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70.ナタニエル様の結婚

静まり返った中、ナタニエル様とサンドラ様の入場が告げられた。


大きな扉が開き、二人が中に入ってくる。

ナタニエル様は金と緑の差し色が入った白い王族服。

サンドラ様は真っ赤なドレスを着ている。


マティアス様と私がいる壇上からは少し遠い。

緊張しているのかナタニエル様の顔が青白く見える。


一方のサンドラ様は頬を赤らめ、嬉しそうに笑っている。


良かった。

少なくともサンドラ様はこの結婚を喜んでいるようだ。

無理やりエルドレドに送られたのではないかと思っていたけれど、

ナタニエル様とうまくいっているらしい。


ナタニエル様の動きが多少ぎこちないけれど、

寝不足の上、緊張しているのだと思えば仕方ないのかもしれない。


二人で神の前で宣誓し、お互いの腕輪を交換する。

これは元は一つのデザインの腕輪を半分に割ったもので、

二人で一つ、片時も離れないという意味がある。


無事に式が終わり、二人が退席していく。

振り返った時にサンドラ様と目が合ったけれど、

私を認識した瞬間ににらまれ、ぷいっと顔をそむけられた。


やはり私へのわだかまりは残っているようだ。


この後の夜会で会えたら祝福の言葉を述べようと思っていたけれど、

あまり刺激しないほうがいいのかもしれない。


「部屋に戻ろうか」


「はい」


夜会が始まるのは二時間後。

私たちの入場は一番後なので、二時間は休憩できる。


軽食を取り、化粧を直してもらい、準備は整った。

なのにいつまでたっても呼びに来ない。


「いくらなんでも遅いな」


「何かあったのでしょうか?」


心配していると、マリアが様子を見に行くと言い出した。


「そうだな……頼んだ」


「はい」


昼前まで準備を手伝っていたマリアなら事情を教えてもらえるはずだ。


マティアス様と話しながら待っていると、マリアが焦ったような顔で戻ってきた。


「どうだった?」


「それが、寝不足だったせいで王太子が倒れたそうです」


「倒れた?」


「はい。結婚式が終わり、控室に戻ったとたんに意識を失ったと。

 準備のために丸二日寝ていなかったそうですので、

 結婚式が終わったことで気が緩んだのではないでしょうか」


「丸二日か。倒れてもおかしくないな」


ナタニエル様が倒れたとなると、夜会はどうなるのだろうか。


「サンドラ様が一人で夜会を主催することになるのかしら?」


「三公爵家はそうするように求めたそうですが、

 サンドラ様が一人で夜会に出るなんて恥ずかしくてできないと」


「恥ずかしい?」


「結婚を披露する夜会なのに一人だなんて、

 愛されていない者のようでみっともないと、

 泣きわめいて夜会の出席を拒んでいるそうです」


「まぁ……」


たしかに結婚したばかりなのにサンドラ様だけというのは、

いろいろ噂されるかもしれないけれど、

今日の夜会はマティアス様も出席する国家の行事だ。


帝国の皇太子を呼んでおきながら中止にするのはありえない。

主催であるナタニエル様が倒れたならば、

妃であるサンドラ様がどうにかしなければならないのに。


「夜会は中止になりそうか?」


「おそらく。あのままでは説得できないと思われます」


「……サンドラの性格は変わらないままか。

 王太子妃になれば少しはまともになると思ったんだがな。

 仕方ない。三公爵家には中止でかまわないと伝えてやれ」


「はい」


エルドレド側から中止にするのは難しい。

だからマティアス様から中止の許可がもらえるのはありがたいと思うだろう。


「夜会が中止になったのなら、今日は早めに休もう。

 明日はオードラン公爵領に向かう予定だったんだ。

 早めに出れば余裕をもって行けるだろう」


「そうですね。それがいいと思います」


夜会が中止になったのは残念だが、サンドラ様と会うのが気まずかったのも事実。

気落ちを切り替えて、明日からの予定を考えたほうがいい。


オードラン公爵領に視察に行った後、もう一度王宮に戻ってくる予定なので、

次の日は特に王族に挨拶することなく出発する。


マリアが調べてきた話では、ナタニエル様はまだ体調を崩しているそうだ。

サンドラ様は初夜なのに放っておかれたと怒っているそうで、

今後どうやって仲直りするのか心配ではある。




王宮からオードラン公爵領までは半日と少し。

昼前に出たので、夕方までには着く予定だ。


馬車にはマティアス様と私、そしてケニー様とお兄様。

もう一つの馬車にマリアとカルラと侍従たち。

馬車の周りを十数名の騎馬隊が護衛している。


一度休憩をはさんで向かっていると懐かしい景色が見えてくる。


騎馬で行動しているクルスが馬車に向かって叫んだ。


「オードラン公爵の出迎えが見えます」


窓から見れば、少し離れたところに馬車が止まっている。

叔父様が迎えに来てくれたようだ。


そこから叔父様の馬車に案内され、公爵家の屋敷に向かう。

領地の屋敷に来るのは本当に久しぶり。


馬車から降りると、オードラン領地特有の土の匂いがした。


「ここがオードラン公爵領か」


「ようこそおいでくださいました。

 兄から公爵を任されました。ドミニクと申します」


「ああ、よろしく頼む」


「さぁ、中へどうぞ」





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