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16.謁見

その日のうちにマリアから謁見が明日に決まったことを知らされる。

いよいよ皇帝陛下と正妃様に会うと思うと緊張してくる。


この大陸のほとんどを支配していると言っても過言ではないほど、

皇帝陛下が持つ権力は強い。


今までエルドレドの王族としか謁見したことがないので、

帝国の謁見の作法は学んであるとはいえ、失敗しなければいいと不安になる。



次の日は朝食を取った後から準備が始まった。


湯あみをした後、数人がかりで身体を磨かれ、髪を香油で整えてもらい、

ドレスを身につけた後で化粧をされる。


謁見するためだけにここまでされるのは初めてだけど、

少しでも見栄えが良くなるようにと祈る。


アンジェラ様が選ばれた理由がわからない以上、

どこでお二人に嫌われてしまうかわからない。


金の髪で選ばれたのなら、私でも問題ないだろうけど。

顔立ちや瞳の色で選ばれたのなら気に入ってもらえないかもしれない。


緊張しながら着替えが終わると、すぐに私室の扉が開けられ、

マティアス様が迎えに来てくれたのが知らされる。


少しして、部屋に入って来たマティアス様は正装をしていた。

真っ白な王族衣装には紫の差し色。そして金の肩章も光り輝いている。


座っている私に微笑もうと顔を傾けたから、

私を見つめたまま、頬にさらりと銀色の髪が流れ落ちる。


そのしぐさが見惚れるほど美しくて、ぼうっとしてしまう。


「リンネア、大丈夫か?」


「え、あ、はい!」


「ああ、そのドレスも似合っている。とても綺麗だ。

 何も問題はなさそうだな。行こうか」


「あ、ありがとうございます」


私も何か返せればよかったと思ったけれど、

見惚れるほど美しかったなんて恥ずかしくて言えなかった。




マティアス様の手を取って、東の宮を奥に進む。

中庭に出る扉を通り過ぎ、まだ奥へと進む。


建物の一番奥まで進むと、扉が開かれる。

外に出るとすぐに大きな赤い門があった。


東の宮に入る時の門よりも門番が多い。

門番たちはマティアス様の顔を見て、すぐさま門を開く。


「この先は本宮だ」


門をくぐると、そこは東の宮よりもさらに大きな帝国風の建物があった。

警備の者が多いのか、そこかしこに騎士が配置されている。


見慣れない場所できょろきょろしたくなるけれど、

皇太子の婚約者として来ているのに恥ずかしい真似はできない。


失礼のないようにと心の中でつぶやきながら進んでいく。


謁見室の前にはまた騎士たちがいたけれど、

知らされてあったのか、何も聞かれずに扉が開けられる。


もうすでに皇帝陛下と正妃様は来ていたようで、

玉座に座っているのが見えた。


皇帝の直系一族は皆、銀色の髪だからわかりやすい。


正妃様は出身国のポスニルアの王族らしく黒髪黒目で、

マティアス様を産んだとは思えないほど若々しく美しかった。


たしかマティアス様の下に第二皇子がいるはずだ。


「父上、母上、遅くなりました」


「いや、かまわない。我らが時間よりも先に来てしまっただけだ。

 ようやく会わせてもらえると思ったら楽しみでな」


「……正式に婚約してからと思いまして」


「そうか。調ったか」


「はい。書類を」


マティアス様は近くにいた皇帝付きの者に書類を渡す。

書類を受け取った皇帝陛下はにやりと笑った。


「それでは俺の婚約者を紹介します。

 エルドレド国の公爵令嬢リンネアです」


「神に愛されしアリアトス帝国の偉大な皇帝陛下に謹んでご挨拶申し上げます」


「ああ、よい。娘になるのだから、そう固いことは言わなくていい。

 顔をあげて、よく見せてくれ」


「は、はい」


属国の者として、皇帝陛下に臣下の礼をしようとしたら途中で止められてしまった。


どうやら好意的に迎え入れてもらえているようでほっとしていたら、

皇帝陛下の隣に座る正妃様ににらまれているのに気づいた。


もしや、正妃様には嫌われている?


「マティアスの妃はどうなることかと思ったが、

 収まるところに収まってよかった」


「いいものですか!こちらは心配して振り回されて!」


やはりこの婚約が気に入らないのか、正妃様は不機嫌さを隠さない。


「母上、俺は心配しなくてもいいと言いました」


「でも、報告書を見たら心配するに決まっているでしょう!

 あんな王女を婚約者候補にしておくんだから!」


ああ、アンジェラ様の件でお怒りのようだ。

それもそうだ。私だって、謝罪のためにここに来たのだから。


「あの……我が国のアンジェラ王女が大変失礼なことを……」


「リンネアは謝罪しなくていい。君は振り回されたほうだろう」


「そうだな。リンネアのことも報告書に載っていたよ。

 王女の課題を代わりにし、献上するマントの刺繍まで。

 身分の差もあって何も言えなかったのだろうが、大変だったな」


……マントの刺繍のことまで知られていたとは。

完全にアンジェラ様のことは報告されていたようだ。


「私だって、その娘が悪いのではないとわかっています!

 ですが、あんな王女を妃にするくらいならディアナのほうがいいと、

 期待してしまった私が悪いって言うのですか!」



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