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002

「…どう、落ち着いた?」

「…うん、少しは」

「…適当に買ってきたんだけどお茶で大丈夫?」

「大丈夫、ありがとう」


 委員長に自販機で買って来た飲み物を渡すと少し離れてベンチに座った。

 …仕方ないだろう、僕は話をするのはあまり得意じゃないんだ。と誰に聞かせるでもない独り言を頭の中でつぶやきながら 自分用に買って来たブラックコーヒーに口をつける。正直ブラックよりは微糖派なんだけどないものは仕方ない。


 委員長も僕が渡したお茶に口をつけてゆっくりと飲んでいく。美人が行っているとどんな所作でも綺麗に見えるものだ。っというよりとても色っぽく見える。あまりじろじろ見ていると不審がられてはいけないので横目にちらっとだけ眺めることにする。


「…ねぇ、平良くん」

「…っ……なに?」


 急に話しかけられてコーヒーが気管に入ってきてむせかけた。ばれないようにと必死でこらえると平静を装って返事をする。


「…さっきの出来事は夢じゃないんだよね?」

「うん、夢じゃない。現実で起きたことだよ」

「そう…なんか突拍子もなくっていまいち現実味がなくってね、あはは…」


 力なく笑う姿を見ると確かに夢であって欲しいことだとは思う内容だと改めて感じる。なにせ自分の学校の先輩から襲われて、その後その先輩は人外の化け物に変身、ぱっとしないクラスメイトが助けに来て自分の前で戦いを始める。だなんて、誰に言ったって信じてもらえるわけがないほど現実から遠ざかった内容だ。


 でもそれが現実だ。委員長の先輩は確かに化け物へと変じて、そして彼に倒された。ファンタジーな話だが受け止めなくてはならないことでもある。なにせ、自分に関わることなのだから。


「委員長が戸惑うのも無理ないよ。でも夢でも幻でもなく実際にあったことだから」

「…うん、そうだよね………平良くん、色々教えてもらっても良いかな?」

「…勿論、委員長には聞く権利があるだろうし。ただ…」

「ただ…?」

「明日また教えてあげるよ、今日は帰ろう?」

「…うん」


 時間は現在19時、もうすぐ6月とはいえこの時間帯にもなれば外も暗くなっている。今日あったことで頭の中はいっぱいだろうし、これから話していたら委員長の両親も心配するだろう。委員長もそれをわかっていたのか僕の提案にすぐに頷くとベンチから立ち上がろうとした。


「あっ…」

「っ…!」


 しかし、まだ足に力が入りにくいのかすぐにふらついてしまった。倒れそうになったところをすっと支えると、もう一度ベンチへとゆっくり座らせた。


「ごめん、平良くん…まだ足がふらついて…」

「いいよ別に………委員長」

「えっ」

「…委員長の家、この近く?」

「うん…でも………いいの?」

「委員長が嫌じゃなければ」


 












「……重くない?」

「全然」


 平良くんの提案に乗らせてもらった。というより本当に文字通り乗らせてもらってる。私は今、彼の背中に自分の体を預けている。おんぶしてもらっているのだ。父親におんぶしてもらったことはあるが、父以外の異性におんぶしてもらうなんて生まれて初めてで色んな意味で緊張するし、こんな状況になっていることに申し訳なさも感じる。


 何をやっているんだろう、私は。もう少し私がしっかりしていれば自分で歩けるんだけど…情けないことに足がまだ震えていてまともに動くことが出来なかった。あんなことが自分の身に起こるだなんて考えたこともなかった。いつもどおりに家に帰ってただけだったのに……本当に怖かった……殺されると思った。


 …駄目だ、思い出すと泣きそうになってしまう。只でさえ迷惑をかけているのにおぶってもらった状態で泣くなんて、これ以上平良くんに気を遣わせるわけにはいかない……そう思っていても自然と頭の中では嫌なことばかりがぐるぐると巡って来る。じわりと目に涙がうかび、自然とつかまっている手に力が入る。


