迷走
(どこだここ、、)
あてもなく、心細いまま周りの暗闇に呑まれてだいぶ時間が経つ。
夜目に慣れて、少し恐怖が薄れたが、未知の環境や耳が痛くなるほどの静粛は俺に一箇所にとどまることに忌避を感じさせていた。
最大級の警戒とともに、神経質になりながらも足を運ぶのに消耗された体力が馬鹿にならないほど膨れ上がっている。
休憩したいところではあるが、死角から狙われているような感覚がどうしても拭えなくて、疑心暗鬼が歩みの停止を許せない。
先程から見渡す限り木しか見当たらない。
生物はおろか、虫一匹の鼓動でさえ感じられない。
だが妙に森林の力強さが感じられる。まるで生命を有しているかのようだ。
歩くたびに植物の体の隅々までかすかな痛みの余韻が響き渡る。
全身に乳酸が溜まるような感覚がして、活動を制限してくる。
体から発する土の香りに頭がクラクラしそうだ。
こんなにも体を清めたいと思ったのは初めてかもしれない。
ついに静粛に耐えられなくなり、何となく独り言をするように呟いてみる。
「ぁあ...」
うまく声が出せなかった。
どうやら言葉を紡ぐにはまだ早そうだ。
そうしたうちに久々に少し喉の渇きを感じるようになっていた。
懐かしいように思うも束の間。すぐにそれは苦痛となりはじめた。
すぐに血眼になりつつ、我を忘れて水源の確保に全力を注げていた。
そして、探る事一時間。
早くも活動の限界を迎えた。
目眩のせいで視界が白くなり、体からただでさえ弱々しい力が更に抜けていく。
もはや歩く力とて残されていない。
目の前に落ちてきた干からびた髪の毛だった物(枯れた葉っぱ)を見て、生命の終焉を悟ったような気がした。
ついに立つ力も保てなくなる両膝から崩れ落ちた。
だがなぜか脳だけは妙に冴えている。
感覚が研ぎされる。
死を直面してか、過敏に体が周囲の情報を得ようとする。
そして、全身が焼けるような感覚が再びよみがえってくる。
ぁぁあああぁああああ"あ"あ"あ"あっっっっっ
あぁぁぁ、、、
たまらずまたも叫びつつ懸命にこらえようとする。
あぁあ"、、........ん?
少しして頭皮になにか冷たいものが当たるのを感じる前に、全身の激痛が嘘のように引いていった。
この世のものとは思えないような快感が全身に降り注ぐ。
我を忘れたかのように少しでも受け止めようと無理やり体を空に向かって大の字に開いた。
ザァーザァー
ザァアアアアアアアアアアアアアアアアアア
土砂降りの雨が地面を降り注ぐ。
どうやら運が良かったようでゲリラ豪雨が通り過ぎたようだ。
さきほどの激痛が引いてくれたのは雨が降る前に湿度が上がったからだったのか。
やはりこの体は水分がなくては大変なことになるようだ。
少しずつ体の主導権が戻ってくる。
すぐに降り止むゲリラ豪雨。
急いで水源を確保せねばと思う。
今度こそ死んでしまいそうだ。
より一層足(根っこ)に力を込めて、俺は歩き出す。
5分後にあっさり川を見つけてしまったけれど。