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31.訪問者

その知らせは本当に突然のことだった。

部屋に入って来たマリアがめずらしく焦っているように見える。


「西の宮のほうから連絡があり、リンネア様の兄だという方が来ていると」


「え?お兄様が?」


「はい。訪問のお約束もないため普通なら帰っていただくのですが、

 エルドレドで何か起きて緊急だということも考えられるため、

 念のためにリンネア様に確認したいとのことです」


「お父様宛に出した手紙の返事がなかったから、

 ずっと心配していたの。

 会うことはできるかしら?」


「……間違いなくオードラン公爵令息だとわかればいいのですが。

 確認ができないうちはリンネア様に会わせるわけにはいきません」


それはその通りだ。名前を騙って来たのかもしれないし、

皇太子の婚約者を不審な男性に会わせることはできないはずだ。


「じゃあ、カルラに確認してもらうというのはどう?」


「それなら大丈夫でしょう」


「カルラ、お願いするわ。本当にお兄様なのか確認して来て」


「わかりました!」


侍女としての仕事も少ないからか、カルラが張り切って手をあげる。

その仕草にマリアが目くじらを立てる。


「カルラ、まだ王宮侍女というものを理解していないようですね」


「……はい、申し訳ありません」


マリアに叱られたカルラはしゅんとしたまま連れて行かれた。


二人が戻ってくる間、落ち着かずに部屋の中をうろつく。

しばらくしてノックの音が聞こえ、戻って来たのかと思ったらマティアス様だった。


「ダニエルが来たと聞いたのだが」


「今、カルラが確認に行っています」


「ふむ。もし本人ならここに東の宮に連れて来るように指示を出しておこう」


「ありがとうございます」


東の宮に人を招くにはマティアス様の許可がいる。

私が西の宮に会いにいけばいいと思っていたけれど、

こちらまで来てもらえるなら助かる。


少しして、マティアス様と応接室へと移動する。

そこにはやつれた顔をしたお兄様がいた。


「お兄様!」


「リンネア!」


「いったいどうしたというのですが……」


「大変だったんだ……。皇太子殿下、急な面会をお許しいただきありがとうございます」


「いや、かまわない。そうしなければいけない理由があったのだろう」


「はい……」


「まぁ、座ってくれ。話を聞きたい」


お兄様とマティアス様が向かい合わせで座ったのを見て、

少し迷ったけれどマティアス様の隣に座る。

それを見たお兄様がうれしそうに笑った。


「よかった。リンネアが幸せそうで」


「ええ、とてもよくしてもらっているの。

 あの時お兄様に背中を押してもらったおかげね」


「そうか」


それからお兄様は笑みを消して、これまでのことを説明してくれた。

私がエルドレドから出た後、何が起きたのか。


「離縁しろだと?」


「はい。ナタニエル様にそんな権限はないはずなのですが、

 断った後、妻の実家のほうに圧力をかけられまして……」


「そんなことが許されるのか?抗議はしたのだろう?」


「もちろんです。父たち三公爵家から陛下に抗議しました。

 さすがに陛下もナタニエル様の横暴を諫めることを約束してくれたそうです」


「そうだろうな」


まさか、私がいなくなったことでお兄様たちに迷惑がかかっていたなんて。

ナタニエル様が無茶を言うのには慣れていたけれど、これは度を越している。


「ですが……その後もアンジェラ様からの呼び出しが止まらず。

 陛下もアンジェラ様のわがままについては放置しているようで……」


「なんてことだ」


「さすがに妻の精神状態が不安定になってしまい、

 自分が身を引いた方がいいのではないかと言い出すようになり……」


「そんな!お義姉様は何も悪くないのに!」


「わかっている。だから、父上と叔父上と相談した結果、

 オードラン公爵家は叔父上に継いでもらうことにした」


「は?」「え?」


今、お兄様なんて……?

オードラン公爵家を叔父様が?


「まさか、国を出てきたのか?」


「その通りです。妻と国を出ました。

 そのため、爵位がない状態で帝国に使者を送るのが難しく……。

 こうして直接会いにくるしか手立てがなかったのです」


「それでか……礼儀正しいはずのダニエルが、

 約束もなく来るなんておかしいと思っていた」


先触れのための使者を帝国に使うためには身分を提示しなくてはならない。

オードラン公爵家の籍を抜けてしまったために、それが難しくなってしまったらしい。


爵位を返上する前に連絡できないほど、

追い込まれていたということなのだと思う。


「え?オードラン公爵家を叔父様にって、お父様たちはどうなるのですか?」


「父上は叔父上に引き継ぎをしている。

 それが終われば父上たちもこちらに来る。

 商会は父上が始めた仕事だから、オードラン公爵家は関係ない。

 これからは商会長と副商会長として帝国に住む予定だ」


「お父様たちもこちらに……」


そのこと自体はうれしいけれど、オードラン公爵家を名乗れなくなるのは寂しい。


「リンネアの籍はどうなっているのだ?」


「叔父上の養女という形でオードラン公爵家に残してあります」


「え?私だけ?」


「そうでなくては皇太子の婚約者でいられなくなるから」


「あ……」


今でも公爵令嬢というのは皇太子の婚約者として身分が十分ではない。

それなのに平民になったとなれば、婚約は解消されてしまう。


「話はわかった。それで、ダニエル。

 約束を覚えているか?」


「え?」


「昔、留学中のダニエルに俺の側近にならないかと聞いたら、

 国を捨てることがあれば考えますと答えていたな」


「あ……ありましたね」


「では、俺の側近になればいい。

 そうすれば領地無しではあるが、侯爵位を渡せる」


「……それはとてもありがたいですが、

 リンネアの兄という理由で側近にしてもらったと思われるのではないですか?

 リンネアの立場が悪くなるようなことは避けたいのですが」



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