「委員長」

「っ…な…に?」

「ちょっとごめんね?」


 そう言うと彼は立ち止まり、自分の胸ポケットに手を伸ばしイヤホンを取り出すと、彼の耳につけた。


「…音楽聴いてるから家に着いたら教えて?」

 

 あぁ…平良くんにはわかってたんだ。私は…彼の優しさに甘えさせてもらうことにした。













 程なくして委員長の家にたどり着いた。家の明かりがついており委員長の家族は既に家の中へいるようだ。ゆっくりと委員長をおろすと彼女の様子を見る。どうやらふらつきも少し落ち着いたみたいだ。


「情けないところばかり見せてごめんね…?」

「…僕は何も聞いてないから」

「…ありがとう」

「……これ」


 僕は鞄から取り出した札を委員長へと渡した。委員長はその札を不思議そうに見ている。その札は魔除けの力が備わっておりいざという時に使えと上司から聞いたことがある。持ってる本人も効力に関してはよくわかってないけど、それでも委員長の気持ちが少しでも休まるかもしれない。そう思って渡すことにした。


…これまで使ったことなかったし、適材適所って言葉もあるしね。


「これがあれば少なくとも大丈夫だと思うから…安心して」

「うん、わかった」

「じゃあ、おやすみ…」

「うん、おやすみなさい」


 彼女が家の中へ入るのを見送ると家に背を向けて歩き始めた。


 歩いていると携帯電話へと着信が入る。着信相手の名前を見て辟易するが仕事かもしれないと通話に応じる。


《ひゅーひゅー色男!》


 開口一番これか、やっぱり出るんじゃなかった。後悔の念を抱きながらも返答はしてみた。


「…どうしたんですか、先輩」

《いやぁ、うちの狙撃手さんは女の子の心を射止めるのがお上手だなぁと思ってね!》

「そんなんじゃないですよ…大体、僕と委員長とじゃ釣り合わない」

《ほう…またまたそんなこと言って!》

「はぁ…冷やかしだけなら切りますよ?」

《あの子のマークは外さないでね?》

「…どういうことですか?」


 おちゃらけた態度から急に真剣になるから先輩は本当にたちが悪い。こうなると僕も通話を終えるわけには行かない。

 …いつも最初から真剣に話してくれればいいのに。


《言葉通りよ?今あの子に一番近いのは君だから君に任せるって言ってるの》

「……理由は?」

《ひ・み・つ》

「…わかりました。聞いても答えてくれなさそうですしね…」

《あら、よくわかってるわね?》


 先輩と話しててはぐらかされた時にはもう諦めるしかない。今はその情報をコチラに渡すべきじゃないってことだから。委員長に何かあるってことが分かっただけでもよしとしよう。


「一応あの札を渡しておきました」

《あぁ、あれね。いいんじゃない?君、使わなさそうだしね》

「……あいつの処理は?」

《滞りなくって感じ、人間本体も無事よ。ただちょっと入院はしてもらうけどね?》


 まぁあれだけの負荷がかかっていればそうもなるだろう。迷惑かけてるのも事実だし。ただ本人はそれを完全には覚えてないってのがちょっとかわいそうかなとも思うけど。


《まぁ、とりあえずマークよろしくね!それじゃあおつかれ~》

「あっ…ちょっ………切れた」


 本当に自分が話したいことだけ話して切られてしまった。自由奔放な人だな、まったく。


(委員長のことは気になるけど…今は情報が少なすぎる)


 考えることは多々あるが、分からないことは考えすぎても仕方がない。現状分析もそこそこに欠伸をしながら僕は帰路へとついた。


















「平良くん、おはよう」

「…おはよう」


 委員長は今日も変わらずいつも通りの時間に来て花に水をやっていた。昨日あんなことがあったんだから、今日くらいはゆっくり来るかなと思っていたけど、どうやら違っていたようだ。表情も昨日去り際に見たものよりも幾分かスッキリしているようだ。


