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婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


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27 部屋の片づけ

 27 部屋の片づけ


 翌日、王宮へ行って書類の訂正をした。

「調査区域指定責任者任命権限権」は、「調査区域指定責任者任命権限」として、無事に登録された。

 それからケイトは自分が暮らしていた部屋に向かった。


 廊下は静かだった。 窓から差し込む光だけが、磨かれた床へ細く伸びている。

  「なんか久しぶりですねぇ」 ケイトがぽつりと言う。


 隣りを歩くマイクは、周囲を軽く見回してから答えた。

「戻って来たいとは思わないか?」

「まったく」 あっさりと否定された。

「今の宿のほうが落ち着きます」

「だろうな」


 そんな話をしながら目的の場所へ向かう。

 だが、あたりに誰もいなかった。

「その辺に侍女がいるかと思ったんですけど」

「忙しいのだろう」

「待っていればだれか通るでしょ」

 そういうとケイトは窓から外を見た。

  庭がよく見える。剪定された木々と噴水。

  遠くで侍女たちが動いている。

「平和ですねぇ」

「お前がいると平和に見えん」

「どういう意味です?」


 マイクが答える前に、後ろから控えめな声がした。

  「キャサリン様ですか?」 ケイトは振り返った。

  顔は知っている。だが、名前までは覚えていない。

  目的もわからない。 だから、ケイトは黙って相手を見た。

  女性は少し緊張した様子で続けた。

「わたしは、侍女長の補佐をしております。お手伝いすることがございますか?」

「ありがとうございます。今はケイトと名乗っておりますので、そのように」

「まぁ、失礼致しました。ケイト様」

「平民ですので、ケイトと」

「畏まりました」


 丁寧な返答だった。 ケイトは軽くうなずく。

  「部屋をそのままにしておりましたので、片づけに来ました」

  「あぁ、それは、お待たせして申し訳ありません」 侍女長補佐は慌てて鍵束を取り出した。

  鍵穴へ差し込み、慎重に回す。 重い音と共に扉が開いた。

 室内は静まり返っていた。

 家具の位置も変わっていない。

 机も、本棚も、まるで時間が止まったかのようにそのまま残っている

 ふわり、と閉じ込められていた空気が流れ出した。

 かび臭い。

 ここに住んでいた頃の記憶には、そんな匂いはなかった気がするが、案外ずっとそうだったのかもしれない。


「お手伝いいたします」 侍女長補佐が先に部屋へ入る。 ケイトも続いた。


  侍女長補佐が周囲を見回し、小さく首をかしげる。

「あら、どなたかが片づけに?」

「いえ、ノートを一冊だけですね」 驚いている侍女長補佐を観察する。

「なんの変化もありませんね。かび臭いだけですね」


 その横で、マイクは黙ったまま窓を開けていた。

 ぎい、と音がして、外の風が入って来る。

  「ケイト」 マイクが話しかける。

「荷物を全部持ち出すほうが速い。こちらのご婦人が、いてくれてよかった。持ち出した物の証人になってもらえる」

「あぁ、そうですね。よろしくお願いします」

「承知しました」 侍女長補佐がすぐにうなずいた。


「それなら、記録する者を呼びましょう」 壁際の呼び鈴を押す。

 だが、音は鳴らなかった。 侍女長補佐が困った顔になる。 ケイトはさらりと言う。

「それ、最初から壊れてましたよ」

「そうだったのですか!?」

 マイクが吹き出した。堪えようとしている気配すらなかった。

「それでよく生活してたな。一応は婚約者だろ」

「慣れです」

「怖い言葉だな」


 マイクはそう言うと、扉へ向かった。

「呼んで来る」

「お願いします」

  しばらくして戻って来たマイクの後ろには、見覚えのある文官がいた。

 以前、ノートを回収してくれた男だ。


「部屋を片づけるので記録を取ってください」 侍女長補佐が確認を始める。

「ドレス三枚、着替え、ヘアブラシ、櫛、銀の髪飾り、リボン数組、裁縫道具」

  文官のペンが走る。

「インク瓶、羽ペン、定規」

「王宮勤務者名簿、辞書が五冊」

「ノートとかメモ用紙」


 そこで侍女長補佐が首をかしげた。

「これだけですね」 部屋の広さに対して、あまりにも少ない。

 侯爵令嬢の部屋とは思えないほどだ。

 ケイトは平然としていた。

「それでは、収納します そう言って、次々と荷物を収納へ入れていく。

 服も、本も、小物も。 すうっと消えていく様子に、侍女長補佐が目を丸くした。

「そんなことが出来るんですか?」

「えぇ、必要に応じて対処していたら、出来るようになったんですよ」

「必要に応じて」 文官がぼそりと繰り返す。 その顔がなんとも言えない。


 ケイトは最後に、空になった棚を軽く叩いた。

「さて、これでからっぽですね」 くるりと部屋を見回す。

「ほらね。全部、焼き捨ててもいいものばかりだったでしょう」

 とマイクに話しかける。

「確かにそうだったな」


 侍女長補佐は、複雑な顔をしていた。

 マイクは意地悪な気持ちになったので、言った。

「王太子の婚約者ってほんと、安く使えるんだな」

「ですよね」 その返事に、侍女長補佐と文官が顔を見合わせる。

 けれど、それが何なのか、言葉に出来ない。 いろいろ思うところはあれど、口にできない。

 侯爵令嬢で、長年王太子の婚約者だった少女の部屋。

 そこにあったのは、部屋の主ですら、ゴミだと言える物ばかりだった。

 誰も、何も言わなかった。ただ空になった棚だけが、白い壁の前に立っていた。

いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。


書籍を出すことができました。2026/6/2発売です。

挿絵(By みてみん)




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― 新着の感想 ―
なんと恥ずかしい王族か、婚約者の部屋を粗末な状態で放置など、、、外聞も悪いわな
切ねえ〜
王太子の婚約者の部屋が狭い時点でお察しだな。 記録に残してこれからの婚約者に対しても同じ環境にしてあげよう、 それが王家の王太子の婚約者への対応なんだから、いっそ伝統にしよう。
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