表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/72

16 さっそく働きます

 16 さっそく働きます


 今日はケイトの初めての出勤日だ。


 王城の一室。かつてキャサリンが日々書類を片付けていた執務室には、朝から妙な緊張感が漂っている。


 文官たちは机に向かっているものの、どこかそわそわしていた。


 その原因は、部屋の中央に立つケイトだ。


 ケイトは平民の晴れ着程度の、飾り気の少ないワンピースを着ていた。


 だが、その立ち姿は妙に堂々としている。


 以前も地味なドレスで宝石も少なかったが、一応は令嬢の姿だったのだが……


 それなのに、なぜか視線を引いた。


「それでは、少しだけお話します」


 ケイトが静かに言うと、部屋の空気が引き締まった。


「わたしは冒険者ギルドから依頼を受けて来ています。ですので、冒険者として行動します」


 さらりと言った言葉に、何人かの文官が顔を見合わせる。


「執務はしません。指導のみです。質問には答えますが、わたしが代わりに片付けることはありません」


 ぴしりと言い切った。


 以前なら、誰かが押しつければ黙って処理していた少女とは思えない。


 レイモンドが小さく咳払いした。


「本日は、まず書類整理の手順確認から――」


「その前に」


 ケイトが遮った。


「わたしが以前まとめていたノートがあります。王城で過ごしていた部屋に置いてありますので、取って来てください」


「ノートですか?」


「はい。執務で気づいたことを書いていました。整理の仕方とか、視察準備とか、そういうものです」


「すぐに!」


 若い侍従が勢いよく頭を下げ、部屋を飛び出して行った。


 その後ろ姿を見送りながら、周囲がざわつく。


「そんなものを残していたのか」


「なにが書いてあるんだろう?」


 ひそひそ声が漏れる。


 しばらくして、侍従が戻って来た。


 後ろには侍女が二人ついている。


「ケイト様、こちらに」


 抱えてきたのは分厚いノートの束だった。


 革表紙は使い込まれて角が擦れている。


 ケイトはちらりと見て、うなずいた。


「それです」


 侍女の一人が、おそるおそる口を開く。


「あの、ケイト様。よろしければ、お部屋の私物をお持ちになりますか?」


 部屋の空気が止まった。


 誰もが返答を待つ。


 だがケイトは、あっさりと言った。


「いえ。わたしには不要です。すべて焼却してください」


「え……」


 侍女が青ざめる。


 周囲の文官たちも目を丸くした。


「あの、それは……」


「ケイト、それはすっきりするが、寄付できる物もあるだろう。後で部屋を確認してはどうだ?その上で捨てるなり、焼却するなり決めればいい」


 横からマイクが口を挟んだ。


 彼は、護衛として同行している。今まで、黙って壁際に立っていたのだ。


 ケイトは少し考え込んだ。


「そうですね」


 少しだけ視線を落とす。


「本とか文具なら、使える人がいるかもしれません」


「だろ?」


「では後で確認します」


 その返答に、侍女たちがほっとしたようだった。


 ケイトは机の上にノートを置く。


 ぱらりと開けば、整った文字が並んでいる。


 視察時の確認事項。


 予算確認の優先順位。


 地方ごとの注意点。


 文官への伝達順。


 王妃側との調整方法。


 細かく、実務的で、驚くほど読みやすい。


「はい。このノートに執務について気が付いたことが書いてあります。自由に見てください」


 ケイトは淡々と言った。


「王妃殿下の執務もやっておりましたので、そちらのことも書いてあります。参考に」


 文官たちの目の色が変わった。


 一人が思わず身を乗り出す。


「王妃殿下の執務まで……?」


「参考程度ですよ」


「参考で済む内容ではありませんが!?」


 別の文官が慌てて言った。


 ケイトは首をかしげる。


「そうですか?」


「執務はして下さらないんですか?」


 切実な声だった。


 ケイトはきっぱり言った。


「しません。指導のみです」


 その瞬間、あちこちから小さな落胆の気配が漏れた。


 マイクが吹き出しそうになっている。


 ケイトは気にせず続けた。


「それからパーシー」


 隅にいたパーシーがびくっと肩を揺らした。


「は?」


「キャサリンの部屋はどうなってますか?」


「どうだか……」


 視線が泳ぐ。


 ケイトは淡々と続けた。


「おなじようなノートが、あちらの部屋にもあります。部屋が残っているなら、ノートがあります」


「部屋が残っているならって……」


 誰かがぽつりと呟いた。


 その声に、別の文官が小さく返す。


「ほら、あの場で勘当されたから、何も持ち出してないんだよ」


「なるほど。徹底してるな……」


「あー……」


 微妙な空気が流れる。


 事務局長が額を押さえ、それからパーシーを見た。


「パーシー。すぐに家に戻って部屋を確認しろ」


「はい?」


「部屋が残っていて、荷物が残っていれば、ノートを回収して来い」


「はいぃ……」


 情けない返事だった。


 パーシーは明らかに不安そうな顔で部屋を出て行く。


 扉が閉まると、マイクがわざとらしく大きな声で言った。


「ケイト、部屋が残ってると思うか?」


 ケイトは肩をすくめる。


「どうでしょうねぇ」


 それから、少し笑った。


「まぁ、目ぼしいものはそもそも持ってないから」


「なんと……」


 文官たちが絶句する。


「王室も知ってたんだろう」


「ほら、母方の宝石を」


「あぁ、夜会でな」


「夜会、面白かったろうな」


 ぼそぼそと囁きが広がる。


 ケイトはそれを完全に無視した。


「それでは」


 ぱん、と軽く手を叩く。


「何もしないのもなんですので、王太子の執務室員はここに残ってください。残りは解散」


「え?」


「書類をこの部屋に回さないでくださいね」


 にっこり笑って言った。


 その瞬間、文官たちが一斉に動き出した。


「止めろ! 止めろ!」


「今日の分は各部署で抱えろ!」


「絶対にここへ持って来るな!」


「山積みにするな!」


 悲鳴のような声が飛び交う。


 ケイトはその様子を見ながら、くすりと笑った。


「いいですねぇ。仕事してるって感じです」


 マイクが横で肩を震わせている。


「お前、絶対楽しんでるだろ」


「当然です」


 ケイトは胸を張った。


「今はちゃんと報酬が出ますから」


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
部屋が残っていれば、の言い回しが…。 部屋が無事なら部屋の中の物なら、義妹が(宝飾品を)根こそぎ持っていくだろうけど、ノートは身を飾るものにならないから要らない、で残している可能性はあるけど、部屋ごと…
まぁ詳細な引き継ぎ書いてあれば大抵のことはそれよめば出来るんだよな〜。出来なかったら聞いてね!!ってことなので…デスヨネ〜〜
報酬出るのは大事やね 個人の部屋だったみたいだから漁ってる方がヤバイと思う まあ上に許可とって見たい部屋ではあるだろうけど、突然膨れ上がった仕事が積み上げられてる現状考えるに仕事放って王太子の元婚約…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