「…今日はいつもより遅く来るのかと思ってた」

「うん、私もそうなるかなって思ったんだけど。やっぱり習慣かな?自然と目が覚めちゃった」


 彼女はそう言うとくすくすと笑っていた。自然な笑顔を見ると少しほっとする。


「あ、あと。これ」

「……あぁ、お札」

「これがあったからぐっすり眠れたのかも?ありがとうね、平良くん」

「…どういたしまして」

「すぅー…はぁー………今日は昨日のこと、教えてくれるんだよね?」


 そんな笑顔の状態から一変して一呼吸おくと、僕に近づき真剣な表情を見せていた。ゆっくり休めたとはいえ、あの状況や自分が襲われた原因など分からないことが多く混乱もしているはずだ。頭の良い彼女なら少しでも情報を得て自分の中でも整理したいと思うのが当然だろう。


「…あぁ、僕の伝えられることなら」

「じゃあ、今日の放課後も一緒に帰ってもらっても…良い?」

「うん、わかった」

「っ!ありがとう!じゃあ今日も一日頑張ろうね?」


 そう言うと彼女はどことなく嬉しそうにして花の世話に戻っていった。

 …なんで嬉しそうなんだ?それだけがわからないけど…知りたいことを知ることが出来るからかな?


 少し疑問に思うこともあったけど人の気持ちはわかんないし、まぁいいや。


 思考はどこかに放り投げいつもどおりエアコンの効いた部屋で眠りにつき始めた。


 朝のホームルームで3年の遠藤先輩が入院したという話があがりクラスがざわついていたが、昨日の事件の当事者でもある僕には関係なかった。











 あっという間に昼休みとなり、いつもどおり鞄の中からパンを取り出すともそもそと食べ始める。


「ねぇ、平良くん」

「ん?」


 パンを食べていると珍しく委員長が話しかけてきた。というか昼休みに誰かに話しかけられるの始めてかも…。いや、さすがにそんなことはないか?…でもあんまり自信ないな…なんて無駄なことを考えていると委員長が話を続けてきた。


「よかったら一緒に食べない?」


 瞬間、周りの空気が変わった気がした。視線が一気にこちらへ、厳密に言えば委員長の下へと向けられる。それは勿論男子からのものが圧倒的に多かったが、女子からも同様の視線を感じた。昨日もこの視線を感じたが、あれは帰り際だ。流石に昼休みくらいはゆっくり過ごしたい。


「…いや、いいよ。足達と食べてるんだろ?」

「わたひはべつにいいよー」

「えっ…?」


 足達のことを利用し断ろうとしていたが、足達がここでまさかのスルー。上手いこと自分では逃げつもりだったが、甘かったようだ。回り込まれてしまっている。足達も食べかけのおかずを飲み込むと再度話しかけてくる。


「昨日、きちんと楓を送ってくれたみたいだし。ちゃんと約束守る奴はいい奴だからな!」

「あ…そう…」

「大体女子二人が誘ってんだよ?もっと嬉しそうにしろっての!」

「あ…はい…あはは」

「なんでそんなに笑いが乾いてるんだよ…」


 どうもすみません…感情表現が乏しいのは自覚してるんだけどね…


「だめ……かな?」


 委員長からも二度押しされてしまうと逆に断ったほうが色々な方面から反感を買いそうな気もするし…ここは


「…わかった、そこに椅子つければいい?」

「うん!どうぞ」


 委員長は満面の笑みを浮かべると席へと戻っていく。僕は言われたとおりに自分の椅子をその机へと近づけた。男1対女2、どっから見てもうらやましい光景ではあるがそれは当事者ではない場合の話。現在はクラスの高嶺の花である委員長と、彼女同様人気のある足達を独り占めにしているのだから、当然


(周りの視線が…いたい…)


