災難
突然ですが、今から俺は自殺まがいなことをしようとおもう。
だが安心してほしい。
決して俺が生への執着を捨てたわけではない。
まさか不可抗力がこのような形で現れるとは、この世はどうやら植物に大層厳しいらしい。
こんなことになってしまったが、もし生き残ることができれば、今度こそ慢心をしないようにしよう。
油断大敵とはよくいったものだ。
人、気を抜くとろくなことにならない。
植物でもそういうことは適用されるようだ。
まぁ心だけは人間であることを諦めないが。
そうして、転がり落ちないように俺は半身を宙に浮かしつつ、崖の下にある川を眺めていた。
(まぁ、大丈夫か)
俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物俺は植物
今だけは心までも植物になって欲しかった。ほら、植物人間って恐怖とか感じなさそうじゃん。違う意味で植物人間の俺にとっては無縁の話だけど。未だ迷いから抜け出せないが、足に絡む泥が固まって仕舞えば、死ぬまでここから抜け出すことはできなくなってしまうかもしれない。そう自分に言い聞かせて、恐怖心を振り払い、意地になって引き止めてくれていた足を覆う泥を蹴って、川に向かって身を投げた。
あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ああぅっっっぐわぁぉぁぉぁぉ...... ぐっ...ぉ...ぁぷはっ
やはり恐怖心に打ち勝てることは叶わないらしい。
目を瞑っていても、全身を包む不快な浮遊感から正気を保つのは酷であった。自由落下が怖すぎて叫んでしまった。
なぜここまで追い詰められたのか。こうしたにはわけがある。現実は奇なりとはいうが、つまらないことが多いのも事実。こうなった原因もつまらない出来事からの派生に過ぎなかった。結果的に奇妙なことになってしまったが、その過程に意味などはない。
時間を遡る。
◇◇◇◇◇◇◇◇
豪雨のおかげで体が以前よりも少し動きやすくなり、周りの環境にすっかり適応してしまった俺は少しずつ大胆になっていた。
もちろん周囲には相変わらず気を配っている。
体調に問題はなく、むしろ好調とも言える。水源の探索で周りを物色しながら歩いていくうちに、俺は自分が呼吸していないことに気づいた。
そう気が付くほど気が緩んでいたのだ。
実際、
『呼吸がない?なにせ鼻がないからな。ははっ。』
『いや、皮膚呼吸かもしれない。』
『ほら、植物だし、多少はね?』
などと頭のネジが飛んだようなことを考えていた。
そんなバカなこと考えてたところ、周りの異変に気がつけず、勢いよく横から近づいてくる土砂崩れに巻き込まれた。
土砂崩れが近づいてきた際、それなりに音がしたはずなのだが、どうやら俺は集中したら周りのことが見えない聞こえないとの悪い癖があるようで、気がつけなかったらしい。
そのおかげというのも癪ではあるが、川が見えるところまで流された。ただし少し立地に問題があった。
崖の先っちょなのである。
泥が足を支えてくれたおかげで上半身が宙に浮いている。植物だから腹筋はないからいいものの、でないとすぐにでも落ちていたのかもしれない。
というよりこの状況、うまく身動きが取れなくて、飛び降りるしか選択肢がないんだよね。
急がないと泥が固まって、それこそ一巻の終わりである。衰弱死は勘弁である。というよりまたあの激痛がくると思うと、今の恐怖など取るに足りないように感じた。
そして今に至る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
だいぶ流されたと思う。
何とか途中でうまいこと木の枝に引っかかって、それをよじ登って陸地に戻れた。
放心状態になってからだいぶ時間が経つ。
『いや〜、明日の筋肉痛が怖いったら、』
そんな呑気な考えができるほど持ち直っていた。
命を脅かす物がないことを確認して、木の根っこまで匍匐前進して、葉っぱに隠れるようにして座り込んだ。少し眠気を感じてか、体の疲れを癒すために少しだけ寝ることにした。