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第六章-2

 たったの四人とは言え遠慮なく魔法を使う連邦陸軍辺境警備隊に、技術力で遥かに劣っているこの惑星リューガの武器しか持たないただの警備員が何人束になったところで敵うはずもない。クラム・ゴップ製薬ロールト第三研究所の制圧は、あっけないくらい簡単に済んでしまった。研究所内の警備員は残らず昏倒させ、研究員は適当な部屋を使って一箇所に集める。

「なんだかスムーズに事が運び過ぎて、逆に不安になりますね」

 マークが誰にともなく呟いた。ジゼルが魔装薙刀を担ぐようにして、柄でトントンと軽く肩を叩きながら応じる。

「あたしたちが本気を出せばこんなもんでしょ。マークは心配性なのよ」

「な、なんなんだ、貴様らは!?」

 集めた研究所員の中でもどことなく偉そうな一人が怯えうろたえた声を上げた。この研究所の所長かなにかのようだ。

 常識的に考えて、彼らの研究成果を狙う産業スパイ等がこうして正面から武力制圧してくるはずはあるまい。かと言って、テロリスト等に襲撃されるような心当たりもないのだろう。

 ジゼルは魔装薙刀の柄頭を床に突いて、左手を腰に当てその男に答える。

「セレストラル星系連邦陸軍第六辺境警備師団第二連隊第一大隊第七小隊です。この研究所には、連邦のなんらかの組織からこの星にはあってはならないレベルの技術供与を受けている疑いがある為、強制捜査を行いました。――こう言えばわかるかしら?」

 それを聞いてその男の顔色が変わった。しかし研究員の大半は、なにを言っているのか解らないという雰囲気で隣の者と顔を見合わせたりしている。どうやら連邦の存在を知っているのはトップの一握りの人間だけのようだ。

「クォン、調査頼むわ」

「へいへい。――この研究所内には、独立(スタンドアローン)のシステムがあるよな? そのシステムの管理者(アドミニストレーター)権限を持ってるのはどいつだ?」

 研究員たちはクォンの質問に積極的に答えるようなことはしなかったが、なんとなく視線が一人に集中してしまう。クォンはその視線の集まった先の中年女性に言った。

「IDとパスワード、貸してくんねー? ハッキングしてもいいけど面倒くせーし」

「ばか言わないで! 大切な研究データを保管しているサーバーを、どこの誰とも知れない人間に触らせるわけには――」

「『ブレイド』」

 拒絶の言葉を並べるその女性に、クォンは魔力剣を突き付ける。

「だから、ハッキングしてもいいって言ってるじゃんよー。隠したって結果は同じだぜ? けど、時間が勿体ねーだろ?」

 脅迫者の手の中に手品のように現れた光の剣を、その女性は驚きと怯えの混じった目で見詰めた。連邦製の魔法を知らない彼女には、それに殺傷能力はないことなど判るはずもない。少し躊躇った後、おとなしく自分のIDとパスワードを口にした。

「ありがとよー。――さーて、それじゃ、仕事を始めるかー」

 クォンは部屋の中にあった端末に向かい、システムにアクセスする。

「おー、見慣れたOS。やっぱり、ここのメインフレームは連邦製っすね」

 作業を始めながら、ジゼルに報告してくるクォン。

「そう。当たりでよかったわ」

 ジゼルが暢気な返事をする。暫し、クォンがキーボードを叩く音だけが部屋の中に響いていた。

 ちなみに研究所を制圧する過程で実験に使われていた子供たちの部屋を発見していたので、クラリッサが残ってそれらの子供たちを解放して面倒を見ている。

「あー?」

 突然、クォンが不思議そうな唸り声を上げた。

「なぁに? どうしたの?」

 ジゼルの問い掛けに、クォンが振り返って答える。

「なんにもねーんすよ。それも研究データが見付からねーとかいうレベルじゃなくて、まるっきり新品か、フォーマットでもしたみてーになんにも入ってません」

「どういうこと? ――あたしたちに研究データを渡さないように、予め消去しておいたってわけ?」

 ジゼルが目を細めて研究所長らしき男を睨み据えたが、彼は狼狽したように言い返した。

「なんだそれは!? 知らんぞ!? 私はそんな指示は出していない!」

 貴重な研究データが消えていると聞いて、研究員たちが顔を青ざめさせる。襲撃を受けて生命の危機に晒されている――と彼らは思っているはずだ――ということよりも、そちらのほうが重大事らしい。ジゼルがシステム管理者の女性に言った。

「そんな大事なデータなら、当然バックアップくらい取ってあるんでしょ? それを出しなさい」

「そ、そうだわ。バックアップがある……!」

 安堵した様子の彼女に案内させて、クォンがバックアップの記憶媒体を保管している部屋へ向かう。しかし、暫くしてクォンに伴われて戻ってきたその女性は、酷く混乱し絶望したような顔になっていた。

「……なにか問題があったの?」

 嫌な予感に襲われて、眉をしかめながらジゼルが問う。

「記憶媒体の保管庫だって部屋に行ったんすけど、酷い有様で。バックアップの記憶媒体(ストレージ)が根こそぎ破壊されて、部屋中に散乱してました。このオバサンの顔色からすると、嘘吐いてるようには見えねーっすね」

 クォンの衝撃的な答えに、研究員たちがどよめいた。彼らが我先にその保管庫に確認に向かおうと部屋の出口へ殺到する。それを鎮める為、マークは安全装置(セイフティ)を解除した射撃魔法で天井の照明の一つを破壊しなければならなかった。