 こんなことにもなるわけである。結局その時間帯は視線を感じながらパンを食べることになり、周りの嫉妬の炎が燃え上がるのをひしひしと感じていた。

















「さて…何から話そうか…」

「そうだね…まずはあの怪物ってなんだったの?朝、ホームルームで話があったけど先輩は病院に入院してるんだよね?じゃああれは先輩じゃなかったってこと?」


 帰り道、昨日座ったベンチまで向かい、昨日の話を始めた。最初の疑問は彼女を襲った相手が本当に先輩だったのか?ということ。


「先輩で間違いはないんだけど…厳密にいうと違うんだ」

「えっ…どういうことなの?」

「それは…《そこから先は私が説明しようじゃないか!》」

「きゃっ!」


突然僕の鞄につけていたストラップが音声を放った。僕にとっては聞き覚えのある声だが、委員長は驚くだろう。ストラップにこんな細工をされていたと気づいたのは今が初めてだけど…いつの間にこんなことを。


「今このストラップから声が聞こえなかった…?」

「うん…そうだね」

《ははははっ、驚かせてしまったかな?初めまして藤嶋楓ちゃん!今日も綺麗だね!君の綺麗の秘訣はどこにあるのかな?そこのところは同じ女性としては詳しく聞いておきたいところだなぁ!》

「は、はぁ…」


ストラップはこちらの反応も置いてけぼりにして饒舌に話し始める。委員長も謎の状況に困惑したままだ。いや、まずは色々と説明しなよ…


「…それで、先輩が説明してくれるんですか?」

《あぁ、口下手な君のことだ。何からどう説明すればいいのか悩んでいたんだろう?そんな困った後輩のために私が一肌脱ごうと言うわけだ!どうだ、少しは感謝してくれてもいいんだぞ?》

「はぁ…ありがとうございます」

《ちなみに一肌脱ぐは慣用句で実際に服を脱いだりするわけじゃないからな?卑猥な想像は厳禁だぞ?》

(絡みづらい…)


ストラップはその後も適当に話を続けていく。いい加減本題に入ってほしいんだけど…と思っていた折りにようやく矛先が委員長へと向いた。


《おっと、今は君と話してもしょうがないな!この話はまた別の機会で》

「いや、遠慮しておきます」

《君も存外つれない男だな?…まぁ、いいか!さて楓ちゃん?》

「はっ、はい!」

《君は国語の成績も良いみたいだけど慣用句には詳しいかな?》

「えっ…うーん、人並み程度には知ってると思いますが…」

《じゃあ君に質問だ。[魔が差す]って言葉はどういう時に使うかな?》

「…悪いことをした時に使う言葉、ですよね?思ってもなかったような」

《そう、その通り。その通りであり、それが君の疑問に対する回答にもあたる》

「えっ…?」


先輩の言葉に委員長は更に困惑している。ただ言葉の話をしていたと思ったのに、それが自分の疑問への答えになるものだと言われれば当然だ。

僕はストラップと委員長の会話を黙って聞き続ける。


《犯罪者や議員さんとかがテレビで言ってるだろう?[まがさした]って》

「は、はい」

《あれはそのまんまのことを言ってるのさ。間違ったことなんて何一つ言ってない。聞き手が勝手に[魔が差した]と思っているだけさ》

「どういうことですか?」

《彼らは真実を話している。そしてその言葉通り[魔が刺した]であり、魔に刺されてるんだよ》

「…魔に刺される?」

《あぁ、君は例えば大量殺人を犯した人間を同じ人間と思えるかい?普通とは違う異質な存在、人のルール、規範から外れた人外の存在だと考えたことはないかい?》

「…………」

《君がそう考えたのであればそれは間違いない。あれはまさしく人外、人の理を外れた怪物なのさ。魔に刺されるっていうのは、そういう存在、アクマになることなんだよ》

「…つまり…そういう存在がこの世界にはいるってことですか?」

《あぁ、そしてアクマに対抗しているのがそこにいる平良君を含めた私達と言うわけさ》


そう、僕や先輩はアクマを退治する機関に所属し、アクマと戦っている。一応義務として事件の当事者以外に僕達の素性は明かさないことになっている。まぁ、そんな機関世間では勿論公表されていないため、公言されたとしても頭がおかしい人という扱いになってしまうだろうけど。


