7.王家と三公爵家の話し合い
「……うぅ」
「リンネア?」
「……お母様?」
目を開けたら、お母様が心配そうに私をのぞきこんでいた。
ここは屋敷の私の部屋のようだ。
「まだ起き上がらないで。リンネアは王宮で倒れたのよ。
カルラとクルスが連れて帰って来た時は心臓が止まるかと思ったわ……」
「心配かけてごめんなさい」
「いいえ、事情はカルラから聞いたわ」
「カルラから?」
あの場にカルラはいなかったのにと思ったが、
私が倒れたことで女官長はすぐにお父様を呼んだらしい。
そして、お父様はカルラとクルスを呼び、
私を屋敷に連れて帰るように命じたそうだ。
「クルスを王宮に入れてよかったの?」
「何かあれば自分が責任をとると言っていたわ。
でも、王家も今はそれどころじゃないでしょうね」
「え?」
「帝国への対応をどうするか、陛下と王太子、
三公爵家の当主で話し合いが行われているわ。
もちろん、アンジェラ様があなたに話したこともすべて知った上で」
「まさか、女官長が話したの?」
「さすがに黙ってはいられなかったようね。
帝国を怒らせたら、属国でいられなくなってしまうかもしれないもの」
「そんな……」
この国がおとなしく属国になっているのには理由がある。
帝国だけが使える秘術と言われる魔術の恩恵を受けられなくなるからだ。
誰しも魔力を持っているけれど、魔術を使えるほど魔力量が多いものはまれだ。
そして、秘術を使えるのはその中でも皇帝の直系一族だけ。
もし見放されてしまえば、この国は崩壊してしまうだろう。
陛下とナタニエル様もそのことはわかっているはず。
「お父様はいつ戻られるのかしら」
「話し合いが終わるまで帰ってくるのは難しいでしょうね。
その前にダニエルが戻って来ると思うわ」
「お兄様が……」
お兄様に会うのは久しぶりだ。
こんな時ではあるけれど、会えるのはうれしい。
そわそわして待っていると、夜になってからお兄様が到着した。
二つ年上のお兄様は会うたびに背が高くなっている気がする。
「お兄様!お帰りなさい!」
「ああ、ただいま」
「お義姉様は?」
「今回は緊急だからね、置いてきた。
リンネアには会いたがっていたけれど……」
「そう……」
「話を聞かせてくれるね?」
お父様が手紙で知らせた時はアンジェラ様の帰国の理由は知らなかった。
その後の王宮でのできごとを話すと、お兄様は頭を抱えてしまった。
「あいかわらずなんだな……」
「お兄様もアンジェラ様には困っていたものね」
七歳だったアンジェラ様が五歳年上のお兄様と婚約したのは、
ナタニエル様の遊び相手として王宮にあがったお兄様に、
アンジェラ様が懐いたからだった。
一緒に遊ぶだけならよかったけれど、
すべてのわがままを聞かなければ癇癪を起すため、
お兄様は本当に苦労していた。
結局、婚約していたのは一年間だけなのだが、
婚約者ではなくなった後も、アンジェラ様はお兄様に会おうとした。
だが、アンジェラ様の婚約者は帝国の皇太子だ。
万が一、不貞を疑われるようなことになれば処刑されかねない。
お父様はお兄様を逃がすために、
エルドレドの学園ではなく帝国の学園へと留学させることにした。
そうすればアンジェラ様と会うことは不可能になる。
我がオードラン公爵家の商会が帝国に店を持っていることもあり、
商業の修行も兼ねるという言い訳で帝国に許可を取ったのだ。
正式な理由がなければ、他国の者が帝国の学園に留学できるわけがない。
帝国側がすんなり認めてくれたのは、おそらく元婚約者ということも大きい。
結果として、お兄様は五年ほど帝国に留学し、
戻って来た二年前にお義姉様と結婚、すぐに領地へと行っている。
「アンジェラ様とはもう会うこともないと思っていたんだが。
この国に残るとなると厄介だな……」
「そうね……お義姉様が嫌がらせされないといいけど」
「エレーナはしばらく領地から出すつもりはないよ。
少なくとも、アンジェラ様がいる王宮には近寄らせない」
「夜会に出席できなくなるけど、仕方がないと思うわ」
ため息をついていたら、部屋の外が騒がしい。
「父上が帰って来たのかもしれない」
「話し合いが終わったってこと?」
立ち上がって玄関に向かうと、やはりお父様の馬車が着いていた。
「リンネア、大丈夫か!?」
「ええ、もう平気です」
「ダニエルも帰っているのならちょうどいい。
二人とも執務室に来なさい」
お父様の表情は険しいまま。
よくないことが起きているような気がしてならない。
部屋に入ると、お母様も呼ばれたようだ。
四人でそれぞれにソファに座ると、お父様は大きく息を吐いた。
「ねぇ、ダミアン。話し合いはどうなったの?」
「……リンネアを帝国に送ることになった」
「まさか、本当にアンジェラ様の代わりにリンネアを!?」
「その、まさかだ」
「なんてこと……」
お母様はお父様の表情から止められないとわかったのか、
悲しそうな顔で目を伏せた。
「……お父様、私に代わりがつとまるのでしょうか」
アンジェラ様に言われてから考えてみたものの、
本当に代わりに私が行って済む話には思えなかった。
アンジェラ様が婚約者候補になったのは帝国からの指名だったと聞いている。
容姿なのか、魔力なのかはわからないけれど、
他の国の王女たちを差し置いて選ばれるだけの理由があったはずだ。
私も王家の血を引いているので髪は金色ではあるけれど、
アンジェラ様のようにふわふわではなくまっすぐだし、
瞳の色も緑色ではなく紫色だ。
これは王家の色ではなく、オードラン公爵家の色。
お父様とお兄様も同じ色で、誇らしいとは思うけれど。
「私としても、ただリンネアを身代わりにするという話なら断っている」
「え?」
「バランド公爵もペルララ公爵も、リンネアこそが皇太子妃にふさわしいと。
だからこそ、リンネアを婚約者候補に推薦するという形で送り出す」
「お父様……」
まさか公爵たちからそんな風に評価されるとは思っていなかった。
今までどちらかといえば厳しい言葉しかもらっていなかったのに。
「俺もリンネアが皇太子妃にふさわしいと思う」
「お兄様まで……」




