27.企み(ナタニエル)
「……ねぇ、お兄様。良いこと考えたわ」
「なんだ?」
「こうなった責任をオードラン家に取らせて、
ダニエルを別れさせればいいと思うの」
「別れさせる……そんなこと簡単にできるわけ」
「だからぁ、そうやって圧力をかけておけば、
あの馬鹿真面目なリンネアが戻って来るかもしれないじゃない!」
「そういうことか……」
たしかにリンネアなら家族に迷惑をかけていると知れば、
皇太子の婚約者を辞退して戻って来るかもしれない。
「そうしたら私は予定通り皇太子妃になればいいし、
戻ってこなかったとしてもそのままダニエルを別れさせちゃって、
オードラン家に嫁げばいいわ」
「俺はリンネアが戻ってこないと相手がいないんだが」
「あら。ダニエルの妻を側妃にでもすればいいじゃない。
ドノン侯爵家のものだったでしょう?」
「なるほど……」
リンネアが戻ってこない場合、
俺の正妃になれるのはバランド公爵家の末娘だけ。
その娘が成長して妃になるまでの間、
ダニエルの妻エレーナを側妃にするのも悪くない。
夜会にも出てきていないからエレーナの顔は知らないが、
公爵家の次期夫人に選ばれるくらいだから容姿も悪くないだろう。
幸い、ダニエルたちにはまだ子どもはいなかった。
貴族家ならそれを理由に離縁することもできる。
「よし、オードラン家に手紙を出そう。
相手は公爵ではなくダニエルがいいな」
「妻の名も書いておけば、もっと焦るんじゃない?」
「それもそうだな。そのほうが大騒ぎになるだろう。
そうすればリンネアにも伝わるはずだ」
すぐに離縁を命じる手紙を書きあげ、隣室にいた侍従を呼ぶ。
「……どうしましたか?」
「この手紙をオードラン家に届けてくれ」
「オードラン公爵家ですね」
「ああ、返事をもらうまで戻って来るな」
「……わかりました」
おそらくすぐに返事が来ることはないだろうが、
王宮からの使者が帰らないとなれば重要な話だとわかるはずだ。
「ふふふ。どっちになるかしら。
ダニエルにはしばらく会えていないけれど、
きっと前よりも素敵になっているはずよね」
「皇太子も顔がいいという評判だが」
「私に会おうともしない時点で幻滅だわ。
ま、頭を下げて迎えに来てくれるなら考えてもいいけど」
「それにはまずリンネアに辞退させてこちらに戻さなくてはな」
オードラン家からの返事を待っていたが、
侍従はその日のうちには戻ってこなかった。
次の日、侍従が持って来た返事を見て、アンジェラが激怒する。
「は?読まなかったことにするって、どういうことよ!」
「……この筆跡は公爵だな。ちっ。ダニエルが公爵に見せたんだ」
「こうなったらダニエルたちを王宮に呼び出しましょう?」
「王宮に?」
「ええ。お茶会の招待状を送りましょう。
直接会って、別れるように圧力をかけるの。
正当な理由なく来ないようなら、オードラン家とドノン家に制裁を」
「制裁っていってもな……」
「ほら、税金を倍にするとか、いろいろできるでしょう?」
「税を倍にか」
そういえば、帝国からアンジェラの支度金はもう入ってこない。
この間、アンジェラが買い物した請求も来ていたが、
今後も続くようなら金策をなんとかしなくてはいけない。
税をあげるくらいの制裁ならしてもいいだろう。
今度はお茶会の招待状を送ったが、やはり断りの返事があった。
理由も書かれていなかったことから不敬だと判断し、
オードラン公爵家とドノン侯爵家の税を倍にすると通達した。
撤回してほしくは王宮まで弁明に来いと。
これなら父上も文句はないはずだ。
税を上げられるのが嫌なら謝罪に来ればいい。
ここまで言われて来ないようなら、本当に税をあげられても仕方ない。
オードラン家はどちらにするのかと思いながら、
学園に向かうとやはり令嬢たちから避けられているのを感じる。
いったい俺が何をしたというのかと苛立っていたら、
先日と同じように学生会の令息に呼び止められる。
「あ、ナタニエル様!今から学生会室に来てもらえますか?」
「なんだ……お前か。仕事ならリンネアに言えと」
「ですが、リンネア様は正式に皇太子の婚約者になると聞きました。
いずれ戻って来てくださるとしても、今すぐではないのですよね?
書類は今週中に学園長に提出しないと間に合わないんです!」
「はぁ……わかった」
俺が仕事をしていないと学園長に思われても困る。
仕方なく学生会室に向かうと、思っていたよりも書類が積みあがっていた。
「なんでこんなにあるんだ?」
「いつもはリンネア様が少しずつナタニエル様にお持ちするのですが、
ここ一か月ほど、リンネア様が王宮に行ってもお会いできなかったと」
「……そうか」
そういえば、アンジェラが帝国に行ってしまったことで部屋にこもっていた。
リンネアとは一か月半ほどまともに顔をあわせていない。
これらはその間にたまった書類らしい。
「そういえば、令嬢たちの様子がおかしい気がするんだが、知らないか?」
「……噂なら知っていますが」
「噂とは?」
「ナタニエル様のお気に入りだった子爵令嬢。
身ごもったことが父親に知られて勘当されたそうですよ」
「勘当?」