委員長は先輩の発言に対して、頷いたり時折何かを考えるようにして腕を組むなど、様々な表現をしていた。


「じゃあ昨日襲ってきた先輩は…」

《あぁ、既にアクマと化していたんだろう。ただ、まだ半端者だったみたいだけどね》


 昨日の先輩の様子は明らかに人間のそれとは異なっていた。それが魔に魅入られたもの、アクマの証明だ。


「そうだったんですね…」

《平良君が未然に防いでくれて助かったよ。君が傷ついては大事になるところだった》

「平良くんは何ですぐに駆けつけてくれたんですか?家の方向も違うのに…」

《それは、君が貰った白紙の手紙、あれにアクマの持つ魔力が込められていたからだよ。アクマによるマーキングみたいなものだな》


 アクマは自分の獲物を逃さないようにするために今回の手段のようなマーキングをとることがある。今回はアクマの中でもまだ半端な存在であったため、こちらにばればれのマーキングを行っており、すぐに駆けつけることが出来たのだ。


「あの…もしよければ何で私が襲われたのかも教えていただけますか…?」

《それはだね…君がとても魅力的な女性だからだよ。色々な意味で…ね》

「魅力的って…それってどういう…?」

《おーっとすまない、私も多忙の身でこれからやらないといけないことがあるんだ!じゃあ、平良君後はまかせたよ?》

「えっ…ちょっと…」

《サラバだ!藤嶋くん、また会おう!》


 こちらの反応も待たずしてストラップからの音声は急に途絶えた。本当に自由奔放な人だ。そしてこんな中途半端な状況で僕にまかされても困るんだけどな。


「あの、委員長…あまり気にしないほうがいいよ?」

「えっ?」

「人がアクマになるのは色々な原因があって、それには本人の感情が左右されることもあるんだ。先輩の場合は委員長に対する好意が暴走した形だから、委員長が狙われたんだと思うよ」

「そうなんだ……今聴いた話、突拍子もなくてちょっとぴんと来にくいんだけど、なんだか怖いね?」

 

 ぎこちない笑顔を向けるその姿は普段の彼女とはやはり違っていた。その姿は普段とのギャップもあり、やはりいたたまれない。

 

 正直、委員長への僕の発言には嘘も含まれている。正確には彼は暴走したわけではない。暴走させられたのだから。だが、今そのことを委員長に言ったところで何もなりはしない。あえて黙っておこうと思った。


そして彼女が抱いている不安が少しでも休まればと言葉を発した。


「…大丈夫だよ…一応僕も近くにはいるし」


 …言った傍からちょっとまずい気がしてきたが、これ大丈夫か?一歩間違えばストーカーじゃないか?いつも見てますって思われたら…。なんて心配は杞憂に終わり彼女は普段の笑顔を見せていた。


「…うん、そうだよね。平良君すっごく強くてびっくりしちゃった!それに何処となく雰囲気も違ってたし!」


 あんな姿を覚えていられることに対して恥ずかしさしか出てこない。アイツが出ている時の自分は後で何度思い返しても恥ずかしい。


「あぁ…まぁ…忘れてくれ」

「ふふっ」


 照れ隠しだと受け取ってくれたのかそれ以上の追求の言葉はなかった。只の痛い奴だと思われるほうが事実を知られるより何倍もましだ。

 

 僕は、アイツのことや自分のことを知られたくない。よく言うでしょ?くさいものには蓋って。僕にとってはそれが過去やアイツのことなんだ。だから、そのままにしておきたい。


「あまり遅くなると委員長の家族も心配する…帰ろう、送るよ」

「ありがとう、助けてもらいっぱなしだね」

「…気にしないで、好きでやってるから」


 5月の夕焼けを肌に感じながら僕達は帰路に着いた。隣を歩く委員長のほほが少し赤らんでいたようにも見えたが、それは夕焼けによるものだろうと納得した。



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