしながらいつでも戦闘状態には移行できる心構えで。


 風が吹く。

 わずかに土埃が巻き上げられるが、特に不自然な点はなかった。


 (……司祭様、は心配しませんけど、スカリーはどうでしょうねぇ。相手の素性は今のところ不明ですけど、一般人ではないでしょうし。貧弱軟弱虚弱の三重苦スカリーだとちょっとわかりません)


 基準が自分なのでマイディの評価はずれている。もちろん、気がついていない。


 (……ふむ。急いだほうがいいかもですね)


 銃身切り詰め散弾銃ソウドオフショットガンを取りだし、狙いをつけることもなく発砲した。


 銃声(ドパン)


 派手な音が響くが、何も反応はない。


 「うーん。こっちにはいない、のでしょうか?」


 マイディの背後、朽ち果てかけている建物の影が波打つ。

 水面から浮上するように、影の中から人が現れる。

 ぼろぼろの黒い布を全身に巻き付けた、性別不明の人物。

 クルフシュと紹介された人物だった。


 その手には短剣(ダガー)が握られている。

 足を止めて考え込んでいるマイディに狙いを定めると、その右手が閃く。

 短剣はまっすぐにマイディの頭に向かって飛翔し、(かわ)された。


 「あら、いましたね。……ええっと、誰でしたっけ? わたくし、ちょっと人の名前を覚えるのが苦手なんですよね。暗号名は覚えているのですけど。確か……黒窓(ブラックウィンドウ)でしたっけ?」


 短剣を避けられたクルフシュは素早く影の中に沈む。


 「……我……黒影(ブラックシャドウ)……(なんじ)……死すべし」 


 銃声。


 逃げ込んだ先の影に散弾が撃ち込まれるが、地面が抉れただけで手応えはない。


 「こそこそしてないでとっとと出てきたらいかがですか? 明けの開拓団の元団員なんでしょう? それとも……偽物ですか?」


 返答はなく、マイディの背後の影から短剣が投げられる。


 ギィン!


 空いていた手で山刀を引き抜いたマイディは見もせずに弾く。

 散弾銃を戻し、もう片方の山刀を抜きながらマイディはぐるりと周辺を見渡す。

 点在する影は多い。そして、障害物も。


 「こそこそするのがお得意ならば、引きずり出して差し上げます」

 「やってみせよ……女」


 沼底から響くような声音と共に再び短剣が投擲(とうてき)されるが、今度のマイディは弾かずに避ける。

 ギリギリで、そして、姿を現したクルフシュの元に雷のような速度で接近する。


 「……⁉」

 「遅い」


 襲いかかる山刀の一撃を辛うじて短剣で受け止めるが、すぐに逆の山刀が襲ってくる。

 影に潜むことが間に合わないことを察知したクルフシュは山刀をいなすようにして転がる。

 通りの中心、開けた場所へと。


 「さあさあ、逃げたいならどうぞ。その場合はわたくし容赦なく後ろから攻撃します」


 こすり合わせられた山刀が火花を散らす。


 「汝……愚劣。我……得意……乱戦」 


 黒布の隙間から細身の直剣が二振り現れる。

 逆手に持ちながらクルフシュは構えた。


 「東大陸……体術。……不敗」


 ぴくり、とマイディの眉が動く。東大陸の体術という単語に聞き覚えがあった。


 「ほほぉう、なぁるほど。そう聞いたらわたくし、ちょっとやる気がでてきましたね」

 「……不埒(ふらち)


 流れる水のような自然さでクルフシュは間合いを詰める。

 前傾した体勢から、切り上げるような斬撃を放つ。


 ギィン!


 肉厚の山刀はきっちりとその一撃を受け止めるが、すぐにもう一振りがマイディに襲いかかる。


 ギィン!


 「……これ、本気ですか?」

 「……(ぜつ)!」


 気合いの声と共に直剣が輝きを放ち、クルフシュの動きが加速される。

 上下左右四方八方からマイディに直剣が襲いかかるが、どれも弾かれるか避けられる。


 「えい」


 躍起(やっき)になって攻め続けたクルフシュの腹に槍のような蹴りが突き刺さる。


 「げぇぁ‼」


 胃の内容物をぶちまけながら黒布の塊は壁まで飛ばされ、そのまま叩きつけられた。

 衝撃でダメージが入るが、動けないほどではない。

 だが。


 「とんだ期待外れですね」


 すでにマイディは追いついていた。

 右手の山刀を振り上げて、今にも必殺の一撃を放とうとしている。


 「さようなら。正体不明の馬の骨」

 「ぐっ!」


 山刀が振り下ろされる。

 直前に直剣によるガードは間に合ったが、重量のある山刀は二振りの直剣をへし折りながらクルフシュの頭をかち割っていた。

 血の糸を引きながら山刀を引き抜き、マイディは嘆息する。


 「なんですかコイツ。外れですね。あの黒服女のほうが手強い相手でしたよ」


 目の前の死体は何も応えなかった。


 



