46.ディアナ様の相談
「急がせてしまったみたいで申し訳ありません」
「いえ、それはかまわないのですが、相談というのは何があったのでしょうか?」
いつものようにマリアと護衛の二人を連れて本宮に向かうと、
硬い表情のディアナ様が迎えてくれた。
ディアナ様が淹れてくれたお茶をマリアが毒見をする。
どれだけ親しい間柄になったとしても、ディアナ様は他国の王族。
そして、もうじきいなくなってしまう。
「そろそろポスニルア国に戻られてしまうので、
その前にゆっくり話したいとは思っていました」
「そのことなのですが……私はポスニルア国に戻らないでおこうかと」
「え?」
ポスニルア国に戻らない?
せっかく内乱が落ち着いて戻っても大丈夫な状況になったというのに。
「私が戻ると兄の邪魔になると思うのです」
「まぁ……邪魔というのは?お二人はとても仲がいいのに」
「仲がいいからです。私がいる限り、兄は私のことを優先しようとします。
ですが、兄が今すべきことは国を安定させることと、
結婚して跡継ぎを作ることです」
「それはそうかもしれないけれど、ディアナ様が邪魔だなんて」
「いえ、今までそうだったのです。
婚約者を作るように父から言われても、私が結婚するほうが先だと。
ですが、私が先に子を作ってしまえばこの前のように内乱が起きる可能性があります」
「……それは」
否定できないかもしれない。
ポスニルア国の王族は国王とアーロン様、そしてディアナ様だけになっている。
アーロン様の子が生まれる前にディアナ様が有力貴族に嫁いで子を産んだ場合、
そちらを国王にしようとするものが出てくる可能性がある。
「私が兄から離れれば、兄は自分のことを考えるようになるでしょう。
少なくとも兄が結婚して一人目の子が生まれるまでは私は帰国しないほうがいいかと」
「それまでここに残るおつもりですか?」
「……さすがに正妃様に頼って客人として居続けるのは無理でしょう。
ですから、ポスニルア国の王族として滞在するのではなく、
貴族の娘として王宮で働くことはできないでしょうか?」
「働く?ディアナ様が?」
「はい。許されるのなら女官としての資格を取って、
リンネア様の下で働きたいのですが……」
「女官……ディアナ様が女官として……」
夜会までの間、西の宮で侍女たちを指導してもらっていた。
侍女たちからの評価も高く、手伝ってもらってよかったと思っている。
もし、ディアナ様が女官として私の仕事を手伝ってくれるというのなら、
これほどありがたい申し出はない。
貴族の娘としてというのは、身分を偽ることになるのだろうか。
さすがに他国の王族をそのまま女官にするのは難しいのかもしれない。
どちらにせよ、判断するのはマティアス様だ。
「今、ここで返事はできないけれど、私としては賛成です」
「本当ですか!?」
「ええ。マリアが女官長として頑張ってくれているけれど、
女官長の補助を任せられる人がいなくて困っていたの。
マティアス様に許可をもらわなくてはいけなくなるから返事は待ってもらえますか?」
「はい!もちろんです!」
おそらくマティアス様も反対はしないと思う。
問題なのは……
「でも、ここでディアナ様が働くことは、
アーロン様にきちんと話して認めてもらわなくてはならないでしょうね」
「え……はい。そうですね。
わかりました。皇太子殿下の許可がもらえましたら、自分で兄に説明します」
「ええ。マティアス様とアーロン様の許可がもらえたなら、
ディアナ様が一緒に働いてくれるのは大歓迎です」
「ありがとうございます、リンネア様」
マティアス様の許可はその日のうちにもらえた。
私とマリアが苦労していたのはわかっていたそうで、
ディアナ様がいてくれれば楽になるだろうとすぐさま許可を出してくれた。
問題だったのはやはりアーロン様のほうで、
ディアナ様が説得するのに一週間ほどかかっていた。
そして、アーロン様だけが帰国する日。
マティアス様と私もお見送りすると、アーロン様がディアナ様から離れようとしなかった。
「アーロン、もういいかげんにしろ」
「いや、だが……やっぱりディアナを一人で置いていくなんて」
「お前がそんな状態だからディアナが帰国できないんだろう。
さっさと結婚して跡継ぎをつくれ。
国が安定したらディアナも帰国できるようになる」
「……わかってはいるんだ」
マティアス様に叱られたアーロン様は、
一応は状況のまずさを理解していたのか大きなため息をつく。
ようやくディアナ様から離れると、馬車に乗り込んだ。
「ディアナ、待っていてくれ。5年……いや3年で帰国できるようにする」
「お兄様、何年かかってもいいですから、
しっかり信頼できる方と結婚してくださいね」
「……わかった」
馬車が出発し、次第に遠く離れていく。
最後までアーロン様が手を振っているのが見えた。
それを見送っているディアナ様が泣いているのに気づいて、
マティアス様と私はその場からそっと離れた。




