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72.花畑

次の日はお兄様の案内で領内の花畑を回った。


公爵家の屋敷からは馬車で数分の距離だが、

私も行くのは初めてだった。


「王都の屋敷で育てた種を昨日見た温室で増やして、

 領内の畑で育てて出荷するのか」


「安定して種を取るのが難しくて、

 今年になってようやく増やすことができたんです。

 今咲いている花を収穫したら、

 来年はもっと花を使った商品を作ることができます」


「あのお茶はまだ商会では売っていない商品なんだろう?」


「はい。ですが、リンネアがお茶会で紹介してくれたおかげで、

 予約したいという要望が殺到しているんです。

 どのくらい生産できるかわからないので予約は断っていますが」


「そうか……今後もっと増やしていく予定なんだな?」


「ええ、はい。人気がありますからね。

 増やせるだけ増やそうと思います」


「なら、いい」


昨日、オードラン公爵領の花が好きだと言ったのは、

私のことだったと言っていたけれど、

まるで花が好きなように聞こえる。


お兄様はまだマティアス様は花が好きだと思っているからか、

疑問には思わないようだけれど。


馬車が着いて、マティアス様の手を借りて降りると、

もう花の香りに包まれていた。


顔を上げたら、見渡す限りの花畑。


「すごい……」


「ああ、すごいな、これは」


「奥のほうまで咲いてますよ。行きますか?」


「ああ」


お兄様の後ろをマティアス様と手をつないでついていく。

細い道の両側に花畑が広がって、どこまでも真っ白な花が咲いている。


「やはりそうか……間違いない」


「マティアス様?」


「この花は魔力を吸い上げて咲いている」


「え?魔力?」


前を歩いていたお兄様も驚いた顔で振り向いた。


「マティアス様、それはどういうことですか?」


「この花のお茶を飲んだ時に微量の魔力を感じた。

 お茶に入っているのか、花に入っているのかわからなかったから、

 領地を視察したいって言ったんだ」


「それで視察を……」


「昨日、温室で見た時点でそうだと思ったが、

 条件が違えば性質が変わるかもしれないと思って言わなかった。

 この花畑で咲く状態を見ても、魔力を吸い上げているのがわかる。

 この花の特質なんだろう」


魔力を吸い上げる花……そんなの聞いたことがない。


「それは害はないのですか?」


「魔力と言っても害はないな。

 飲む分にはむしろ、軽くではあるが回復魔術のような効果がある」


「この花にそんな効果が」


「重要なのはそこじゃない。

 大地から魔力を吸い上げているという点だ。

 エルドレドは土の中に魔力が溜まり、

 その結果農作物が汚染されてしまう。

 だが、この花が吸い上げれば魔力は溜まりにくくなる」


「!!……まさか、地毒を防ぐというのですか!?」


「無くなるわけじゃないが、地毒になるのを遅らせる、

 または症状を軽くする効果があるかもしれない」


「……この花が」


あまりのことに言葉が続かない。

それはお兄様も同じだったようで、口を押さえた手が震えている。


「リンネアとダニエルが協力して作り上げたものだろう?」


「俺は手伝っただけです。改良してこの花を作り上げたのはリンネアです」


「私は……支えてくれるお兄様がいなかったらあきらめていました」


「なら、二人で作り上げたと言っていいだろう」


私一人では無理だった。

公爵領の温室とこの花畑を作ったのはお兄様だ。


「この花をエルドレド国内に広げることができれば、

 本当に地毒を防げるかもしれないんだが……」


「……三公爵家の領地には広げられると思います」


「本当か?」


「うちの母はペルララ公爵家の出身ですし、

 ペルララ公爵夫人はバランド公爵の妹なんです。

 昔から三公爵家は親戚としてつきあいがあります」


「王家を守る家でつながっているというのはよくあるな。

 それなら説明すれば花の栽培に協力してくれそうだな」


「はい。叔父上にお願いして連絡してもらいます」


「ああ、それがいいな」


まさか栽培していた花に国を救う力があるなんて。

信じられない気持ちですぐそばに咲く白い花を見つめる。


「地毒が発生するまでに間に合うでしょうか?」


「わからない。だけど、次の地毒だけじゃない。

 これから先、何十年、何百年も先まで影響することだ」


「そんなに……」


「リンネアがした功績だと言っただろう」


「あれは、こういう意味でしたか」


「これを帝国から、すべての属国に公表しよう」


「公表!?」


「リンネアがしたことをきちんと伝えるべきだ。

 エルドレドの連中が二度とリンネアを見下さないように」


「マティアス様……」


「最初にこの花を改良したのは、

 エルドレドの特産品を作るためだったんだろう?」


「……はい」


どうして気づいたんだろう。

農作物だけしかないエルドレドの特産品を作ろうと、

どこの国にも咲かない花を作ろうと思った。


飾るためじゃなく、香油や化粧品にするために作り出した花。


王太子妃になったら、王領で育てさせるつもりでいた。

ナタニエル様に話した時には笑われて話を聞いてもらえなかったけれど。


「エルドレドの国のために努力していたのを、

 神が見ていたに違いない。

 リンネアが頑張ってきたおかげだな」


「……」


家族以外誰も褒めてくれなかったことを、

こうしてマティアス様は評価してくれる。


そのことがうれしくて、胸がいっぱいになって、

涙がこぼれてしまう。


何も言えなくなった私の涙が止まるまで、

マティアス様は寄り添っていてくれた。


ようやく落ち着いたら、恥ずかしくなる。

お兄様は気を使ったのか、先に馬車に戻ってしまっている。


護衛たちも少し離れた場所で視線をそらしたままだ。


「お待たせしてしまってごめんなさい」


「いいんだ。大丈夫なら馬車に戻ろうか?」


「はい」


その後も領地内をいろいろと視察して回り、

夕方近くになって屋敷に戻る。


マティアス様は自然豊かなこの領地が気に入ったことと、

花を三公爵家に広める作業を急がせるために、

一週間ほど滞在すると言い出した。


叔父様はマティアス様の滞在が伸びることを聞いて、

一か月でもいてほしいと喜んでいた。


だが、滞在六日目のことだった。


「王宮から緊急の使いが来ました!!」


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