47.夜会のあと(ナタニエル)
「は?アンジェラが強制送還されたというのはどういうことだ?」
「それが……」
報告を聞いて頭を抱える。
俺がフレゴリ公爵と面会している間に何をしているんだ……。
まさか勝手にオードラン家の商会に行っただなんて。
たしかに夜会が終わったら行こうと約束していた。
アンジェラがお気に入りのダニエルがエルドレドから出てしまい、
ずっと荒れていたから会わせてやろうとは思っていた。
だが、ダニエルが帝国人になったことを聞き、
夜会の前に騒ぎを起こしたらまずいと思い、夜会の後にしようとした。
もしアンジェラが望むのであれば、
ダニエルをそのままエルドレドに戻すのもありかと思っていた。
帝国人になったとしても、平民の商会長なら連れ去っても問題はない。
なのに、帝国に来て話を聞けば、ダニエルは皇太子の側近になったという。
それでは勝手に連れて帰るわけにはいかない。
どうやってアンジェラを納得させようかと悩んでいたのに、
まさか一人で商会に行って捕まえられてしまうとは。
「どうして俺に連絡がなかったんだ!」
「犯罪者は即刻強制送還されることが決まっているそうです」
「犯罪者……」
「それと、帝国には二度と入国できないと……」
「嘘だろう……」
今回、俺がフレゴリ公爵家とつながりができたことで、
もしアンジェラの嫁ぎ先が見つからないようであれば、
帝国に嫁がせることも考えようと思っていたのに。
帝国に入国できないようではそれも無理になってしまう。
「急いで追いかける。すぐに荷物をまとめるんだ」
「はっ!」
慌てて撤収させ、馬車で追いかける。
アンジェラを護送している警吏の者にかけあうことができれば、
帝国への入国禁止を撤回できるかもしれない。
必死で追いかけたけれど、帝国の馬車のほうが性能がいい。
王宮につくまで追いつくことはできなかった。
王宮につくと、すぐに父上に呼び出される。
湯あみをしてからと伝えたが、そのままでいいから来いと再度呼ばれた。
「ただいま戻りました……」
「お前は何をしていたんだ!
どうしてアンジェラが強制送還されているんだ!
もめごとを起こさない約束で行かせたはずだぞ!」
「申し訳ありません。実は皇太子から令嬢を紹介されまして」
「なんだと!?」
怒り狂っている父上をなんとかなだめようとサンドラ嬢のことを口に出す。
「皇太子が私に王太子妃になれる高位貴族の令嬢を紹介してくれたのです。
その父親であるフレゴリ公爵と面会している間に、
アンジェラが勝手に抜け出してしまいました」
「……王太子妃になれる令嬢を皇太子から紹介されたというのか?」
「ええ。フレゴリ公爵家のサンドラ嬢。皇太子の幼馴染だそうです。
フレゴリ公爵家は帝国でも有力貴族です」
「ふむ……」
皇太子が俺に王太子妃になれる令嬢を紹介したということは、
次の王太子は俺にしなければいけないということだ。
父上もそれを理解しているからか、
それまでの怒りはどこかに行ったようにうなずいた。
「わかった。三公爵家には俺から説明しておこう。
その令嬢が王太子妃になってくれるのならお前が王太子だ」
「はい!」
「いいか、絶対に逃がすなよ。
もし、逃がすようなことがあれば、王太子はセレスタンかクリストフにする」
「わかっています」
「よし。ああ、アンジェラは部屋に幽閉してある。
フレゴリ公爵令嬢が来るならなおさら。
反省して真面目になるまでは部屋から出すな」
「……わかりました」
あんなにかわいがっていたアンジェラなのに、
問題が重なってしまったからか父上からの愛情を感じない。
セレスタンかクリストフのどちらかと婚約する予定になっている、
バランド公爵家の末娘が王太子妃教育を受け始めたという。
まだ五歳なのに優秀で可愛らしい令嬢らしく、
父上と側妃はその娘をいたく気に入ってかわいがっていると噂になっていた。
だからもうアンジェラはいらないということなのだろうか。
俺自身もこれ以上問題を起こすようなら手に負えないと感じていた。
「それと、お前の仕事についても噂になっている。
王太子の仕事や学生会長の仕事もリンネアに押しつけていたと」
「いえ、押しつけてなど。手伝わせていましたが……」
「めんどうなことをすべてやらせていたのだろう」
「……それは」
「帝国からくる令嬢に押しつけるようなことはするなよ」
「わかりました……」
帝国で側妃になるように育てられた令嬢なら、
リンネアの代わりになるかもしれないと思っていたのを見透かされていた。
父上と話が終わり、アンジェラの部屋へ様子を見に行く。
部屋から出さないようにとは言われているが、
会わないでおくのも気になってしまう。
アンジェラの部屋の前には騎士が二人立っていた。
部屋の中からはアンジェラが叫んでいる声が聞こえる。
「中に入ってもいいか?」
「かまいませんが、アンジェラ様を出すことはできません」
「わかっている」
外から鍵をかけていたのか、騎士が鍵を開けた。
扉をあけて中にはいると、ひどいものだった。
投げつけられた物が壊れ、家具は倒され、破かれたドレスが散乱している。
アンジェラはベッドにうつぶせになって泣きわめいていた。
「アンジェラ、大丈夫か?」
「っ!お兄様!!」




