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4.出発

アンジェラ様が帝国に向けて出発する日、

私もお見送りするために王宮へと向かった。


出発する時間よりもかなり早くに王宮に着いたが、

アンジェラ様が前日に夜更かししたらしく、出発は三時間遅れるとのことだった。


「王女が寝坊するのなんていつものことじゃないですか」


「カルラ、黙っていて」


「はい」


私だけがいる場ならともかく、

他の貴族たちがいる場でこの発言はいただけない。


誰かに聞かれていたら、王族を侮辱した罪にむち打ちの刑にされてしまう。


カルラが思うだけなら自由だとしても、

口にするようならもう少し厳しく言わなければいけないかもしれない。


まるで気にしていないようなカルラにそっとため息をついた。



結局、夜更かししたアンジェラ様と、

それにつきあっていたというナタニエル様が起きたのは、

出発の二時間前だった。


見送りの者たちが待っている場に現れたのは、出発の十分前。


もう馬車に乗らなければいけない時間なのに、

アンジェラ様は行きたくないとナタニエル様に泣きついていた。


あんなにも帝国の皇太子妃になることを自慢していたのに、

それでもエルドレド王国を離れるのは嫌らしい。


可愛らしいところもあるのだと思っていたら、

私がいるのに気がついたアンジェラ様ににらまれる。


「見て、お兄様。

 リンネアってば、私がいなくなるのがうれしいんだわ」


「え?」


「ほら、見て!少しも悲しそうな表情じゃないでしょう!」


「本当だな。泣きもしないなんて、なんて奴だ」


そんなことを言われても、アンジェラ様がいなくなるのは決まっていたこと。


いや、それでも悲しんで泣くべきなのかもしれないけれど……。


無事に出発できるのかどうか不安でおろおろしている女官長を見てしまったら、

それが気になって仕方がない。


「やっぱり、お兄様の妃がリンネアなのは反対だわ!

 あんな血も涙もない可愛げのない女が妃になるなんて!」


「仕方ないだろう。他にいないんだから」


「でも、いつも怒ってばかりだし、地味だし、

 他の令嬢の方がよっぽど面白いわ」


「家柄がいいんだから仕方ないんだよ」


「そんなのどうにでもなるじゃない!」


本当に仕方がなさそうに言うナタニエル様の言葉に胸が痛む。

……私としても断ることができるのなら断っている。


本当はお兄様がアンジェラ様と婚約していた。


筆頭公爵家のうちにアンジェラ様が降嫁する予定で、

私が王太子妃になる予定ではなかった。


もしそんなことをしてしまえば、うちの力が強くなりすぎる。

だからこそ、私が妃になることはないと思い、安心していた。


それがアンジェラ様が帝国に嫁ぐことが決まり、

お兄様との婚約は解消になった。


お父様はそのことに不満はなかったのだけど、

陛下は一方的にナタニエル様と私の婚約を決めてしまった。


それでアンジェラ様をあきらめてくれということなのかもしれないけれど、

お兄様も別にアンジェラ様のことが好きではなかった。


後日、お兄様には謝られてしまったくらいなのに。


とはいえ、こんなことを言えるわけもない。

二人から何を言われても、ただ耐えていた。




そのうち、時間になっても動かないアンジェラ様に、

さすがに陛下が急かし始めた。


「ナタニエル、アンジェラ、時間だ。

 そろそろ馬車に乗らないか」


「お父様!お父様は寂しくないの!」


「寂しいが、お前が幸せになると信じている。

 あの帝国の王妃になるのだからな」


「……お父様。そうね、行って来るわ」


「ああ、気をつけてな」


ナタニエル様とアンジェラ様の産みの母である王妃様は、すでに亡くなっている。


現在、この国の王妃は空位のまま、側妃様がいる。

側妃様が産んだ第二王子と第三王子もいるが、

三人ともお見送りには出てきていない。


アンジェラ様が存在を認めていないからだ。


王妃様が亡くなった後で迎えた側妃様なのだが、

やはり複雑な思いがあるらしい。


「出発せよ!!」


陛下の号令と共に馬車の列が動き始める。

二十台はいるだろうか。

その周りに護衛騎士の騎馬が配置されている。


ここから国境まで二日。

国境から帝国の首都までは一日。


通常なら三日あればつく旅だが、途中で何があるかわからない。

無事に着くようにと見送った。




次の日からも私はいつも通り王宮へ通ったが、

ナタニエル様が顔を見せることはなかった。


アンジェラ様がいなくなったことで落ち込んでいるそうだ。


しばらくはそれも仕方がない。


昼過ぎに一度王宮へ出向き、用事を命じられなければ屋敷に帰る。

そんな風に過ごして、三週間がたった。


「今日も何もありませんでしたね~」


「そうね。そろそろ立ち直ってもらいたいけれど」


王太子であるナタニエル様には王太子としての仕事がある。

それは私では代われないものだ。


臣下が困り果てて私のところに何とかしてほしいと来るが、

王太子の部屋に入れない私にはどうすることもできない。


明日、またドアの外から呼びかけてみようと、馬車に乗ろうとする。


その時、王宮内に単騎が駆け込んできた。


「何事ですか!」


「アンジェラ様がお戻りです!!」


「…………は?」








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