2.
これが私のぽってでの思い付きの愚だ愚だ話だ!
最近うちの主の様子が落ち着かない。
紅茶を飲んでいる際に手を滑らせカップを壊したり、何もない所で転んだり、吸う血の量が少なかったり、風呂上りのミルクを飲まなかったりなど。
「で、どうしてああなったか説明してくれ」
「ギンやんはとても奴隷らしくないんね」
「下僕だからな」
何の違いがあるんや、と俺の下から声がする。
身長163㎝の俺に対してフォルマの身長は178cm。後主は187cm見上げないと顔が見れない。
ともかく、俺より身長が高いフォルマが俺の下にいるかと言えば俺が乗っているからである。
胸ぐらのネクタイを掴み勢いよく下げ、手を床に着いたところで手を踏み抜き、倒れた所を奴の重心に体重をかけ乗っかる。
そうすると今の体勢の感性である。
ここに結束バンドがないのが痛いな。
「本当に体重無いんな、ギンやんは」
「いくら食ってもその栄養は血に回るからな」
「と言っても、胸には着々と栄養が回っt―――」
「これ以上喋ったら爪を一枚一枚剥していくぞ」
……数十回にわたり経験したことだできないことはない。
「主の事だけ話せ」
「キミがその“変声”やめたら言ったるわ」
仕方がなく、意思で変声をオフにする。
「俺はこの声があまり好きじゃない、手短にしろ」
「―――」
自分の声にしては余りにも高く、綺麗な声である。
この世界で女にされて早半年以上、自分でも片手で数える位しか聞いてない声である。
「…何か言えよ」
「-か--、-れ」
「?」
「あかんわ、これ」
そう言って彼は俺を連れ去った。
◇◆
「で、どうしてこうなっているんでしょうか」
先ほど無理やり強要された女性の様な言葉遣いをしながら、何故自分はこのような格好をしているのかを聞いた。
「綺麗やでギンやん」
「それは回答になっていません」
そう、俺は現在貴族がパーティーで着る様なドレスを着せられている。
これはフォルマの運営している服屋の仕立てたドレスの一着。
純白の白ドレスで俺が半ばおふざけで技術を流したフリルなどが端っこに乗っかる程度につけられ、それ以外はシンプルイズベストな装飾の少ない服装である。
それはもうパーティーに行くような服装であり、
「ギンやんがそんな服を着てるんはご主人様奪還のためやろ?」
今から実際にパーティーに乗り込ませられるのだから。
いきなりフォルマに拉致られた俺は、馬車に乗せられていた。
「どこ行くんだ」
「んー、ディアスタ・シスダススのいるパーティー場」
にこやかな天パはそんなことを言い出したのである。
曰く、現在23歳のディアスタ・シスダススには結婚適齢期になっても女のおの字の話題も出ない。
それはこの国を捨て、他国に行くと言うこのなのか!
よろしいならば婚活だ。
――要は、この国を出ていくことを恐れた国のお偉いさんが姫やら令嬢やらを嫁がせてこの国に永住させようという計画らしい。
ディアスタ・シスダススは個人で持つには余りにもデカすぎる力を持っており、その力が国外に出て、暴れるのなら国がひとたまりもないのでしっかりと手綱を握っておきたい。ならばやはり結婚じゃね?とのこと。
今のままだと無理やりにでも結婚させられそうなのでそれを阻止するなら俺が主の嫁になればええやん、と言う謎の状況。
個人的には彼が幸せならそうでいいと思うのだが、と言うとフォルマにこうキレられた。
“僕がアスやんにギンやん女やでと言った瞬間一撃で求婚準備に入ったんやで”
何その知りたくもなかった事実。
それほどまでに吸血鬼は血が好きなのか!?
