32.ダニエルの実力
「昔、留学中のダニエルに俺の側近にならないかと聞いたら、
国を捨てることがあれば考えますと答えていたな」
「あ……ありましたね」
「では、俺の側近になればいい。
そうすれば領地無しではあるが、侯爵位を渡せる」
「……それはとてもありがたいですが、
リンネアの兄という理由で側近にしてもらったと思われるのではないですか?
リンネアの立場が悪くなるようなことは避けたいのですが」
お兄様の言うとおりだと思った。
帝国の皇太子の側近など、そうそうなれるものではない。
いくらお兄様が帝国の学園を卒業していても、不満に思うものが出るだろう。
そして、私の兄だから贔屓されていると言われるに違いない。
「それはもちろん、実力で黙らせるしかないな」
「え?」
「ダニエルなら実力で黙らせることができると思っている。
リンネアの兄だから側近になったのではないと周りにわからせればいい」
「それは……それだけ高く買っていただけるのはありがたいことではありますが」
優秀なお兄様でもさすがに迷うのか、少し考え込んでいた。
「どうだ?やってくれるか?」
「まずは見習いとしてこちらに通わせてください。
側近になるのは実力を示してからでお願いします」
「よし、来るのはいつからでもいい。
帝国に来たばかりで大変だろう」
「ありがとうございます」
急な展開で頭が追いつかない。
まだエルドレドでの出来事や、お父様たちのことも聞きたかった。
だが、お兄様は商会で待っているお義姉様のことも心配だからと帰って行った。
次にお兄様が東の宮に来たのは三日後のことだった。
新しく住む屋敷は商会に手配を任せたらしく、今は仮の住まいにいるという。
見習いとして他の側近から仕事を習うのかと考えていたが、
お兄様はマティアス様の執務室でずっと資料を読んでいた。
何か調べている様子が一週間ほど続いたと思ったら、
それから二日ほど来なかった。
まさか体調でも崩したのではないかと心配していたけれど、
三日目になっていつも通り笑顔で東の宮に現れた。
「お兄様、二日も顔を見せないなんてどうしていたのですか?」
「ああ、調べ物をしていたんだ。
なんとか実力を示せそうだから、マティアス様と話そうと思って」
「まぁ……こんなに早く」
お兄様がマティアス様と話すというので、
気になって私も同席できないかついていくことにした。
マティアス様は私も一緒だったことに驚いていたけれど、
一緒に話を聞こうと言ってくれたので隣へと座る。
「それで、何を調べていたんだ?」
「はい。今、マティアス様が困っていることを解決しようと思いまして。
何に困っているのか、勝手ながら調べさせてもらいました」
「俺の困ったこと?」
「正妃様の出身国、ポスニルア国の内乱について。
そして、本宮にいるディアナ様の噂。
これらを解決しようと思いました」
ディアナ様を?
まさかお兄様が調べていたのがポスニルア国についてだなんて。
他国の政治に口を挟むことは難しい。
帝国でもどうにもできないと放っておかれているというのに。
「どうやって解決する気だ?」
「ポスニルア国の王弟の行動を止められないのは、
それがポスニルア国の内政に口を出すことになるからですよね?」
「その通りだ」
「では、帝国の問題だとすればどうでしょう?」
「なに?」
「ポスニルア国の王弟が帝国法に違反しているとなれば、
捕まえに行くことは可能ですよね?」
どうやらポスニルア国の王弟を帝国法で裁こうとしているらしい。
王弟が犯罪行為を行っている証拠でもつかんで来たのかもしれない。
これなら解決できるかもしれないと思ったが、
マティアス様の表情は曇ったままだった。
「まさか、調べたのか?」
「はい。マティアス様もご存じでしたよね。
ポスニルア国の王弟が帝国法に違反して、冒険者に金を貸していることを」
「……ああ」
知っていた?
帝国法では帝国人以外が帝国内で貸金業を営むことを禁じている。
処刑もありうるような重大な罪だが、見逃していたとでも?
「ポスニルア国の王弟は冒険者たちに通常より少し高い金利で貸し付けてました。
ですが、冒険者にとっては他に貸し付けてくれる商会などありません。
だから、冒険者ギルドからお願いされていたのですよね?見逃すようにと」
「そうだ……金利が高いと言っても、法外なわけではない。
むしろ不安定な職業の冒険者相手に貸しているのなら安い方だ。
ポスニルア国の王弟が持っている商会以外でそんなことはできないだろう」
「ええ、膨大な資金とそれを取り立てる私兵がいるからできることです。
ですが、返せなかった冒険者は奴隷契約を結んでいます」
「なんだと!?」
「冒険者から奴隷になり、ポスニルア国へと送られていました。
内乱のための戦力にしていたんです」
「それは本当なのか!?」
「証拠はここに」
たくさんの証言を集めたのか、筆跡の違う証言が束になっている。
そのすべてにマティアス様は目を通し、低くうなった。
「……まさか奴隷契約を結ばせていたとは。
金目当てで私兵になっているのとばかり……」
「帝国人以外の貸付業、そして奴隷契約。どちらも重罪です。
これだけの証拠があれば、軍を動かしても問題はないでしょう」
「わかった……軍を動かそう」
怒りがおさまらない様子のマティアス様に少し不安になり問いかける。
「マティアス様が軍を率いるのですか?」




