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十一話 泣いた赤鬼


小学生の頃 いじめを受けては返り討ちにし

人への暴力を物ともしなくなった 


そして いつの間にか独りになる


休み時間ですら誰にも声を掛けられず 給食の時だって机を合わせる決まりなのに離された

席替えのときは 隣になった奴に嫌な顔をさせられた


我慢してきた筈なのに 最初のあの時あの場所で人を殴った出来事を境に俺はクラスの嫌われ者となった

先生には相談しない 悪化すると分かっているから


ーー転校したいな


やっとこの町で店を持った母親に対し こんなセリフは死んでも言うことなく

いつものように学校へと行かざるを得ない


「月衣君!」


「……」


登校中に自分の名前を呼ばれた

振り向くとそこには陽がいた


「誰……?」


「隣のクラスの日下部陽!」 


ニヤニヤと近づいてくる無邪気な陽を見て正直引いた


「友達のいない俺の友達になってやってくれとか先生に言われたのか?」


「月衣君のお母さんから頼まれた!」


「は? 母ちゃんが?」


「うん! うちのお母さんと仲良いから昨日会って言われた」


ーー言われたて……


「それで俺と仕方なくつるむってか?」


「うん! 初めましてだよな!」



ーー……変な奴



その時から陽は休み時間にはよく俺のところへとやって来た

あいつ自身も友達が多い訳では無かったが 少なからずいた筈だ

現状満足しても良い友人の数だ なのに


「月衣! サッカーしようぜ!!」


「……」


俺と関わるとお前の友人が退いていく

気付いてない訳でも無いだろう なんでそこまで俺に


「なぁ陽」


「ん?」


グラウンドの端に二人でボールを蹴り合っている中 俺はとうとう口に出した


「辛いだろ…… 俺は大丈夫だから 放っといて元の友達のところへ戻れよ」


「ん~~~~」


「友達は選べよ……」


「ん~~~~」


「何だよ……」


考えるポーズを取って何を考えているのか分からないが 考え中アピールする陽はようやく口を開く


「わかった!」


その時に何を分かったのか分からなかったが 多分何も考えて無かったんだと俺は悟った

でもその後も陽は俺のところへと来る


そうなるといじめっ子共は面白くない


最近少なくなっていたが次の日

直接では勝てないと踏んだ高学年が校門に貼り紙を貼り巡らしていた



外人が日本に住んでんじゃねーよ!

校舎への異国人は進入禁止

死ね! パクリ民!!

簡単に人殴れるのは自己中の中国人だけ

中国だから人を殺すかも!!



小学生でもスマホを持てる時代にSNSで呟けばいいのに

わざわざ貼り紙か 暇な奴もいるもんだ


周囲から襲いかかる目に見えない圧力

ヒソヒソと聞こえ辛い声が俺の耳を拒絶させる

だからと言って俺は逃げない 重い足を引きずりながら教室へと向かう


その日に限って陽は来なかった 



ーーやっぱりあいつも……



だが次の日だった 


俺が教室へと足を入れると 昨日とは打って変わって誰も俺を見向きはしなかった

よく見ると皆はスマホに夢中でその場から動く者も少なく釘付け状態

そこへ一つの男子グループが近づいてきた


「ごめん月衣 誤解してたよ……」


「は?」


「前々から声かけようと思ってたけど…… 高学年が怖くて話せなかった ホントにごめん!!」


急に頭を下げられた


「でもお前は良く考えたら良い奴だよ 親の悪口を黙ってないんだもんな」


「あぁ かっけーよお前!」


「そうだよな…… 意味も無く嫌がらせするあいつに比べたらな」


「今日の昼休みサッカーするんだけど お前もやらねぇか?」


「っ……」


理解が追いつかなかった

混乱している間にも先生が教室の扉を引き 生徒が全員席に座る

教壇に上がる担任の口から出た言葉は


「えぇ~…… 皆さんおはようございます」


「先生! 陽君の話本当なんですか?」


「まぁあまり話す事では無いが日下部は少しの間だけ学校を休むことになるから

皆…… あまり他言しないでくれ」


その日の昼に俺は学校を無断で飛び出した

休憩時間に強引に先生から話を聞いて俺はようやく

耳を疑うという言葉を知る



〝 昨日の放課後な…… 校門の壁に貼った紙のことを自分から自供してくれたんだ〟


〝 は? 〟


〝 まぁ正直驚いたが 昨日の緊急保護者会で停学で収まって良かったよ 〟


〝 …… 〟


〝 なんで…… あんな事したんだろうな 〟



陽の家は知っている 

高校の近くにある陽の家の前に着くなり俺は庭を覗く

そこには洗濯物を干す陽の母親がいた


「あれ? 月衣君じゃん!」


「どうも……」


俺の母と仲が良い陽の母親鈴音さんはもちろん俺の事も知っている


「ごめんね…… 陽 今いないの」


「そうですか……」


「まぁ座って座って!!」


庭の見える廊下に座り 奥の台所から鈴音さんが麦茶と駄菓子を持ってきてくれた


「はい!」


「ありがとう…… ございます」


「陽は今外に出ててね…… 長囲の河川敷でバスケしてるから」


「そうですか……」


「停学になった理由は聞いたけど 陽は何も話してくれなかった」


「……」


自分の責任だと思ったのか 俺は何かを言おうとした でも言葉が見つからない

そんな俺の表情を鈴音さんは読み取ったのか 鈴音さんは気を使ってくれた


「ここに咲く筈の紅花…… 秋に入ってやっと芽を出し始めた」


庭を見つめる鈴音さんと同じ方向を俺も見つめた

そこには庭一面に雑草と交わり芽吹く紅花が並んでいる


「でも冬を越した翌年に枯れてしまう」


「そうなんですか……」


「陽も紅花みたいな子でね 何かあるとすぐ枯れちゃう子なの……

でも旦那と同じで弱いと分かっていても誰かを助けてしまう癖があってね」


「……陽に会えますか?」


「フフッ! 車出してあげる」


川沿いの道路を渡って長囲橋まで車を走らせ河川敷へと向かう


ーーあれ……?


車内ではいつの間にか涙を流していた

鈴音さんはそんな俺に優しい声をかけてくれる


「紅花の花言葉は〝大切な人に贈りたい言葉〟

包容力 特別な人 自分が人を愛する力の源は正直でいることだと思うの」


「あいつは…… ただの馬鹿ですよ……」


「そうねぇ でも私も〝結局〟はあの人を選んでしまった 親友も静の存在が一番だったし……」


「へへ…… ありがとうございます 鈴音さん」



〝 河川敷に着いたその先からも 陽をお願いね 〟



陽 お前は妖怪か

学校の底辺の位置に置かれた俺の立場の下に お前は無理やり割り込んで俺を上にあげてくれた

そんな人間はこの世にいるだろうか いる筈がない

だからなのか そんな偽りの無い行動が 俺に勇気を与えてくれた


お前は本当にバスケが好きだった


お前は入れ替わりしない本当の親友を求めていた


お前は馬鹿だが 本当に馬鹿だが


俺はお前の親友になりたいと心底思った


そして お前は死んだんだな



〝 死ぬわけない あの子が 〟



「え?」


いつの間にか車は橋の下の草原に止められていて 俺は車から降りた


「鈴音さん ありが……」


そこには車も鈴音もいなかった そして 目の前にいたのは



「……陽」



「なに思い詰めてんだよ 泣いてんのか? 真っ赤に腫れた赤鬼みたいだな」



「鬼はおめぇだべず……」



「……言えてる」





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