45.事後処理
夜会の直後からマティアス様が忙しくされているなと思っていたけれど、
私がその話を聞いたのはすべてが終わった三日後のことだった。
「え?サンドラ様がエルドレドに?」
「ああ、そうだ。今朝、出発した」
「どうして急にそんな話になったのですか?」
「ほら、社交を十年禁じられただろう。
帝国ではもう嫁ぎ先を見つけることはできない」
「それは……そうでしょうけれど」
いくら力のある公爵家の令嬢だと言えど、
陛下から社交を禁じられるような令嬢を嫁にする家はない。
フレゴリ公爵もかなり怒っていたように見えた。
陛下に娘を許してもらうつもりはなさそうだった。
「一応はサンドラに選ばせた。
エルドレドに王太子の婚約者候補としていくなら向こうでの社交は許すと」
「王太子の婚約者ではなく、婚約者候補ですか?」
「王太子に嫌がられるかもしれないし、サンドラが断るかもしれないだろう」
「断ってもいいのですね?」
「さすがに無理に嫁げというつもりはない。
そこまでしてやる義理はないからな」
それを聞いて少し安心する。
自分の代わりにサンドラ様を犠牲にするような感じがしていたからだ。
「サンドラには王太子妃になった場合は持参金を出すが、
他の貴族に嫁いだ場合は持参金は出さないと言ってある。
帝国に戻ってきた場合でも社交の禁止はそのまま。
家から出ることも許されないと」
「そう言われれば王太子妃になるのが一番いいと思うでしょうね」
「おとなしく努力して王太子妃になるのなら幸せになれるかもしれない。
俺はできるならそうなってほしいと願うけどね」
「そうですね……私もできるなら幸せになってほしいと思います」
ナタニエル様もサンドラ様も好きではなかった。
私を嫌う人を大事に思うようなことはできないし、それは仕方ないと思う。
それでもエルドレドのためには幸せになってもらいたいと願う。
「公爵としても、いくら娘を諭そうとしても妻と伯母が洗脳してしまうことを悩んでいた。
あの二人と離れれば少しはまともになるだろうと思ってこの話を受けたと言っていた」
「コリンナ様とバルバラ様ですね。
たしかにお二人が熱心にサンドラ様を側妃にしたがっていたように見えました」
「それにも理由があるんだ。もともとコリンナ妃は父上の婚約者だった」
「え?」
「父上はもともとは第二皇子だったんだ。
それが皇太子にならなくてはいけなくなって、婚約解消になった。
叔父上はそれに同情して妃にしたそうだ。
だから、皇太子の妃に固執していたんだと思っている」
「まぁ……」
婚約解消した相手が皇帝になったとなれば、
本当は自分が皇帝の妃になれたのにという思いを捨てられなかったのかもしれない。
だからと言って、無理やり姪を側妃にしようとするのはおかしなことだけど。
「とくかく、王太子妃になれる令嬢を紹介してやったのだし、
エルドレドも少しは落ち着くだろう」
「あ、でも、アンジェラ様はどうなるのでしょうか」
王太子妃の問題はこれで片付くかもしれないけれど、
アンジェラ様の嫁ぎ先はないまま。
また帝国に来るようなことがあれば騒ぎになりそうな気がする。
「そちらのほうも大丈夫だろう。
あの王女はもう二度と帝国に来ることはできない」
「え?何かあったのですか?」
「昨日の昼、ダニエルの商会に現れたそうだ」
「商会に!?」
忘れていた。いくらお兄様とお義姉様が隠れていたとしても、
オードラン家の商会なら探せばすぐに見つかってしまう。
「いきなり商会にやってきてダニエルを出せと言ってきたそうだが、
ダニエルは王女の滞在中は商会に行かないようにしていた。
だが、ダニエルがいないことを知った王女は、
腹いせのつもりなのか商品をただで持っていこうとしたらしい」
「まぁ……」
呆れてしまうが、アンジェラ様ならやりかねない。
臣下の持ち物は自分の物にしていいと思っているのだから、
お兄様の商会ならただで持って行っても問題ないと思ったのだろう。
「今、ダニエルの商会は冒険者ギルドの後見も受けている。
そのため、上級冒険者たちも店に出入りしている。
店の物を無理やり持ち出そうとした王女を見た上級冒険者が捕まえて、
おつきの者たちも全員まとめて警吏に突き出したそうだ」
「警吏に!?」
「ダニエルの商会は帝国人の店だ。警吏が守るのは当然。
王女の言い分も何一つ正当性はないと判断され、帝国への出入りは禁じられ、
その日のうちにエルドレドに送り返されたよ」
「それなら本当に二度と帝国に来ることはありませんね」
帝国の上級冒険者はその強さと社会的貢献度の高さから、
貴族とはまた違う意味で地位を認められている。
属国の王女だとしても、犯罪をおかしていれば捕まえても問題ないらしい。
あらためて帝国は秩序が保たれていると感じた。
「妹が強制送還されたことを知った王太子も昨日のうちに帰ったと報告が来ている。
だからサンドラも急いでエルドレドに送ったんだ」
「そういうことでしたか……」
もうナタニエル様もアンジェラ様も帝国にいないとわかり、深く息が吸える気がした。
「夜会の間、仕事ができなかった分、あと何日かは忙しいんだ。
お茶を飲む時間もゆっくり取れなくてすまない」
「いえ、大丈夫です。明日はディアナ様とお茶会の約束をしましたから」
「ああ、そうか。そろそろあいつらも国に帰るのか」
「はい。その前にゆっくりお話したくて」
「そうだな。いつもどおり護衛はつけていってくれ」
「はい」
ディアナ様が急いでいるように見えたからすぐにお茶会の約束をとりつけたけれど、
相談というのはなんだろうか。




