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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第43話 二つの食卓

王都から戻る途中、リディアたちはベルセ子爵家へ立ち寄った。リディアから希望したわけではない。養父から、公爵夫人となった娘を正式に迎えたいという手紙が届いたのだ。


 エルヴィンは、行かなくてもよいと言った。


「無理に会う必要はない」


「会っておきます。今後、距離を決めるためにも」


 ベルセ家の屋敷は、昔と変わらなかった。手入れの行き届いた玄関、薄い香、少し古い家具。リディアが朝早く王宮へ向かっていた頃、誰も見送りに来なかった廊下。


 養父母は、丁寧に迎えた。丁寧すぎるほどだった。


「リディア、いや、公爵夫人。よく来てくれた」


 養父は笑顔を作り、養母は豪華な茶を用意していた。食卓には王都風の菓子が並ぶ。かつてリディアが朝に食べる時間もなかった家で、今日は彼女のために席が用意されている。


 胸の奥が、少し冷えた。食事の途中、養父は言った。


「これからは、ベルセ家も公爵家の縁者として」


「お父様」


 リディアは静かに遮った。


「今日は、その話をするために来ました」


 養父の笑顔が固まる。


「私は、育てていただいた恩を忘れていません。ですが、私の仕事や婚姻を、ベルセ家の社交的利益として扱われることは望みません」


「何を言う。家族ではないか」


「家族なら、私が王宮で朝食を作るために何時に起きていたか、ご存じでしたか」


 食卓が静まった。養母が目を伏せる。


「国王陛下の食事を支える名誉な仕事だと聞いて」


「名誉でした。けれど、名誉だけで体は保ちませんでした」


 リディアは怒鳴らなかった。怒鳴る必要は、もうなかった。


「今後、ベルセ家との付き合いは礼儀を持って続けます。ただし、私の財産、仕事、名は私が管理します。公爵家との窓口も、正式な書面を通してください」


 養父は不満そうだった。だが、エルヴィンが静かに同席している。強くは言わない。ただ、リディアの言葉が軽く扱われないようにそこにいる。


 養父は結局、頷くしかなかった。帰り際、養母がリディアへ小さな布包みを渡した。


「あなたのお母様のものです。ずっと仕舞っていました」


 中には、古い布巾と、母セラの筆跡が残る小さな料理札が数枚あった。養母は目を伏せた。


「あなたが王宮へ通うようになった時、渡すべきだったのかもしれません」


 リディアは布包みを受け取った。


「ありがとうございます」


 許すかどうかは、すぐには決めない。けれど、受け取ることはできた。


 馬車に戻ると、エルヴィンが尋ねた。


「大丈夫か」


「少し疲れました」


「北境へ帰ったら、温かいものを」


「はい」


 リディアは布包みを抱えた。ベルセ家の食卓は、彼女を飾りとして迎えようとした。


 北境の食卓は、彼女に自分の椀を置いてくれる。二つの食卓を知ったからこそ、リディアは自分がどちらで朝を作りたいかを、はっきり分かっていた。

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