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十話 捜す青鬼


週明け 自宅待機として臨時休校となっていた青高が再開し 

俺はいつも通り高校へ向かい職員室へと顔を出す そこへ桃坂がやってきた


「愛美は…… 愛美は大丈夫なんですか?」


「……」


ここ数日の愛美は部屋に籠っていた

桃坂の家から帰ってきてからはそうだ


「学業のこともあるから 当分は準備室で別に授業するから…… 帰りを待ってやっててくれ」


桃坂は何も言わずにそのまま教師に戻っていく

その姿を見るなり草津は思いつめる


ーー……混乱してるだろうな

多分だが 桃坂の家にいる間は明るく振舞っていたんだろう


二年の一時間目の授業を終わった草津は 三年の五時限目の授業が始まるまでやることが無い草津は

書類整理などある中で日本史・古典の準備室に向かう


ドアを開けると 分厚い資料本がぎっしりくっついている棚が並んでいた

その準備室の真ん中のテーブルには 椅子に座ってただ黙って本を読む愛美がいた


「勉強熱心…… と言いたかったんだがな……」


「おじさん……」


茅野の読んでる本を草津は覗く


「今度は何読んでるんだ?」


「泣いた赤鬼……」


「相変わらず妖怪の本が好きだな」


「最近は妖怪同士が闘う漫画だって読むよ」


普段の茅野とはまるで違う

だけど草津は事情を知っている故に 今の愛美を理解出来る


感情を押し殺す彼女だったが

運良く学校や友達の家で遊ぶ時は 悩みの無い普通の女の子を演じている

だが家に帰ってくるといつもこうだ 笑顔を一つも見せない 社会においては問題の無いことだが


「そういえば桃坂が心配してたぞ」


「うん…… そろそろ立ち直るから」



ーー立ち直るか…… 娘を見る親の俺は これでいいのだろうか



数週間が経ち 学業が落ちつく頃に愛美もクラスに復帰した

気まずいなんて空気は桃坂が打ち消し 何事も無かったかのようにクラス内の日常が始まる


放課後

愛美と少しでも一緒にいる為に早めに帰ろうとする草津に 別の教員から声を掛けられた

月衣や木島のクラスの担任だ


「劉君の件なんですが……」


「はい……」


草津は立ち止り 話を聞く


「ここ数週間ほとんど欠席 担任としてお宅に訪問したんですがねぇ……」


「どうかしたんですか?」


「いつも何処かに行ってて面会の余地が無いんですよ」


「……」


そのとき草津は月衣の行動を予知していた


「わかりました 私が行ってみます」


「本当ですか?」


担任の教員に任せられ 草津は愛美のもとに向かった

桃坂と楽しく廊下を渡る愛美を見て草津は安心の表情で声掛けする


「愛美!」


「おじ…… 先生!」



ーー茅野の笑顔 家では見れない…… 貴重だな



「すまんがこれから月衣の家に訪問してくるから 先帰れるか?」


「いいよいいよ! 部活が終わったら私の家に一緒に行くから」


桃坂が愛美の肩を掴む

愛美も嬉しそうにしていたの見て 草津は特に何も言わなかった


「じゃあ愛美を頼む」


さっそく草津は月衣の母親の静の店に行った

この時間には仕込みが必要だろうと 居るのが分かっていたからだ


「ごめんください!」


スナックの入り口を開けると同時に草津は声をかけて中に入る

店の奥からやってきた静は相変わらずの振舞いで出迎えてくれた


「あら先生! お客としてですか?」


「いえ…… 今日は劉君の件で……」


静は一瞬落ち込む表情を見せたが すぐに立ち直って


「月衣…… 今日も出かけてるんですよ…」



ーーこの感じ…… 愛美と似てるな



「どこへ行ったかわかりませんか?」


「……先生になら大丈夫でしょう」


「え?」


「長囲市の河川敷に…… あの子はいつもそこで一人でバスケをしているんです」



ーーやっぱりか…… あいつらしい



草津は礼を言って店から出ようとしたその時 不意に静に呼び止められた


「あなた…… 不思議な人」


「なんです急に……」


突然の静の発言に 草津は動揺する


「私の母は霊媒師をやっていて 少なからず常人には無い特殊な力はあったんです

私は霊感とか信じないのでそういうのに興味は無かったんですけどね……」


「ですけど?」


「あなたは本当に不思議…… 雰囲気から見て何千何万年と生きて来た人みたい」


「!!? ……またまたご冗談を」


「予想なんですけどね!」


静の鋭い勘に草津は冷や汗を流し その場を後にした



ーー怖…… ホントにいるんだな超能力者って……



車のエンジンを掛けて 草津は河川敷へと向かう


手入れされた草原と長囲橋の下に造られたコンクリートで出来た広場

スケボーが出来たり バスケをする為のバスケットゴールが一台設置されている

長囲市祭りのイベントの一つとして水まつりが毎年ここを会場にして屋台が並ぶ


そんなバスケットゴール付近に月衣はいた

近くに車を停め 彼のもとへと近寄って


「どうせするなら木島も呼んでやれよ!」


「っ!! 草津!!?」


驚いて立ち上がる月衣の手から 地面を転がるバスケットボールを草津は拾う


「1on1 やろうぜ」


「……」


月衣とバスケをするのはいつ振りだろうか

考えるだけ無駄な草津は そんなことを思いながら月衣から次々と点を取っていく


「草津…… お前強えなぇ……」


「教師に向かってお前呼ばわりとは 教育が必要だな」


手加減を知らないかのように全力で圧倒する草津に 月衣は膝を着く他なかった


「ハァ…… ハァ…… 勝てねぇ」


「経験が違うんだよ…… クソガキ」


「ハハ…… 言葉の体罰で教育委員会に報告だなぇ……」


「躾なって無いって親御さんに連絡だなこりゃ……」



「「 ……… 」」



草津もその場に座り 互いに笑い合った


「母ちゃんに報告だけはマジ勘弁……」


「おあいこだ 見逃してあげる」


「申しわげね…… 草津…… 先生……」


「なんでそんなに言いにくそうなんだよ……」


「いや…… なんでかな……」


月衣の自分でも分からないという顔を見て 草津の脳裏にあの静の言葉が通り過ぎる


「……なぁ 日下部陽はお前にとって…… 何だった?」


「ッ……!!」


陽の名前が出た途端に下を俯いてしまった月衣だったが その口は徐々に開いて


「親友だよ…… 木島と出会うまで 掛け替えの無い大事な……」


「そうか 忘れろなんて言わないけどな 明日からまた学校来れるか?」


「あぁ…… なんでだろうな 今はとても落ち着いている」


「バスケしたからか?」


「いや…… なんだろ…… よくわかんねぇんだ

陽が死んだのに…… まだ死んで無いって言うかなんていうか……」


「……」


月衣は自分でも変な感じだと自覚し そのまま無意識にある言葉が出ようとした


「なぁ…… 草津ってもしかして……」


「……」


「いや…… 馬鹿だな俺も……」



ーークォーターでも十分恐ろしいな……



「いつからだ?」


「え……」


草津は立ち上がり ススキをなびかせる風と共に月衣の顔を優しく見つめる

その今までにない草津の表情に対して 月衣はただ呆然と見つめ返す




「いつから気付いていたんだ? 俺が日下部陽だって」





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