3.完成したマント
それからの二週間は本当に忙しかった。
アンジェラ様の代わりにマントの刺繍をしなければいけないので、
王宮へは行けない旨の手紙を出した。
今まで毎日のように王宮に顔を出していたのは、
アンジェラ様と一緒に皇太子妃教育を受けていたからだけど、
それも輿入れの準備が忙しいためお休みになっている。
残りの教育は帝国についてからとアンジェラ様は言われていた。
もちろん、付き添っていただけの私はお役御免だ。
この国の王太子妃になるための教育ならとっくに終わっている。
王宮に行ったところでやることはないのだが、
毎日顔を出すようにとナタニエル様に言われていた。
ナタニエル様とアンジェラ様が手紙を読んでどう思ったのかはわからないけれど、
いつものような呼び出しは来なかった。
輿入れの二日前。
ようやく刺繍が仕上がり、王宮へと向かう。
よほど顔色が悪いのか、馬車の中でカルラに心配される。
「リンネア様、やっぱり今日は休んだ方が良かったんじゃ?
輿入れの日に間に合えばいいのでしょう?」
「だめよ。その前に女官長が荷物の最終確認を行うの。
早く渡してあげたほうが安心すると思うし」
きっと女官長は心配しているに違いない。
私が十日以上も王宮に顔を出さないなんて今までなかった。
もし、刺繍が出来上がらなかったらと思うと、
夜も眠れないほど不安だろう。
「本当にリンネア様は甘いんだから。
自分のことをもっと大事にしてよ」
「そうだよ。ああ、もう。俺も王宮についていければいいのに。
王女があんなことしなかったら……」
「あの時は助けようとしてくれてありがとう。
でも、あれ以上クルスが何かを言えばもっとひどい処罰を受けていたわ」
「だけど……助けられなかった」
「ううん、いいのよ」
クルスは公爵家がつけた私の護衛騎士だが、
王宮内には立ち入れないことになっている。
半年前、一緒に休憩していたアンジェラ様がドレスにお茶をこぼした。
お気に入りのドレスを汚してしまったことがショックだったのか、
アンジェラ様は悲しそうに泣き出した。
だが、問題はその後だ。
アンジェラ様は私にお茶をかけられたと嘘をついた。
その嘘を信じたナタニエル様に頬を叩かれ、
私を助けようとしたクルスはナタニエル様に食って掛かろうとした。
悪いのは王女だと。
もちろん、ナタニエル様がそれを信じるわけはない。
嘘をついて処罰を免れようとしたと言われ、
私は一週間の謹慎を、クルスは王宮内の立ち入り禁止を言い渡された。
私の謹慎はすぐにとけたけれど、クルスの処罰は続いている。
ガタンと音を立てて馬車が止まる。
クルスが大きくため息をついた。
「カルラ、俺がいない分、リンネア様を守れよ」
「わかっているわよ」
「ああ、また留守番か……」
「ごめんね。ここで待っていてね」
クルスだけ馬車に置いて、私とカルラは王宮内へと入る。
近くにいた女官たちにアンジェラ様がどちらにいるのか聞けば、
ナタニエル様と温室でお茶をしているという。
持参したマントはこのまま女官に渡してもいいのだが、
どのような刺繍をしたのか、アンジェラ様が知らないままではまずい。
そのため一度お見せしようと温室まで向かったのだが、
そこにはテーブルいっぱいに菓子を並べてお茶を楽しんでいる二人がいた。
「なんだ、リンネアか。
お前、最近顔を見せなかったが、何をしていたんだ。
アンジェラがいなくなるのを寂しいと思わないのか?」
「私はアンジェラ様の代わりに刺繍をしていましたので」
「刺繍?……ああ、そういえばそうか。
もちろんできたのだろうな」
「はい」
さすがに菓子が載っているテーブルに広げるわけにはいかない。
少し離れた場所で広げて見せると、ちらりと見ただけで二人は満足したようだ。
「もういいわ、女官にでも渡しておいてちょうだい」
「わかりました」
「あとはもういい。アンジェラと楽しんでいるのだから邪魔をするな。
さっさと出ていけ」
「はい」
温室を出る前から二人の笑い声が聞こえる。
眠る時間を削ってまで仕上げたのにと思うけれど、
こんな対応されることにも慣れてしまった。
女官長を探し、マントを預け、厳重に管理するようにと伝える。
さすがに女官長はマントの重みをわかっているようで、
おそるおそる受け取っていた。
「お輿入れの時に一緒にお持ちするものだから、
大事に保管しておいてね」
「は、はい!」
マントが手元から離れて、ようやく息が楽になる。
本当にこれでよかったんだろうかとも思うけれど、私にはどうしようもない。
どうか、帝国に嘘がバレませんようにとこっそり祈りを込めた。




