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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第17話 薬草畑を取り戻す

ガレア商会が不良品を持ち込んだことで、北境の薬草畑再生は急務になった。城の北斜面には、古い石垣に囲まれた畑が三段ある。かつては公爵家の薬草係が管理していたが、戦と人手不足で荒れ、今は白葉草も甘草も雑草に埋もれていた。


 リディアは兵たちと一緒に畑へ通った。最初、兵は戸惑っていた。剣や槍ならともかく、鍬を持って土を掘るのは慣れていない。だが、胃を壊した経験のある者ほど真面目だった。


「この草が、あの湯になるのか」


 大柄な兵が白葉草をつまむ。


「そうです。葉を乾かして、咳の朝に使います」


「じゃあ踏めないな」


「踏んだら明日の湯が減ります」


 その一言で、兵たちは急に足元を気にし始めた。薬草畑は、戦場とは違う慎重さを教える場所になった。


 問題は水路だった。山から引いた細い水路が途中で崩れ、畑の上段に水が届かない。直すには石を積み直す必要がある。補給官ヘンリックは資材を見積もり、ため息をついた。


「木材は足りますが、石工が足りません。城壁の修理が優先です」


 リディアは畑の乾いた土を手に取った。このままでは、根が夏を越せない。


「水を全部戻せなくても、朝と夕に湯冷ましを撒けますか」


「厨房の余り湯を?」


「はい。洗い湯ではなく、冷ました清水を。兵舎からも少しずつ」


 ヘンリックは目を瞬いた。


「運ぶ手間がかかります」


「干し肉で腹を壊して救護所に運ぶ手間よりは少ないと思います」


 ヘンリックは笑い、記録板に書いた。


「その言い方は、兵に効きますね」


 夕方には、厨房から畑へ湯冷ましを運ぶ小さな列ができた。トマが先頭に立ち、ユアンが最後尾で桶を支える。誰も華やかな仕事とは思っていない。だが、桶の水が根元に染み込むたび、畑が少しずつ息を吹き返すように見えた。


 数日後、ガレア商会の使いが再び現れた。今度はヴィクトル本人ではなく、若い番頭だった。彼は城門で、北境が王都商会との取引を断つなら、今後の薬草供給が滞ると告げた。


 エルヴィンは取り合わなかった。


「契約通りの品を出す商会とは取引する。不良品で脅す商会とはしない」


 番頭は顔を赤くした。


「北境の荒れた畑で王都の品質に勝てるとお思いですか」


 その時、ユアンが畑から戻ってきた。泥のついた手で、白葉草の小さな束を持っている。


「少なくとも、これは甘い香水の匂いがしません」


 兵たちが笑った。番頭は言い返せず、馬車へ戻った。


 リディアは白葉草を受け取り、葉の裏を確かめた。


「良い状態です。乾燥棚を作りましょう」


「はい!」


 ユアンの声は、最初に救護所で聞いた弱い声とは別人のようだった。畑の再生は、ただ薬草を得るためだけではなかった。


 兵が自分の体を守る材料を知る。厨房が補給とつながる。商会に脅されても、別の道を持てる。リディア自身も同じだった。


 王宮という一つの場所に、価値をすべて預けなくていい。根は、別の土でも張れる。


 夜、乾燥棚の前で葉を並べていると、エルヴィンが来た。


「楽しそうだな」


「土の匂いは落ち着きます」


「王宮の厨房にはなかったか」


「鉢植えの薬草はありました。でも、根がどこまで伸びるかを見る場所はありませんでした」


 エルヴィンは、棚に並ぶ葉を見た。


「ここで伸びればいい」


 何気ない言葉だった。リディアは胸の奥が静かに揺れるのを感じた。


 ここで。それが仕事の話なのか、彼女自身の話なのか、すぐには分からなかった。


 ただ、どちらでも嬉しいと思ってしまったことに、少し戸惑った。

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