「システムからはデータが消されてて、バックアップも全て破壊されてる……。これって、どういうこと?」

 ジゼルが首を捻りながら独り言のように呟く。研究員たちは大混乱で、彼女の言葉は聞こえていないようだった。マークが思案しながら応じる。

「先ほど小隊長御自身が仰った通りでしょう。我々に研究データを渡さない為に、先んじて処分しておいたとしか考えられません」

「でも、誰が? この慌てぶりを見たところじゃ、ここにいる人たちじゃないのは確かみたいよ? それに、その誰かはどうしてあたしたちが来ることを知ってたの?」

「それが何者の仕業なのかはわかりませんが、その何者かも我々が今日このときにここを制圧に来るとまではわかっていなかったはずです。なにしろ決定したのがつい先刻で、我々自身でさえ正確に予定していたわけではないんですからね。おそらく近々踏み込まれると結論付けられるなんらかの根拠を持っていて、それに備えていたのでしょう。そして、我々が踏み込むのと同時にデータを処分し、姿を消したのではないでしょうか」

 そのマークの推論に、ジゼルは緩く頷いた。

「そんなとこかしら……。んー、でも、そのなんらかの根拠って――、あ、そっか、オデットよ。あたしたち連邦陸軍辺境警備隊があの()を保護したって知ってれば、事態がこうなるってことは簡単に想像がつくわ」

「それは確かにそうかもしれませんが、我々が彼女を保護したことは知られていたとしても、我々の正体までは彼らには知られていなかったはずです」

「そうだろうと思ってたけど、どうしてかその誰かさんだけは知ってたみたいね。知っててその情報を隠匿し、おそらく自分の分だけコピーを取っておいて独断で研究データを処分して逃げ出した。――んー、つじつまは合うけど、その誰かさんの意図が見えないわね……」

 ジゼルは自分で言いながら、納得しかねるように首を捻る。マークも懐疑的な顔だ。少しの沈黙の後、ジゼルが再び口を開いた。

「まぁ、いいわ。動機については考えても仕方ないし、この際置いておきましょ。連邦の存在を知ってて、なおかつ最前まではいたのに今はこの場にいないっていう人物がいれば、そいつが怪しいってことよね。――そんな人間に心当たりはない?」

 ジゼルは研究員たちに問い掛ける。彼らは互いに顔を見合わせるが、その中から呟くような声が漏れ聞こえてきた。

「……そういえば、本社のほうから来たっていうあのお客さんたちを見掛けないな」

「ばか者! 余計なことを――」

 慌てて叱責の声を上げる研究所長らしき男の鼻先に、ジゼルはピタリと魔装薙刀の切っ先を突き付ける。

「そのお客さんっていうのは何者?」

「う……。わ、我々に技術協力してくれている企業から、実験サンプルを受け取りに来た人間だ。本社からの話では実験サンプルを受け取ってすぐに帰るということだったのだが、その実験サンプルを紛失して渡せなくなってしまった為に、それを探す間滞在してもらっていた。本社のほうから言われただけなので、それ以上のことは私も知らん!」

 その男は両手を挙げて、ぺらぺらと聞いていないことまで話してくれた。大振りの刃物を目の前に突き付けられているのが余程恐ろしいらしい。

「実験サンプル、ですって!?」

 彼の言う『実験サンプル』がオデットを指しているということは言われずともわかる。ジゼルは怒りの感情が一気に湧き上がってくるのを自覚した。激情に任せて魔装薙刀を一閃する。その男の髪の毛が一房、宙に舞った。

「小隊長! 落ち着いて下さい!」

 マークが慌てて制止する。ジゼルは顔を見るのも不愉快だというように、その男に背を向けた。大きく深呼吸して気を静める。

「……大丈夫よ。こんなやつを斬ったところでなにも解決しないもん。こいつらには相応の罰を受けさせるわ」

「はい」

 同意するマークに頷いて、ジゼルは話を戻した。

「とにかく、そのお客さんっていうのが怪しいわね。念の為、アッシュたちにも連絡しておきましょ。それから、そいつを探さないと」

 ジゼルは念話魔法を起動する。

「『テレコミュニケーション』。――ダーリン、カテジナ、そっちのほうは何事もない? ていうか、なにもしてないでしょうね?」

 怒りを忘れる為、わざとふざけたことを言ってみた。しかし、暫く待っても返事がない。

「アッシュ!? カテジナ!?」

「どうしました?」

「念話が繋がらない! 妨害魔法(ジャミング)されてるか、結界を張られてる!」

 尋ねてくるマークに、ジゼルは焦りの滲んだ声を返す。

「緊急事態よ! 急いで駐留基地(ベース)に戻るわ! マーク、警察のほうは!?」

「もう十分もしない内に、警官隊が突入してくるはずです」

「悪いけど、マークは残って警察に引き継ぎをお願い。研究データがなかったのは痛いけど、ここの機材とあの実験に使われてた子供たちの証言だけでも十分にここで違法な研究が行われてたって証拠にはなるでしょ。あなたも警察への対応が済み次第、出来るだけ急いで戻ってきてちょうだい」

「アイアイ・マム」

 ジゼルの指示に、マークが敬礼する。

「クォン、聞いてたわね? リッサと合流して駐留基地(ベース)に戻るわよ!」

「了解っす!」

 ジゼルはクォンを伴ってその部屋から飛び出した。

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