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73.緊急の使い

だが、滞在六日目のことだった。


「王宮から緊急の使いが来ました!!」


「王宮から?」


「休憩なしで馬で駆けてきたらしく、

 とりあえず応接室で水を飲ませています」


「わかった。リンネアはどうする?」


「私も行きます」


緊急の使いがここまで来るというのはよっぽどのことだ。

何があったのか私も気になる。


マティアス様と応接室に向かうと、使者が床に座り込んでいた。

休憩なしでここまで来たというだけあって、疲れ果てているように見える。


使者はマティアス様に気がついたのか、慌てて立ち上がり礼をする。


「緊急の用とはなんだ」


「は、はい。あの……皇太子殿下ではなく、リンネア様に……」


「は?リンネアに?どういうことだ」


私には心当たりが全くなく、マティアス様と顔を見合わす。


「あの……実は四日前から王太子殿下が部屋から出て来なくなってしまい、

 王太子妃様も追い出されてしまって……。

 ドア越しに話しかけても誰も入ってくるなと」


「王太子が?初夜はつつがなく済んだのか?」


「ええ、はい。一日遅れてしまいましたが、問題なく。

 閉じこもってしまったのは、初夜を終えた次の日のことです。

 王太子妃様に聞いても理由はわからないと……。

 それが今朝になって、急にリンネア様を呼ぶようにと」


「リンネアを呼んだ?王太子がか?」


「はい……」


「その理由は?」


「わかりません。ただ呼ぶようにとだけ叫ばれまして……」


怒ったのかマティアス様から威圧を感じる。

使者に向けて発しているようだけれど、隣にいる私も近寄りがたい。


「マティアス様、使者が悪いわけではありません」


「あ、ああ。そうだな」


自分が威圧していたことに気づいたのか、すぐに緩む。

使者はほっとしたのか、膝をついてしまった。


「休憩してから王宮に戻るがいい。

 呼び出す理由がわからないうちは行くことはないと伝えろ」


「は、はい!」


使者はそのまま出て行ってしまいそうな勢いだったけれど、

クルスが止めてどこかに連れて行く。


おそらく食事と仮眠を取らせるのだろう。

このまま王宮に戻ろうとしたらどこかで倒れてしまう。


「まったく。皇太子妃になるリンネアを理由も言わず呼ぶなんて、

 王太子は何を考えているんだ」


「まだ私が臣下だと思っているのでしょう」


「何か事情があるなら、まずは俺に話すべきだろうに」


「問題が起きたのでしょうか?」


「だろうな。それをリンネアに解決させようとしているのだろう」


それにしても、私に解決できるようなことなんて思いつかない。

わざわざ領地にいるのを呼び出して仕事しろとは言わないだろうし。


「このまま放っておいて大丈夫でしょうか?」


「困って頼りたいのなら、まず事情を説明するべきだ。

 それがない以上、駆けつける理由がない。

 あの使者が王宮に戻り、俺の伝言を聞いて、

 それでも助けが必要ならまた来るだろう」


「それもそうですね」


緊急とは言ったけれど、それなら私を呼ぶ前に誰かに助けを求めるはず。

少なくともナタニエル様の近くには騎士や文官たちがいる。

その人たちに助けを求めても無理だったのなら、

帝国に協力を求めるというのもありえる。


その上で、マティアス様が私の力を必要だと判断すれば、

協力することもできるけれど。

直接私に言われても動くことはできない。


王宮で何が起きているのか気にはなったが、

戻ることはなく、次の日も領地を見て回る。


屋敷に戻ったら、今度は違う使者が来ていた。


「今度はちゃんと理由を聞いてきたのだろうな?

 王太子は何と言っていたんだ?」


「あの、私が来たのは王太子殿下に言われたからではなく、

 王太子妃様が皇太子殿下に迎えに来てほしいと……」


「サンドラが、俺に?」


「初夜の次の日から放っておかれている、

 帝国に帰りたいので皇太子殿下に連れて帰ってもらいたいとのことです」


「はぁぁ。王太子は何をしているんだ?」


「部屋に閉じこもっているそうです。

 私はそれ以上のことは何も知らされておらず……」


「何が起きているっていうんだ」


使者に聞いたところでわかるわけがない。

とりあえず二人目の使者も帰した後、マティアス様が考え込んでいた。


「リンネア、もともと一週間で王宮に戻る予定だった。

 今日で一週間。明日は戻る日だが……」


「そうですね。予定通りの行動ですから、

 それでいいと思います」


「そうだな」


ナタニエル様とサンドラ様に呼ばれたからといって、

マティアス様が行くわけにはいかない。


だけど、これは最初から決められていた予定だ。

呼び出されたわけではないと言える。


「このまま放っておいてもいいんだが、

 王宮が混乱すれば困るのは三公爵家を始めとする臣下だ。

 とりあえす王宮に戻って何が起きているか確認しよう」


「ええ、私もそれがいいと思います」


「皇太子殿下、リンネア、私も王宮に一緒に行きましょう」


「叔父様も?」


「陛下が病気で不在なうえ、王太子が機能していないとなれば、

 三公爵家で王政を動かすことができます。

 他の公爵にも連絡を取って王宮に向かわせます。

 何かあれば私たちで対応しましょう」


「そうだな。この国のことはこの国の者が動かしたほうがいい。

 王太子がリンネアに何をさせようとしているのかはわからないが、

 対応しないほうがいいだろう」


「ええ、その通りだと思います」


まずは私に何を求めているのかを聞かなければいけないけれど、

マティアス様と叔父様が私を守ろうとしてくれている。


もうあの頃の私ではない。

ナタニエル様のために、エルドレドのために頑張る必要はない。




次の日、朝食をとってから馬車に乗る。

王宮に着いたのはお茶の時間の頃だった。


一週間しか離れていないのに、王宮の雰囲気がおかしい。

どことなく暗く、侍女たちがこそこそと小声で話している。


「まずは王太子の部屋に行ってみるか」


「ええ」


ナタニエル様の部屋に近づくと、誰か女性が叫んでいる声が聞こえる。


「あの声はサンドラだな」


「部屋に入ろうとしているのでしょうか?」


「かもしれない。護衛、リンネアに手出しされないように気をつけろ」


 「「「はっ」」」


私たちの前に護衛が何人も出てくる。

それに守られるようにナタニエル様の部屋へと向かう。


部屋の前では予想通りサンドラ様がドアに向かって叫んでいた。


「いいかげんにして!!中に入れなさいよ!

 このままなら離縁して帝国に帰るわよ!!」


「それはダメだ!」


「なら、ドアを開けて!」


「それもダメなんだ!リンネアを、リンネアを呼んでくれ!」


「もう!意味がわかんないわよ!!」



 

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