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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第67話 食養院の火を任せる

冬が深まる前、リディアは食養院の運営表を大きく書き換えた。これまで最終確認の欄には、必ず彼女の名があった。薬草棚、講習予定、王都への写し、村の巡回、兵団の食袋。どの項目にも、公爵夫人確認済み、という小さな印がつく。


 その印を、少しずつ外すことにした。最初に反対したのは、リディア自身の心だった。


 帳面の前で筆を止めるたび、不安が胸に浮かぶ。見落としがあったらどうする。誰かが無理をしたらどうする。自分が確認すれば防げるのではないか。


 だが、すべてを自分が確認し続けるなら、食養院はいつまでも一人の手の延長でしかない。リディアは新しい欄を作った。


 薬草棚は薬師と炊事係の二名確認。

 講習予定は担当講師と記録係。

 巡回は村の代表を含む三名。

 兵団の食袋は炊事係、隊長、食養院の講師。


 公爵夫人の確認欄は、緊急時と月末の総覧だけにした。掲示板に貼ると、見習いたちはざわめいた。


「夫人が見ないのですか」


「見ない日も作ります」


「不安です」


「私もです」


 正直に言うと、部屋が静かになった。リディアは続けた。


「だから、仕組みにします。不安だから一人で抱えるのではなく、不安だから二人で見る。三人で記録する。私が見ないことは、放り出すことではありません」


 その日、薬草棚の最初の二名確認は、エダと若い薬師が担当した。リディアは離れた机で別の書類を読んでいたが、耳はどうしても棚のほうへ向く。白葉草の束が少し湿っている。自分ならすぐに別棚へ移す。


 言いかけて、彼女は口を閉じた。エダが葉を指で触り、眉を寄せた。


「これは、乾きが足りません」


 薬師がうなずいた。


「北側の棚へ移しましょう。記録に湿りあり、と書きます」


 リディアは、手元の紙を見たまま息を吐いた。気づいた。


 自分が言わなくても、気づいた。夕方、エルヴィンが食養院へ来たとき、リディアは少し疲れた顔をしていたらしい。


「何か問題があったか」


「ありませんでした」


「では、なぜそんな顔をしている」


「問題がないことに慣れていなくて」


 エルヴィンはしばらく考え、それから笑った。


「君には新しい訓練が必要だな」


「どんな訓練ですか」


「任せて、黙って、あとで礼を言う訓練だ」


 リディアは言い返そうとして、できなかった。夜、彼女は薬草棚の記録を見た。


 エダの字と薬師の字が並び、湿りあり、移動済み、と書かれている。リディアはその下に、確認済みではなく、こう書いた。


『対応ありがとうございます』


 小さな一文だった。けれど、食養院の火を任せるために必要な一文だった。

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