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67.再会

「もしかして結婚式の準備が終わらないと、

 明日の結婚式は延期になるのかしら?」


「おそらく……」


呆れてしまってため息が出る。


延期にするならもっと早く連絡しなければいけないものを。

できないのは目に見えているのでしょうに。


「リンネアが手伝えば結婚式ができるのか?」


「え?……そうですね。

 リンネア様なら間に合わせることが可能かと思います。

 ですが、この申し出が無礼であることは重々承知しております。

 お叱りは私がお受けしますので……」


アンジェラ様から命令されて仕方なく言いに来たのだろうに、

女官長は自分の責任だと頭を下げた。


女官長には申し訳ないけれど、手伝うわけにもいかないし……。


困っているとマティアス様がマリアを呼んだ。


「マリア、この王宮には詳しいな?」


「はい。教師として八年滞在しましたから」


「結婚式の準備を手伝うことは可能か?」


「間に合うかどうかはどのくらい遅れているかにもよりますが、

 手伝うこと自体は可能です」


「よし、ではマリアに命じる。

 王太子のところに行って手伝いをしてきてくれ」


「かしこまりました」


マティアス様とマリアのやり取りと聞いていた女官長は予想外だったのか、

大きく目を見開いて「え?え?」と繰り返していた。


「さ、案内してください」


「は、はい!」


同じ女官長とはいえ、帝国の王太子付き女官長とは身分が違う。

女官長はマリアに従うようについていった。


「うまくいくでしょうか」


「わからないな。マリアでダメなら仕方ないだろう。

 延期されたらそれまで待つしかない」


「それもそうですね」


マリアが戻ってきたらどうだったのか報告を聞こうと待っていたら、

なぜだか廊下が騒がしい。


「いいから、そこをどきなさい!」


……あの声は


「誰であろうとここを通すわけにはいかない!」


「なんですって!生意気よ!処刑されたいの!?」


「そんな権力、アンジェラ王女にはないだろう!」


やっぱり、アンジェラ王女だ。

扉の前で護衛しているクルスに開けるように命じたらしい。

当然、クルスが命令を聞くわけがなく、言い合いになっている。


「さきほど女官長がリンネアを呼んだのは、

 あの王女がここに来るのにリンネアが邪魔だったんだろう」


「マティアス様に会いに来たようですけれど、どうしますか?」


「そうだな。せっかくだから会っておくか」


「え?いいのですか?」


「リンネアがここにいるとなったら驚くだろう?」


「それは……そうですね」


「好きに言い返していいぞ。もう我慢しなくていい」


その言葉にハッとする。

マティアス様は楽しそうに笑っている。


エルドレドにいた頃、私は何も言い返せなかった。

どんなわがままでも聞かなければ私が責められていた。


だけど、今なら私のほうが身分が上になっている。

言い返してもとがめられることはない。


マティアス様がテーブルの上に置いてあったベルを鳴らす。

その音で外にいたクルスがドアを開けて顔を出す。


「お呼びですか?」


「外で騒いでいる者を入れて構わない。

 クルスも一緒に入ってこい」


「え?……わかりました」


クルスが本当にいいのか?と確認するような顔をしたから、うなずいてみせる。

納得したのか、クルスは一度ドアを閉めた。


「許可が出たから中に通す。だが、失礼のないように気をつけろ」


「ほら!マティアス様は私を待っていたんだわ!」


はしゃいだような声が聞こえる。

以前の私なら、その言葉に胸が締め付けられる思いだっただろう。


やっぱりアンジェラ様のほうがいいのかもしれないと、

落ち込んでいたかもしれない。


だけど、今なら。

湖でマティアス様から愛を告げられた今なら。

気持ちを疑ったりすることはしない。


ドアが開いて、まずクルスが中に入ってくる。

その後ろから入ってきたアンジェラ様を見て、思わず聞いてしまう。


「え?アンジェラ様??」


「どうしてここにリンネアがいるのよ!

 お兄様の手伝いにいかせたはずなのに!」


本当にアンジェラ様なのか確認したくなるほど、

夜会の時とは容姿が変わってしまっている。


まん丸になった顔にむっちりとした身体。

はち切れそうになってしまっているドレス。


「ちっ。いいわ。リンネアはすぐに追い出せばいいんだもの」


「ど、どうしたのですか?その身体は」


「身体?ああ、成長期だから胸が大きくなってしまったの。

 ますます魅力的になったでしょう?」


「え……」


この変わりようなのに気づいていない?

侍女たちが鏡を見せないようにしているとか?


「いないうちにマティアス様とゆっくり話そうと思っていたのに。

 まったくリンネアは本当に邪魔しかしないんだから」


忌々しそうに私をにらむと、顔をぼりぼりとかいた。

吹き出物がたくさん出ていて、かゆいのかもしれない。

ひっかいたところから血が出ている。


あんなに綺麗だった姿が見る影もない。

アンジェラ様はマティアス様に向き直ると、

不気味な笑みを浮かべた。


「ふふふ。マティアス様、待たせてごめんなさい。

 あなたのアンジェラが会いに来たわ」


「いや、何をしに来たのか聞こうと思って通したんだ。

 王女が何の用だ?」


「え?用だなんて。もちろん、マティアス様の妃になるために来たのよ」


「お前は試験を受けたくなくて逃げたんだろう。

 その時点でもう資格は失っている」


「そんな!試験なんてどうでもいいじゃない!

 仕事はリンネアがするから問題ないわ!」


「意味が分からない。

 報告で知っていたが、本当に頭が悪いんだな」


「これだけ美しい私に勉強なんて必要ないでしょう?」


今まで自分の思い通りにしてきたからか、

アンジェラ様はあきらめるということを知らない。


わがままを言っていれば、そのうち相手が折れると思っている。


マティアス様はアンジェラ様の相手をするのに疲れたのか、

ため息をついた後、私の手を取って身体を引き寄せた。


「マティアス様?」


「俺の大事な妃はリンネアだけだ」


腕の中に抱きしめられ、額に軽く口づけされる。

そんな場合ではないのに、恥ずかしくて仕方ない。


「何をしているの!!リンネア!離れなさい!

 マティアス様は私の物よ!」




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