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30.地毒

「ああ。属国にはそれぞれ問題がある。

 その問題を解決できるのが帝国の王族だけだから属国になっている。

 エルドレドの問題は知っているか?」


「エルドレドの問題……」


この大陸には魔素というものがある。

そのため生きる者は誰しも魔力を持っている。


魔素や魔力は生きる上で必要なものだけど、

時に多すぎる場合は害になることもある。


「地毒、ですよね?」


「そうだ。エルドレドは土の中に魔力が溜まり、

 その結果農作物が汚染されてしまう。

 だいたい三十年に一度くらいの頻度で起きる」


「前回は二十年ほど前だと聞いています」


「ああ、だが……被害が少なかった」


「え?」


お父様からはかなりの被害が出たと聞いている。

当時、国王の弟様が二人亡くなったと。

それに高位貴族が何人も亡くなっているはず。


それなのに被害が少なかった……?


「ん?エルドレドではそう言われていないのか?」


「はい。王弟を始めとして貴族たちにも多く被害が出たと聞いていました」


「ああ、それは仕方ないな。地毒は魔力を多く保有する者ほどひどくなりやすい。

 まず王族や高位貴族から症状が出るんだ。

 その時点で食い止めることができれば、平民まで被害が及ばない」


「被害が少なかったというのは、国全体に広がらなかったということでしょうか?」


「そうだ。エルドレドの歴史から考えれば被害は少なかった。

 早く対処できたからというわけではなく、地毒が軽かった」


地毒が軽いというのは、溜まっていた魔力が少なかったということだろうか。


「地毒というのは決まった量というわけではないのですね?」


「その通り。どの程度魔力が溜まったら発生するかわからないんだ。

 多くても大丈夫な時もあれば、少ないのに発生する時もある。

 俺は魔力そのものが原因ではなく、魔力が変性するからではないかと考えている」


「魔力が変性……」


「しかも、三十年に一度と言われているが、

 前々回は三十五年前だが、その一つ前は十五年で起きている」


「二十年過ぎている時点で油断はできないということでしょうか」


「その通りだ。軽かった時の次は早めに来ると言われている」


「まぁ……」


では、今回は早めに来る可能性が高い。

二十年過ぎているので、今日来たとしてもおかしくない?


エルドレドではそんなことは予測していなかった。

あと十年ほどは大丈夫だろう、そんな風に楽観視していた気がする。


お父様に後で伝えたほうがいいかもしれない。


「地毒が発生した場合、エルドレドの王家から報告があるのですか?」


「普通はそうだな。もし王家から報告がなかったとしても、

 属国にはそれぞれ監視がついている。

 隠そうとしてもそこから報告がくるだろう」


「隠す理由がわからないのですが……?」


地毒の症状は身体の末端から腐り始めると聞いている。

一刻も早くなんとかしてほしいと助けを求めるのではないだろうか?


「俺もそう思うのだが、実際に隠そうとした王族がいないわけじゃない」


「だから監視が必要になるのですね」


「ああ。もし地毒が発生したと報告があった場合、

 王族の誰かがエルドレドに行くことになる。

 今は叔父上か俺のどちらかになるだろうな」


皇帝陛下は帝国を離れることはないのだろうし、マティアス様の弟様は遊学中。

皇太子であるマティアス様が行くなんて危険はないのだろうか?


「もし、マティアス様が行かれる場合、地毒をどうやって解消するのでしょうか?」


「さすがにそのあたりは記録に残っていないだろうから知らないか。

 地中に溜まっている魔力を使って大規模魔術を行う。

 そうすれば魔力が消費されて地毒ではなくなるから」


「なるほど……」


エルドレドの地中すべてに溜まっているだろう魔力を消費できるほどの大規模魔術とは?

聞いてみたかったけれど、秘術と呼ばれているのに聞いていいものだろうか。


「……怖いか?」


「え?」


「大規模魔術など想像もできないだろう。

 そんなものを使えるのは人間じゃないと言われたこともある」


「そんな!マティアス様は国を守ろうとしてくれているというのに」


人間じゃないと言われて傷つかないはずはない。

いつも穏やかなマティアス様でも怒っていいはずなのに、悲しそうな顔をしていた。


「人間じゃないような人は他の国を救おうとしたりしません!」


「……そうだな。ありがとう」


「いえ、エルドレドはずっと帝国に、帝国の王族たちの力に守られてきたのです。

 こちらこそありがとうございます」


二十年前、どなたが助けてくれたのかはわからないけれど、

間違いなく帝国の王族の力を借りている。


もし助けが遅くて被害がもっと大きくなっていたら、

お父様やお母様も亡くなっていたかもしれない。


「そうか……リンネアにそう言ってもらえるなら、

 俺のしたことも間違っていない気がする」


「もちろんです」


「ありがとう……」


きっとマティアス様も他の国に助けに行ったことがあって、

そのために嫌な思いをしたに違いない。


どうして助けてくれる方にそんなことを言えるのだろうか。

柔らかく微笑んでくれるマティアス様を見て、私の胸も痛む気がした。





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