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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
フェイク・フェイス・ファクト
23/98

デストロイヤー・カム

 4


 「な、何をやってるんですか! あの二人は⁉」


 悲鳴のような声を上げながらマイディはハンリを連れて二人に駆け寄る。

 一方、スカリーとドンキーはすでに壇上から認知されていた。


 「どこの熱心なファンか知りませんが、いえ、もしかしたらそうやって顔を覚えてもらってから新生明けの開拓団に入れてもらおうという算段でしょうがね、好戦的なのはよくありませんなあ」


 (あざけ)るような調子でコルクエントは返す。

 しかしながら、その程度でどうにかなるような二人ではなかった。


 「黙ってろこのクソ髭! ご自慢の髭を(むし)ってマンドラゴラを植えられてぇのか⁉ そして、そこのクソ共もだっ! 雁首(がんくび)揃えておつむも腕も三流ヘボのくせに吹いてんじゃねえぞ! テメエらのケツと口をつないで永遠にメシじゃなくてクソを食う羽目にしてやらぁ‼」


 かなり珍しい激高するスカリーだった。マイディも初めて見た。

 さらには、すでにドンキーは臨戦態勢になっている。抱擁(ほうよう)する直前のような構え。基本の構えだった。


 「ちょっとスカリー⁉ 何をやっているですか!」


 やっとのことで観衆をかき分けてきたマイディが二人と、壇上の四人の間に割って入る。


 「どけマイディ。この腐れ阿呆共には鉛をぶち込んで詐欺師から豚の餌に職変えさせてやる」

 「シスターマイデッセ。今回ばかりは少しキミが出る幕じゃない」


 なんとも冷たくマイディがあしらわれる。

 だが、そんなことは壇上には関係がなかった。


 「おんや、我々を詐欺師というからには、それなりの証拠というものがあるのでしょうね? それが無ければあなた方のほうが我々の活動を邪魔せんとする悪党ですがねぇ?」


 髭を撫でながらコルクエントが見下した視線を送りつつスカリーを挑発する。


 「はん、証拠ならいくらでも出てくるだろうが、手っ取り早くいこうぜ。一石二鳥の方法でな。……決闘だ。まさか明けの開拓団サマが逃げたり負けたりはねえだろ?」


 多少は頭が冷えたらしく、今度はスカリーが挑発するような態度でコルクエントに提案する。

 決闘。他の都市ではともかく、バスコルディアでは特に禁止されていない。決闘専用の場所まであるぐらいだ。

 ごたごたが起こったのならば基本的には当事者同士で解決する。どうしても不可能な場合で、決闘でもしなければ決着が付かない場合に用いられる。


 そして、その場所は現在地からそれほど離れていない。


 「……なるほど。いいでしょう。我々のちょうどいいデモンストレーションにもなる。その決闘、受けましょう。しかし、良いのですか? こちらは三人、そちらは二人。明けの開拓団の元団員相手には一〇倍の数でも厳しいと思うのですけどねぇ」


 整えた髭の先を弾きながらコルクエントは余裕の笑みを崩さない。


 「いいえ、こちらは三人です」

 「ほう、シスター殿が戦われる、と。もう少し賢明なお方だと思ったのですけどねぇ」


 はっきりとしたマイディの宣言に、コルクエントは嫌な笑みを浮かべる。生け贄が増えてうれしいというように。


 「おいマイディ、これは俺とドンキーの問題だ。おめえはハンリの護衛を忘れてんじゃねえ」

 「スカリーがここまでこだわるなんて初めてですよ。なにかあるんでしょう? わたくしとスカリーの仲です。後で事情は説明してください。それに、決闘場は申請した者以外は立ち入り禁止。司祭様に結界を張ってもらったら多少の時間ぐらいは大丈夫でしょう?」


 すらすらと言い淀むことなくマイディは述べる。

 スカリーも瞬時には反論できなかった。


 「ほほう、成程成程(なるほど)……皆様! 我々新生明けの開拓団はこの決闘を受けましょう! 彼らには手痛い教訓になるでしょうが、それも人生! 是非(ぜひ)とも我々の華々しい勝利を御覧ください!」


 ばっ! とコルクエントが大げさな身振りで腕を振ると、それに応えるように歓声が上がった。


 無法都市とは言っても、それほど派手な決闘が行われることは少ない。

 しかしながら、明けの開拓団の元団員対、二つ名持ちの有名人の決闘などというイベントならば、興味を駆り立てるには十分すぎるほどの材料だった。

 闘争の雰囲気に酔う観衆を見ることもなく、スカリー達は壇上の四人を睨んでいた。


 



 バスコルディア決闘場。またの名を『骨血(こっけつ)の沈む場所』。


 物騒な名前に負けることなく、その実態は血なまぐさい。

 数々の決闘がここで行われ、勝者も敗者も多くが死んできた。

 そんな場所の二つある入り口の内の一つ、そこにスカリー達は陣取っている。


 両者の間で取り決められたルールは単純だった。


 『全員が戦闘不能になるか、死んだほうが負け』


 途中退場は認められない。

 そして、すでに開始の合図は迫ってきている。


 「……防護領域プロテクションフィールド


 ドンキーの神聖魔法によってハンリの周囲三メートルほどが見えない壁に(おお)われる。


 「シスターハンリッサ。祈りを欠かさないように。この魔法はかけられた対象が祈る力によって維持される。ゆえに、キミが祈っている限りは金剛鉄(アダマンタイト)よりも堅いが、そうでないのならば紙よりも薄い」

