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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
フェイク・フェイス・ファクト
21/98

ワッツザ明けの開拓団

 2


 「まぁず、このロンティグス大陸には元々移民が多い土地と言うことは知っていますね、ハンリちゃん?」

 「うん、知ってる。最初に西大陸、そして次に東大陸からの移民が来たんだよね?」

 「その通り。西からきた移民は北に、そして東からの移民は南に住み始め、今でも続く南北対立の構造はすでに下地が出来上がっていたのです」


 ピンと人差し指を立てて、マイディはまるで教師のように続ける。


 「その後には先住民との(いさか)いやら小競り合いやらが沢山あったのですが、このへんはスカリーが散々垂れ流しているので必要ないでしょう。問題はその先です」

 「先?」

 「そう、先住民とある程度の和解が成立し始めると、移民達は開拓に関心を移したのですよ。未だに前人未踏の地が多く存在しているロンティグス大陸ですから、当時の詳細不明地域は相当なものだったのでしょう。そして、開拓のためには障害を排除する必要がありました。危険なモンスター、過酷な自然環境、土地そのものに対する知識の不足を補うために発足した集団があります。それが『開拓団』なのですよ」


 簡単に言うならば、調査隊のようなものである。

 危険な領域を調査し、その情報を提供することによって報酬を得て日々の糧にする。


 数人のグループもあれば、数百人規模に及ぶ大規模なモノもある。基本的には荒くれ者の集団。それが開拓団の正体だ。

 もちろん、ハンリでもなんとなく耳にしたことはある。ゴートヴォルク家もいくつかの開拓団の後援者(パトロン)になっているし、そもそもその恩恵に大いに(あずか)っているのはゴートヴォルク家自身である。


 開拓団の調査によってもたらされた資源の情報などはいち早く抑え、調達のためのルートを独占している。

 ゆえに、まだ少女であるハンリも名前ぐらいは聞いたことがある開拓団もあった。

 しかし、明けの開拓団という名前は初耳である。


 「でも、聞いたことないよ。わたし」

 「当然です。一〇年前に突如解散してしまったのですから」


 立っていたマイディの指が折れる。

 まるで、当時の心境を反映するかのように。


 「解散してしまった開拓団の名前なんてものには価値がありませんよ。現状どれだけの能力があるか、それだけが開拓団の評価になるのですから」


 それを聞いてハンリは首を傾げる。


 「でも、マイディは明けの開拓団のことをしっかり覚えてるんだよね?」

 「当然ですっ! なんと言っても彼らはずば抜けていましたからね!」


 今度は拳が振り上がる。


 「明けの開拓団っ! 団長のコルゴア・マーキスト以外の団員の名前は現在でも不明ですが、解散時の団員の暗号名は分かっています。破壊者(デストロイヤー)精錬者(リファレンサー)記す者(ライター)黒影(ブラックシャドウ)二刃(ツイン・エッジ)六連射(ヘキサショット)、この七人だけで行われた秘密の解散式はどんなものだったのでしょうかっ⁉」


 興奮した様子のマイディに対して、未だにハンリは首を傾げている。


 「そんなにすごい人達だったの?」


 ぽつりと漏らしたハンリの当然の疑問に、マイディはすさまじい勢いでそちらに顔を向ける。

 まるで得物に飛びかかる直前の蛇のように。


 「すごいなんてものじゃありませんよ! 古代ズーラヌフ文明の遺跡発掘! 邪竜スクルスアルティの討伐! コマロの戦いの調停! 南大平野の発見! そのほかにも数えきれません。彼らがもたらした利益は計り知れないのですよ。その上に、実は中央政府の密命を受けて活動していたという話さえもあります」

 「それは……すごいかも」


 中央政府が一開拓団に直接命令を下したという記録はない。

 もし、秘密裏に指令を受けていたのだとしたら、それだけの信頼を得ていたということだ。ただの開拓団が。


 「あぁ、当時のわたくしは風の噂に聞く明けの開拓団にいつかは入ろうと思って日々鍛錬してました。……しかし、突然に彼らは解散してしまったのですよ。このわたくしの熱い想いは届かなかったのです。残念なことに」


 心底残念そうにマイディは悲嘆する。まるで昨日の事であるかのように。


 「……すごいのは分かった、気がする。でもなんで解散しちゃったんだろうね」

 「……それは、未だに不明です。団長であるコルゴア・マーキストは解散以後人前に姿を現していませんし、他の団員も暗号名しか分かっていません。誰もが知っているほどの功績を成し遂げた彼らは人知れず姿を消してしまったわけなのですよ。なんて謎めいているのでしょう」


 「……面倒事を避けたいだけだろ」


 我関せずの態度を取っていたスカリーが口を挟む。


 「まあまあまあ。スカリーったらジェラシーですか? いいんですよ? 普通の人間では、あのメンバーには嫉妬するか憧れるかの二択ですからね。可愛いところあるじゃないですかぁ」

 「そんなんじゃねえよ。けっ」


 帽子を潰すように抑えて、スカリーは乗り気ではないことを表明する。


 「そんな謎に包まれていた明けの開拓団のメンバーを拝めるかも知れないチャンスとあっては、わたくしはいても立ってもいられません! と、いうわけでちょっと出かけてきます」

 「詐欺に引っかかってキレるのがオチだ。止めとけ」

 「確かにっ! 詐欺の可能性は大いにあります。しかし、それでも、なお! 憧れの人物に会えるかも知れないという可能性に期待する乙女心が分かりませんか⁉」

 「おめえにあるのは乙女心じゃなくて野次馬根性だろうが。もしくは闘争心」

 「いーですいーですっ! 何を言われてもわたくしは行きますからね! 止めても無駄ですよ! そして本物だったら明けの開拓団のメンバーにしてもらうのですっ」

 「ハンリのことはどうすんだよ」

 「一緒に入れてもらいますッ!」

 「かける言葉が見つからねえぜ」

 「言葉は不要! 今は行動あるのみなのですよ! というわけで、わたくしちょっと見に行ってきます。この記事によると中央区で募集はやっているみたいですしね」


 椅子を蹴倒しながらマイディは立ちがり、そのままの勢いで教会の入り口に向かっていく。

 その手がドアを押し開ける直前、向こう側からドアは開けられた。


 「あら?」

 「どうしたのかね、シスターマイデッセ。買い物の予定はなかったはずだが?」


 立っていたのはドンキーだった。


 「これはこれは司祭様。わたくし、ちょっと野暮用で……」

 「明けの開拓団のメンバー募集に行くんだとよ」

 「スカリー! 裏切りましたねッ!」


 座ったままでスカリーが簡潔に説明するが、マイディは思わず声を上げてしまう。

 こういった場合にドンキーがどういう行動をするのか、ということぐらいは分かっていた。

 九割、“教育”が執行される。


 「裏切ったもクソもねえよ。おめえが勝手に突っ走ってるんだろうが」

 「このっ……あ、司祭様、これはですね……ええと、なんというか、こう、ですね……」


 静かにドンキーは一つ頷くと、ポケットからバスコルディア新報を取り出した。


 「わたしもね、ちょっとこの記事は気になっていたんだ。スカリー、キミも来ると良い。本当は行きたいんだろう?」


 人畜無害そうな笑顔で、ドンキーはスカリーに問いかけた。



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