とか何だかんだで、完全に女にさせられた。
着替えさせられる前に髪を腰のあたりまで切りそろえられ。その上、顔が完全に露出するかの如く眉毛の少し下辺りまで切られ、かなり視界がスッキリしたし、頭が軽くなった。
化粧は薄らと。コルセットとか下着とかを店の店員に選ばれてる時に、
「何故こんなにもスタイルがいいのよ!」「コルセットがすんなりと付けられる…だと!?」「きめ細かい白い肌にはやはり黒かしら…」「くっ、これが美少女の力だと言うのか、恐ろしいものだな」「その声で罵って!」…etc。
何か思い出してはいけないものがあった気がする。
こんなことで現実逃避ができる訳もなく、割と真面目な正装をしたフォルマにエスコートされ、会場へ。
「眩しい」
赤い絨毯ににシャンデリア、だだっ広い室内はそれなりの人がいた。
それもすぐに証明がポッと落ち、今度は俺にピンポイントで証明があてられた。
お辞儀しいや、と言われたので慣れないハイヒールでバランスに気を使いながらスカートのすそをつまみあげ、少し頭を下げる。
会場はざわざわし始める。
『登場少し遅れました、ギリシュアン商会推薦の少女 ギン・トーヤマ様です』
……何この羞恥プレイ。
フォルマ、標準語喋れたんだな。
「ギリシュアン殿、どういうことだね」
その言葉と共に指を鳴らす音がし、再び会場に光が戻る。
「何と言われましても、この少女こそが我親友、ディアスタ・シスダススの伴侶に相応しいと思い推薦しただけですよ」
「シスダスス殿の御旧友のギリシュアン殿にも推薦権利があると言ってもそれは…」
「彼女の称号は“聖女”と“異世界人”有力な子孫を残してくれること間違いなしです」
「だ、だが――」
それでは、我が国と結びつきを作れないではないか、とでも言いたそうな顔をするお偉いさんと思しき人物。
「何より、この彼女に半年も前から恋焦がれていたのはディアスタ・シスダスス、その人ですよ」
本人の希望は大事ですよ、と言いながら彼は一歩下がる。
するとふっと現れたのは主であるディアスタである。
「シュバイン卿。彼、ギリシュアンが言っていることは事実です」
「シ、シスダスス殿」
「自分自身、踏み出せなかったのもありますが、私が彼女を好いていることは事実であり、変わることはありません」
…主がこんなにも長文を発したのを聞くのは初めてである。
「この場を借りると言っては何ですが、私ディアスタ・シスダススは彼女ギン・トオヤマに結婚を申し込みます。そして、神に誓いこの国を守り抜くことを誓いましょう。ですが、私たちの平穏を崩すのならば容赦はしません」
“アスやんはギンやんがここにいるからその場所を守ろう言っとるだけやけどな”と小さい声で茶化しを入れてくる。
その言葉にお偉いさんと思しき方は後ずさり、数回咳をし、それを認めた。
「どうか、私の妻になっていただけませんか」
「は、はい」
“あ、ギンやんの奴隷契約勝手に切ってもーたけどこれでまた衣食住確保されるで”・・うるさい。
後日聞けば奴隷と主人が結婚するのはこの国の法律で禁じられている行為として有名であるが、一体いつ奴隷契約を解除したんだこいつは。
その後、この場を完全に台無しにしたと思われる出来レースの様なこのパーティーは意外な結末を迎える。
それは、数々の令嬢からのお礼である。
婚約者と愛し合っていたが、勝手な親の都合でこっちに来させられた令嬢(12名*出席していた令嬢の8割)からである。
自身の恋愛は捨て、結婚後育んでいけばいいと分かっているものの、それでも愛は捨てきれなかったらしくまた、彼の元へといけるとのこと。
……おそらく。これを仕込んだ犯人であるフォルマはうまくいって笑みを受けべているであろう。
俺の声にやたら驚いていたが何だったんだ?
後に聞いた話では
“吸血鬼の求婚は半年を超える吸血からなり、それをすべて受け入れることのできる者こそが、伴侶となる”
よこしまな感情が少しでもある者は吸血の際のあの特殊な液体で半ば廃人になってしまうらしい。
後、血を毎日血を吸われても問題がないものでないと子孫を残すなど夢のまた夢だそうだ。
半年前からこの計画を練っていたフォルマには呆れを通り越して関心すら覚えた。
いつも愚だ愚だのいつ更新されるか分からない作品に
お付き合いしていただき誠にありがどうございます。
この後は後談を書いていく予定です。
本格的に主人公が落とされるのは今後です。
……アレ、主より友人の方が働いてるってどういうこと。