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八話 秋バーベキュー


月衣の住む家は借家 だけどお隣さんとの間柄も顔が利き

その隣に住む大家さんも心が広い人だ よって庭を広く使える陽達は


「そろそろか……」


「そろそろだろ……」


「多分いいだろ!! 俺の絶対的嗅覚がそう言ってる!!」


「あんた達…… 猛獣みたいに前かがみに構えないでよ……」


「肉たくさんあるから大丈夫だよ~」


秋のバーべキューを開催していた


「なんで私まで……」


ジュースを紙コップに注ぐ天音はぶつぶつと呟く


「誘っちゃ悪かった?」


桃坂が天音に近づく


「……………別に」


天音の応答に桃坂は満足げに笑い

焼き上がりそうな焼肉の下へと戻って構える


「あんたらに良い焼け具合の肉は渡さないよ!?」


「はん……! 負けねぇぞ…」


数分が経ち 良い香りがすると同時に四人の箸は動く


「よし取ったど! ……あれ?」


手応えを感じた木島の箸には焼肉が存在せず

その行方は草津の紙皿の上にあった


木島だけでなく 四人全員が空振りさせるほど早く

草津は神業で四っつの焼肉を皿に収めた


「ん~~美味い!! 秋は涼しいし今日なんて特にベストだな」


「「「「  草津てめぇ!! それでも教師か!!  」」」」


「馬鹿野郎…… 社会は常に過酷だ

焼肉然り 人生然り 奪うか奪われるかが常の瀬戸際よぉ!」


「「「「  何か語り出したよ!!?  」」」」


「それにお前等の停学処分の破棄に 俺もどれだけ頑張ったか…… 少しは察してほしいもんだ」


「「「 うっ!!? 」」」


そうこうしてる内に次々と肉は焼け 全員が食べ始める


「いや~~ やっぱ焼肉にはりんごジュースだなぇ!!」


「はぁ!!? ラフランスじゃろ??」


「桃だべず!!」


肉以外で争う三人を見て呆れる桃坂と天音

その隣でクスクス笑う茅野達もまた肉を頬張る


「これがバーベキューで食べる焼肉……」


「美味しいでしょ天音さん!」


「うん………… いやっ!! 別に……」


天音達の楽しそうな顔を見て 草津は人知れずにほほ笑んでいた


「おい草津!! 肉食べてるか肉!!」


月衣の生意気な態度に草津は腕で首を軽く絞める


「俺等お・と・なのセリフだ!! この現代っ子共!」


「いでででで………! あ 天音さんもちゃんと食べてる!?」



「おっ…… 何々月衣ぃ? 天音さんに興味があるの~?」



茶化してくる桃坂に対し 月衣は顔を赤らめる

そんな顔を見た桃坂は一瞬表情を強張らせたが すぐに元に戻した


「いいんじゃない…… 狙っても 女たらしでモテないあんたにはチャンスかもよ?」


「はぁ!!? どういうことだよ」


「べ~だっ!」


桃坂は舌を出して月衣に侮蔑の意を向ける そして茅野達のいる方へと戻って行った

草津の腕から解放され月衣も陽のもとへと戻るが そこにはドン引きの視線を送る二人が待っていた


「なんだず……」


「お前って自分のことになると鈍感だよな!」


「可哀想に…… これが現実とでもいうのか……」


「へぁ!? ……それより陽君はいいのかな~~」


「……何だよ急に」


月衣はわざと茅野達にも聞こえるように大声で口に出す


「二人は付き合ってるんだから あ~~んでもしてもらってもいいんじゃないかな~~?」


「な…… てめっ…!」


その言葉に茅野も照れ隠し だけど桃坂は何気に便乗した


「いいじゃん! してあげなよ」


「えぇっ 姫ちゃん!?」


肉の乗った紙皿を持つ茅野は桃坂に背中を押され 陽のところまで押し出された


「え…… あっ……」 


茅野の顔は既に真っ赤に染まり 今にも倒れそうな勢いた それは陽も同じで

それとは無情に月衣達のあーんコールが追い打ちをかける


「「「 それあ~ん! あ~ん!! あ~~ん!!!! 」」」


茅野は震える手で肉を掴み 陽の口元へと運ぶ

最近でもろくに見てない陽の顔をここ一番に凝視する茅野の脳は既に沸騰し

コントロールできない手は その肉を陽の頬にぶつけた


焼けたばかりの肉が頬に当たると当然


「うぉ熱ちゃ~~~!!」


「ご…… ごめんなさい!!」


必死に冷えたタオルで陽の頬を冷ます茅野

有名なお笑い芸人がやるようなネタを見せられた三人は大爆笑していた


遠くで見る草津も軽くほほ笑んでる

その草津に天音が近寄ってきた


「楽しそうね…… 陽君」


「あぁ……」


「今日は口聞いてくれるんですね ツンデレですか? 松助さん」


「……その名前はもう言うな 染飴」


二人の間に不思議な風が流れる