 「は、はい。司祭様」


 やや緊張した面持ちでハンリは応える。

 護衛対象であるハンリを放っておくワケにはいかないので、決闘場に連れ込むという苦肉の策だったが、ちょうどいい魔法をドンキーが使えたのでどうにかなった。


 「ではここから動かないように。……さて、私達ほう行動方針を決めよう」


 ハンリからスカリーとマイディのほうに向き直る。


 「大体二つだね。固まって行動するか、ばらばらに動くか」

 「分かれたほうがいいでしょう」「散らばったほうがいいな」


 ほとんど同時にスカリーもマイディも同じ答えを返す。


 「ほう、その心は?」

 「タイマンでやりあってみたいのです。実力を示したいならば向こうも個人プレーになるでしょうし」

 「なるほどね。……スカリーはどうかな?」

 「……今日の俺はとびきり凶暴な気分だ。おめえらも巻き込みかねねえ」


 そっぽを向きながらも、はっきりとした返答だった。

 ニカリ、とドンキーは快活な笑みを返す。


 「それじゃあ自由に行こう。私達らしいね。じゃあ、シスターハンリッサはここから絶対に動かないように」


 軽く手を上げてから三人は動き出した。

 同時に、開始の合図である火薬が鳴る。


 「三人とも……怪我しないでね。神よ、彼らをお守りください」


 静かにハンリは無事を祈った。





 ざく、ざく、ざく、ざく。


 ドンキーは普段通りの様子で歩く。

 現在の位置はちょうど決闘場の中央付近だった。

 この辺りには障害物になりそうなものはない。単純な戦闘能力だけが問われる、そういう場所である。

 見晴らしもいいので、向こう側からやってくる人物もすぐに発見できた。


 (いわお)のような巨体。

 ドンキーのほうが背は高いが、横幅はほぼ等しい。

 ドグマン・ドーハンドと紹介されたいた男だった。


 お互いに無言で近づく。

 距離にして五メートルの地点まで接近すると、どちらとも足を止める。


 「ふん、図体だけはデカいみたいだが、この“破壊者”の俺と正面からやり合おうっていうのか? はっ! 度胸だけは一人前だ」


 鋭い殺気を飛ばすドグマンに対して、ドンキーは特に変わらない。普段通りに口を開く。


 「遺言はあるかね?」


 ごく自然な、まるで挨拶のような気軽さだった。

 だが、当然のようにドグマンの神経を逆なでする。

 想定ではもっと目の前の巨漢は怯えているか、自棄になっているかのはずなのだ。

 それなのに、全く動じた様子がない。


 「強がってんじゃねえよ。ええ? 分かってんだぜ? テメエがガタガタ震えてションベンちびりそうになってんのはなァ!」

 「それだけかな?」


 恫喝(どうかつ)が全く通用しない。

 ただ、抱擁する直前のように手を広げただけだ。


 「かかってきたまえ。その勇気があるのなら」


 逆に挑発されるという事態に、ドグマンの短い導火線に火が点く。


 「いいぜぇ……望み通りミンチにしてやるよっ!」


 ガラガラという奇妙な呼吸音と共に、ドグマンの肉体が鋼鉄のような色合いに変化する。


 「剛体呼吸法っ! 己の肉体を文字通り鋼とするこの技で、俺はありとあらゆるモノを破壊してきた! テメエもぺしゃんこだ!」

 「口上が長いね。鍛えているのは肉体じゃなくて弁舌(べんぜつ)かな?」

 「ぶっ殺す‼」


 まるで噴火で飛ばされた岩のような勢いでドグマンが叫びながら突進する。

 鋼鉄と同じ硬度を得た右腕で、ドンキーの頭を千切(ちぎ)り飛ばす勢いで殴りつけた。


 が。


 「早くしたまえ。それともキミのなんとか呼吸法とやらはこうやって撫でるための技なのかね? だったら転職をおすすめしよう。もっとも、もう不可能だろうが」


 左頬にモロに一撃を受けたドンキーはびくともしていない。

 それどころか、殴ったドグマンの右腕のほうがダメージを受けていた。

 素手で堅い物質を殴りつけたかのように皮膚が破れ、骨が(きし)む。


 「くぁっ⁉」


 予想もしていない事態に、距離を取ろうとした瞬間、殴りつけた右腕を掴まれる。


 ばぎり。


 いとも容易(たやす)く、骨まで砕かれる。


 「ぁがっ! が、がが……」

 「……その程度で“破壊者”を名乗るとは、少しばかり見識が狭いようだね。私が手本を見せよう。授業料はキミの命だ」


 ゆっくりと、ドンキーの右拳が握られる。

 痛みで混乱しているドグマンはそれに気がつかない。


 「今から殴る。できるだけ防御したまえ。出来るならの話だが」


 その言葉でドグマンはやっと握られた拳を認識し、全力で剛体呼吸法を発動する。

 火事場の馬鹿力というものなのか、今までで最上級の出来だった。


 「……では、死ね」


 (ごう)


 鋼鉄を凌駕するほどの硬度を獲得したはずのドグマンの頭は簡単に砕ける。

 さながら、ハンマーで叩かれた土塊のように。


 頭を失った肉体から力が抜け、地面に中身がぶちまけられてからやっとドンキーは手を離す。

 重々しい音を立てて首無し死体が転がる。


 「本物の“破壊”というのはこういうことだよ。来世ではもっと謙虚に生きたまえ。……あと、『明けの開拓団』の名前は使わない方が良い。本物に見つかったらこうなるからね」


 誰も聞いていないが、なんとなく言ってしまった。

 軽く手をはたいてからドンキーはまた歩き出す。


 「……さて、スカリーとマイディはどうなったかな?」


 答える者はいなかった。



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