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42.迎え撃つ

二曲目も終わりそうになって名残惜しく思っていると、

私たちを取り囲むように見ている貴族たちの輪の中に、

ナタニエル様とアンジェラ様がいるのに気づく。


「来てしまったようだな」


「はい……」


曲が終わる手前でナタニエル様が動き出した。

マティアス様は私を背に隠すようにして迎える。


「初めまして、殿下。

 エルドレドの王太子ナタニエルと申します」


「ああ、マティアスだ。

 俺たちを祝いに来てくれてありがとう」


「……いえ。殿下に話があるのですが、よろしいですか?」


「話?……わかった。別室に行こう」


意外にもナタニエル様は冷静のように見える。

手紙の件でもっと難癖をつけてくるかと思っていた。


だが、私が一緒に行こうとした途端、制止される。


「ああ、殿下と二人だけで話したい。リンネアはここに」


「……リンネア、アランたちとここで待っていてくれるか?」


「わかりました、マティアス様」


あくまでも私の行動を決められるのはマティアス様で、

ナタニエル様ではない。


私がマティアス様の指示に従ったことを理解したのか、

ナタニエル様の表情がみにくく歪む。


それには気が付かないふりでアラン様とアデリナ様のそばに寄る。


二人が大広間から出て行ってすぐ、甘い香水の匂いで誰が近づいてきたのかわかった。


「ふうん。青のドレスもいいわね」


「こんばんは、アンジェラ様」


挨拶もなくドレスが気になるのかとは思ったが、

アンジェラ様でも青いドレスは持っていなかった。


近づいてきたアンジェラ様にアラン様が警戒して前に出ようとする。

それを大丈夫だと目で止め、アンジェラ様に向き合う。


以前の私ならアンジェラ様に深く頭を下げていた。

だが、今の私は下げるわけにはいかない。


対応が違う私が面白くないのか、アンジェラ様から笑みが消えた。


「……なによ、いい気になっていられるのは今のうちよ」


「今のうちとは?」


「お兄様がマティアス様と話をつけてくれるもの。

 明日からは私が婚約者に戻るわ」


「戻るも何も、アンジェラ様が婚約者だったことなどありませんが」


婚約者候補ではあったが、正式な婚約者ではなかった。

戻るというのもおかしな話だ。


「リンネアが私から奪ったんじゃない。

 返してもらうから。全部。

 そのドレスももらってあげるわね。だって、私のほうが似合うもの」


「……本当にそうでしょうか?」


「どういう意味よ」


エルドレドにいた頃はアンジェラ様を美しいと思っていた。

だが、ディアナ様を見慣れてしまった今では美しいとは思えない。


「何よ、おとなしく返すのなら側妃にしてあげてもいいと思ってたのに」


「何を言い出すんですか」


「正妃の仕事を手伝うのなら側妃にしてあげるって言ったの!

 そしたら私は試験なんて受けなくてもいいもの」


「……はぁ。呆れました。まだ私を利用しようというのですか」


婚約者の座を渡せというだけでもおかしな話だというのに、

自分が仕事もせず正妃になるから、私には側妃として働けというのか。


「リンネアが得意なことじゃない。

 いつものようにうまくやってくれればいいのよ」


「私はもうあなたたちを助けることはしません。

 何があっても、です」


「は?リンネアのくせに私に逆らう気?」


まだ自分のほうが身分が上だと思っているのか。

横で聞いているアラン様たちがイラついているのがわかる。

そろそろ自分の立場を理解してもらわないと困る。


「今の私はアンジェラ様の言うことを聞く必要はありません。

 エルドレドにとって不利益になるような行動は慎んでください」


「はぁ?また小言でも言う気?」


「小言ではありません。これは警告です

 騒ぎになれば困るのはそちらのほうです。

 おとなしく夜会を楽しんで帰ってください」


もうすでに騒ぎになりかけているが、

ナタニエル様のほうはマティアス様がなんとかしてくれるだろう。


あとはアンジェラ様が引き下がってくれればと思っていたが、

私が思い通りにならなかったことで怒りを買ってしまったようだ。


近くを通りかかった給仕から飲み物を奪うように取ると、

その中身を私へとかけようとする。


「何をっ!?」


「リンネア様!」


とっさに庇おうとしたのか、アラン様とアデリナ様が前に出ようとしたけれど、

それよりも先にそのグラスは叩き落された。


「ディアナ様!?」


「大丈夫でしたか?まさか夜会の最中にこのような無粋な真似をする者がいるとは」


ディアナ様が扇子で叩いたのか、アンジェラ様が手を押さえている

こぼれた飲み物でアンジェラ様のドレスが赤く染まっていた。


「何するのよ!」


「あなたこそ、リンネア様に何をしようとしたの?」


「私にこんなことしてただで済むと思ってるの!?」


「まぁ。自分が今何をしようとしたか理解していないの?

 皇太子妃になる方にこんなことをしてただで済むと思っているの?」


「いいのよ!皇太子妃になるのは私なんだから!」


「は?……ふふふふ。ご冗談を」


「冗談なんかじゃっ」


「では、頭が悪いのかしら」


「はぁ!?」


笑われたアンジェラ様はディアナ様に言い返そうとしたけれど、

これ以上は放っておくことはできない。


「アンジェラ様。これ以上恥をかきたくなければ黙ってください。

 皇太子の婚約者の権限で追い出すこともできるんですよ?」


「そんなことできるわけ」


「できます」


私が手をあげると、近くにいた近衛兵が駆け寄ってくる。


「どうかしましたか?」


「エルドレドの王女が体調を崩したみたい。

 休憩室まで送ってあげて」


「はっ」


「私は体調を崩してなんかっ」


アンジェラ様は何とか逃れようとしていたけれど、

体の大きな近衛兵に囲まれ、さすがに抵抗できずに大広間から出て行った。


「はぁ……ディアナ様にまで迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」


「いえ、大事にならなくてよかったです。

 青いドレスを故意に汚そうとするなんて、あの者は命知らずですのね」


「……何もわかっていないのです」


「……そのような者の相手をするのは疲れますわね」


「はい……」


本当にあれが自国の王女だなんて恥ずかしい。

ディアナ様のようにしっかりした王女に出会ってそう思うようになった。


「そういえば、ディアナ様の帰国はいつになるのですか?

 その前にもう一度くらいお茶会をしたいのですが」


「そのことですが、相談がありまして」


「相談?」


「ええ。後日、話を聞いてもらえますか?」


「それはもちろん」


ポスニルア国の内乱も無事に落ち着き、

夜会が終わった後でアーロン様と帰国すると聞いていた。


相談なんて何かあったのだろうか。

さすがにここで聞き出すことはできず、後日お茶会で聞くことにする。


それからすぐにマティアス様が大広間に戻ってきたのが見えた。

ナタニエル様の姿はない。


「大丈夫だったか、リンネア」


「少し揉めましたが、アンジェラ様は休憩室に行ってもらいました」


「ああ、近衛兵から報告は聞いた。ナタニエルもそこに行ってもらった。

 そのまま部屋に戻るように指示してある」


「そうですか。マティアス様のほうは問題ありませんでしたか?」


「ああ、何も心配することはないよ。

 明日にでも二人はエルドレドに戻ることになるだろう」


「それはよかったです」




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