「まだ…… 思い出せないんですか?」


「あぁ…… 思い出す方が不思議だけどな でももうすぐだ…… それさえ分かれば」


「あなたがこの時代にいる奇跡が 必然か…… 偶然なのか……」


「必然に決まってる…… その為に俺は〝ここに〟存在しているんだ」


二人がひそひそ話しているのを月衣は気付く



「なんだ草津!! 非合法行為か!!?」



「違ぇよ馬鹿! 生徒の前でんなことするか!!」


「フフフ…… 私は一向に構いませんよ 松助さん」


「っ……!? 茶化すな……」


日が暮れ始め 全員は後片付けの作業に移る


「ほとんど紙しかないから 一つのゴミ袋に入れちゃって~~」


「BBQセット担いでチャリって大丈夫かよヤナ?」


「おう楽勝だぜ!」


ゴミと余ったジュースは草津の車に乗せ

最後に茅野と桃坂 そして草津が運転席に乗る


「今日は楽しかったな……」


「高2最後の秋に良い思い出が出来たな」


「陽君 またね!」


「あぁ…… 後でLINEする」


手を振って車を見送り その後で木島もセットを担いで帰っていった


「まさか草津まで来るとはなぇ……」


「保護者って言ってしまえば納得するしかねぇよ」



「じゃっ…… 私も帰るから」



そう言って天音は自分の荷物を持ち 立ち去ろうとしていた


「あぁ… じゃあ送ってくよ」


「いやだからいいって……」


「近くまでだよ! 最後に何かあったら気まずいだろ」


月衣の言葉に天音は言い返すことを諦める


「じゃあ俺は用事あるから消えるわ!」


「ハハ…… パクリか陽?」


「応援してる~~ぜ!」


軽いいつもの口論をした後 陽はここで二人と別れた

天音の家へと向かう二人のうち 天音がふと質問をする


「日下部って何か用事でもあったの?」


「あぁ~ 千鶴ちゃんの迎えだよ クラブでスポーツやってるんだ 確か祭の時会ったよね?」


「………千鶴……ちゃん……」


「青砥小のグラウンドでやってるから まぁ家と学校は近場けど物騒だからな」


「……」


天音は急に立ち止る 


「どうしたの天音さん?」


「千鶴…… 千鶴…… 千の…… 鶴……」


「天音さん!?」


月衣は近づき天音の顔を覗く そこには青ざめて怯える天音の表情があった



 アキ ホノオ センバヅル



 秋  炎  千羽鶴



「秋 バーベキュー 千鶴ちゃん……」


天音は方向を変え 急に走り出した


「天音さん!?」


月衣も後を追うが 天音の足は意外に速くてなかなか追いつけない

天音はポケットからスマホを取り出し誰かに電話を掛ける


長囲市の茅野と草津の自宅にて

茶の間で一息つく草津に 一本の電話が入った


「染飴……」


草津は電話に出る


『 秋! 炎! 千羽鶴! 』


「……!? どうした急に」


『今日…… ハァ…… ハァ… 今日かもしれない!!』


「……どういうことだ おい染飴!」


走ってる感じが電話越しにも伝わり 草津も無意識に鍵を取り出して車に乗る


『秋は今日…… 炎はバーベキュー…… 千羽鶴は千鶴ちゃん……!!

ちゃんと忘れないようにあなたは 今日のキーワードを不器用にも覚えてた!!』


「…………!!」


草津はエンジンを駆け 勢いよくその場から白鷲町へと向かった


「……おじさん?」


風呂上がりの茅野は不思議にどこかへと行く草津の車を見つめていた




『青砥小のグラウンド…… 私も調べてすぐに……』




天音の通話はそこで切れた おそらく充電切れ なのか

草津は胸の内から込みあげられる恐怖に耐えながら それでも車を走らせる




青砥小学校から少し行った先にある十字路

赤に点灯している信号機を気長に待つ陽は LINEに文字を打っていた


「今日はありがとう…… この先何て打とうかな……」


すると渡る先から声が聞こえる


「陽ちゃん!!」


そこにはスポーツバックを持った千鶴が手を振っていた


「千鶴ちゃん!」 


陽も手を振り返す 信号機が青になるのを確認し

千鶴は陽の下へと駆けだした



次の 出来事だった



「………!? 千鶴来るな!!」



千鶴は驚いたのか立ち止ってふと横を向くと 信号を無視して走るバイクが千鶴に迫っていた


「………クソ!」


陽は飛び出し その光景は一瞬のことだ



「………陽………兄ちゃん……?」



横断歩道の少し後ろまで飛ばされた千鶴は混乱しながらも陽を捜す 

見つけた先には交差点の真ん中で倒れる大型バイクと運転手



そして辺りに流れる赤い液体の溜りに倒れる 陽の姿だった




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