 決闘場の中には大きめの建造物もある。

 古代の遺跡を再現しているその場所には数多くの柱が並び、訪れる者を威圧していた。

 そんな場所にスカリーはいた。


 すでに拳銃は抜いており、いつでも発砲できる。

 確信があった。

 この場所に何者かが潜んでいるという確信が。

 そして、それは女である。 


 (馬のションベンみてえな安物の香水だ。馬鹿でも分かるぜ)


 おそらくは、あの露出の高い格好をしていた女だろうという見当がついていた。

 双刃を自称していたあの女だという見当が。

 鋭い風切り音を捉えると同時にスカリーは伏せる。

 直前まで頭があった位置を曲刀が通過していった。


 「へーえ。ちょっとは骨があるみたいね。こういう関係にならなかったら良い酒が飲めたかも」


 鼻にかかった甘ったるい声が響く。


 「は、ゴメンだね。テメエみたいなクソ淫売(ビッチ)は豚相手にケツ振ってやがれ」

 「あん、つれないのね。残念、ちょっとはかわいがってあげようと思ったんだけど……気が変わったわ。さっさと殺してあげる」


 柱の影から半裸の女が出てくる。


 銃声(バン)。銃声。銃声。


 容赦なくスカリーは胴体に二発、頭に一発銃弾を撃ち込む。

 しかし、間違いなく命中したはずの女は平然と立っていた。


 「うふふぅ、狙いは正確だけど、ちょっと焦りすぎよ。アタシは双刃マーネロ・リネリア、この肌を傷つけることはできない。そして、アタシの双刃から逃れることも、出来ない」


 ぬらぬらと光を照り返す肌を見せつけるようにマーネロはくねくねと体を揺らす。


 「テメエの汚え汁は見たことあるぜ。たしか北方の少数部族が使ってるモノだ。弾丸を滑らせるほどのトンデモねえ代物で、門外不出の秘技のはずだがな」


 立ち上がりながらスカリーは冷静に考察した意見を述べる。


 「ふぅん。でも、知っててどうにかなるの? この防護油(プロテクションオイル)を突破するには大火力が必要になるけど、アンタは持ってないでしょ? 大人しく殺されなさい」


 マーネロが持つ曲刀が怪しく光る。

 ひゅん、という投擲音と共に、二振りの曲刀がスカリーに向かって飛ぶ。


 銃声銃声。


 二連射によって軌道を無理矢理変更された曲刀は床に落ちるが、マーネロは拾わない。

 ただ、軽く指を振っただけだ。

 それだけで曲刀は意思を持っているかのように空中を飛翔し、マーネロの元に戻る。


 「銃もダメ、剣もダメ。ふふ、()(すべ)がないってどういう気持ちかしら? 悔しい?」


 妖艶(ようえん)にマーネロが微笑むが、スカリーはすでに聞いていなかった。

 腰の長剣を引き抜き、一気に駆ける。


 「お馬鹿さん」


 再び曲刀が投擲される。 

 両側からスカリーを挟み込むように。


 「スラッシュ!」


 横薙ぎの一閃によって、曲刀は綺麗に割られる。


 「うそっ⁉」


 動揺するが、マーネロは未だに自信があった。

 纏っている防護油は物理攻撃に対しては無類の強さを発揮する。

 どんなに切れ味のいい剣でも刃先をずらされてしまってまともに機能しない。

 ゆえに、スカリーの接近を許した。


 「スラッシュ!」


 自分の体を通り抜ける剣の感触をマーネロは確かに感じた。

 それは、冷たく、固く、そしてどこか官能を含む衝動に近かった。


 視界が上下反転する。 


 (あ……れ?)


 不思議に思って足下を見ると、上半身がない自分の体が見えた。


 「じゃあな、ナメクジ女。(かた)ろうってんならもうちょっと下調べしけ。双刃は男だし、黒影は女だ。アバズレ」


 最後に罵倒されながら、マーネロの意識は消えていった。



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