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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第12話 冬瓜と麦の祝宴

北境の城下町では、夏の入口に小さな麦祭りがある。小麦ではなく、大麦と燕麦の祭りだ。王都の貴族なら粗末だと笑うかもしれないが、北境では冬を越した倉から古い麦を出し、新しい作付けの無事を祈る大切な日だった。


 リディアがそれを知ったのは、厨房会議の後だった。


「祭りの食事は、毎年どのようなものを?」


 彼女が尋ねると、トマが嬉しそうに答えた。


「麦団子と山羊の煮込みです。あと、硬い焼き菓子。兵たちは酒も」


「胃を壊した兵が多い年に、そのまま出すのは少し危ないですね」


 トマの顔が曇る。


「祭りなのに、薄粥だけですか」


「いいえ。祭りは祭りらしくします」


 リディアは帳面を開いた。胃に優しいからといって、楽しみを全部奪えば、隠れて食べる者が増える。食事は体を守るだけではなく、心を戻すものでもある。


「麦団子は小さくして、出汁で煮ましょう。山羊は脂を落として、根菜を多く。酒は熱い麦湯で割ります。焼き菓子は硬すぎるので、蒸し菓子に変えます」


「蒸し菓子?」


「甘くしすぎず、冬瓜をすり入れます。水分が出るので柔らかいです」


 トマは目を輝かせた。


「祭りの菓子を作れるんですか」


「母が作っていました。病人にも子どもにも食べられるものを」


 祭りの準備は、厨房を忙しくした。兵たちは薪を割り、城下の女たちは根菜を洗い、子どもたちは冬瓜の種を取る。リディアは鍋の前で、味を強くしすぎないよう何度も確認した。


 エルヴィンは午前の見回りを終え、厨房に顔を出した。


「手伝えることは」


 リディアは思わず、彼の胃を見るような目をした。


「公爵様は、まだ山羊の脂を避けてください」


「手伝えることを聞いた」


「では、冬瓜を運んでください。持ち上げるだけです」


 厨房番たちが固まった。公爵が冬瓜を抱える姿は、たしかに珍しい。だがエルヴィンは真面目に大きな冬瓜を持ち上げ、作業台へ運んだ。


「これでいいか」


「はい。ありがとうございます」


 リディアが礼を言うと、彼は少しだけ満足そうに頷いた。夕暮れ、城下広場に湯気が立った。


 大鍋の煮込みは、王都の晩餐ほど華やかではない。だが、麦団子は柔らかく、根菜は甘く、山羊の匂いは薬草で穏やかに整えられている。蒸し菓子には冬瓜の水分が残り、噛むと少しだけ蜂蜜の香りがした。


 兵たちは最初、不満そうに鍋を覗いた。


「今年は薄いな」


「胃を壊したいなら去年の残り方を真似してください」


 リディアが静かに言うと、周りで笑いが起きた。ユアンは蒸し菓子を両手で持ち、慎重に食べている。


「うまいです。甘いのに、苦しくならない」


「たくさん食べすぎると苦しくなります」


「二つまで?」


「一つ半です」


「半分をどう数えれば」


「トマさんと分けてください」


 トマが嬉しそうに手を挙げた。広場の隅で、エルヴィンは小さな椀を持っていた。彼の分だけ、山羊肉を抜き、麦団子をさらに柔らかくしてある。


「祭りなのに、特別扱いだな」


「治りかけの胃には必要な特別扱いです」


「昔から、祭りの日は兵と同じものを食べていた」


「同じ皿で倒れるより、違う皿で立っていてください。兵の方々は、その方が安心します」


 エルヴィンは椀を見下ろした。


「あなたは、言い方が柔らかいのに逃げ道が少ない」


「逃げ道を作ると、病人はそこから干し肉を食べます」


 彼が小さく笑った。広場には歌が始まっていた。華やかではない、低くて素朴な歌だ。子どもが走り、兵が火の番をし、マルタが配膳の列を整える。


 リディアは、その輪の外にいるつもりだった。けれどマルタが蒸し菓子を一つ持ってきた。


「リディア様の分です」


「私は後で」


「後でと言う方は、たいてい食べません」


 そう言われて、リディアは菓子を受け取った。柔らかい。温かい。自分で作ったはずなのに、誰かに手渡されると違うものに感じる。


 エルヴィンが隣に立った。


「食べるところまでが食事だと、あなたが言った」


 リディアは少し笑って、蒸し菓子を一口食べた。冬瓜の淡い甘さが、喉を通る。


 祭りの湯気の中で、彼女は初めて、自分の作ったものを自分のために味わった。

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