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12.近づく距離

「エルドレドからの謝罪は受け取った。

 そして、新たな婚約者候補としてリンネアの推薦も受け取る。

 この時点より、俺の婚約者候補はリンネアとする」


「え……あ、ありがとうございます」


「マリア、中庭に用意はしてあるか?」


「できております」


「よし、行こうか」


「え?」


皇太子に手を取られ、そのまま部屋から外につながる扉を出る。

そこは東の宮の中庭になっているらしく、たくさんの花が咲き誇っている。


「花が好きなのか?」


「はい。領地の特産の一つでもありましたし、花を育てるのが好きでした」


「そうか。この庭のことは庭師たちへ好きに指示してかまわない。

 リンネアが好きな花を植えるがいい」


「あ、ありがとうございます」


好きな花を植えていいのはうれしいけれど、中庭に出ても手はつながれたまま。

こんな風にエスコートされたことはなく、手から伝わる体温が恥ずかしい。


「どうかしたのか?」


「いえ、あの……家族以外の男性と手をつないだことがなく……」


「え?あ、そうなのか……嫌なら離すが」


「いえ、嫌だとか、そういうのではなく……慣れていないので恥ずかしくて」


「そうか……」


恥かしいと思っていると伝えることがこんなに恥ずかしいだなんて知らなかった。


きっと顔は真っ赤になっているに違いない。

自分でもわかるくらい頬が熱い。


「できればこうしてふれられることにも慣れていってほしい。

 リンネアが皇太子妃になるのだから」


「……本当に私が代わりでよろしいのでしょうか?」


「代わりで選んだのではないよ」


「え?」


「それは追々話そうか。まずは長旅で疲れただろう。

 ほら、座って」


「はい」


ここが中庭でも一番綺麗に花が眺められる場所なのだろうか。

少し丘のようになっているところに東屋がつくられている。


その中に置かれたソファーに座ると、すぐ隣に皇太子も座る。

向かい側にも座れるのに、横並びに座るなんて。


しかも、まだ手は離してもらえない。


「あの、殿下……」


「俺のことはマティアスと呼んでくれ」


「マティアス様」


「ああ、そうだ。今日は最初だから、リンネアのことを話してくれないか?

 好きな食べ物はなんだ?」


「え、好きな食べ物ですか?」


さきほど初めて会ったばかりなのに、こんな近距離で手をつないだまま話すなんて。


緊張でどうにかなりそうだと思っていたけれど、

少しずつ少しずつ、話しているうちに気持ちは落ち着いていく。


なんだろう……初めて会ったのに、懐かしい気もする。

お父様やお兄様に似ているわけでもないのに。


不思議だと思いながらも、マティアス様との話が楽しくなっていく。


気がつけば、日が落ちかけていた。


「殿下、リンネア様、もう日が暮れます。

 そろそろ中にお戻りくださいませ」


「ああ、そうだな。中に入ろう」


先に立ち上がったマティアス様に手を借りて立ち上がる。


婚約者がいる令嬢たちがよくしていた行動を、

こうして自分がすることになるなんて思わなかった。


話をして、お茶を飲んでいる間も、ずっと手はつながれたままだった。


そのことがなぜか当然のように思えてしまうのは、

マティアス様が女性の扱いに慣れているからなのかもしれない。


私は生まれて初めて女性として、恋人のように扱われて、

舞い上がってしまっているのかもしれない。


「一度部屋に戻らせるが、晩餐の時にまた迎えにいく」


「わかりました」


通路から建物の中に入ると、マティアス様が私に用意された部屋まで送ってくれる。


「それでは、あとで」


「はい」


手を離されて、少しだけマティアス様の体温を名残惜しく思う。

その姿が見えなくなって扉が閉まった瞬間、後ろからカルラに抱き着かれた。


「リンネア様!?」


「えっ!?」


「あれはいったい何だったの!?」


「何って」


「会った瞬間から二人していちゃいちゃし始めて!

 一目惚れでもしたって言うの!?」


「一目惚れ!?」


「そうじゃなきゃ、考えられないじゃない!」


「……そんなにいちゃいちゃしてた?」


「してたわ」


言われてみれば、そうなのかもしれない。


お茶をしている間、ずっと手をつないで、

ほとんどの時間を見つめあって話をしていた。


「あーでも、処刑とかにならなくてよかった」


「それは……本当ね」


アンジェラ様がしたことは帝国を敵に回したようなものだった。

こんなにもあっさりと許されてしまって本当によかったのだろうか。


「あ、リンネア様は早く着替えて準備しないと!」


「荷物の片づけ、一人で大丈夫?」


「大丈夫だから、休んでいて!疲れたでしょう!」


侍女はカルラしか連れて来なかった。

謝罪のためにはそれで十分だと考えていたけれど、

このまま帝国に滞在するなら足りなくなる。


幸い、荷物が少なかったからか、ドレスはすぐに見つかったようだ。

着替えて待っていると、本当にマティアス様が迎えに来てくれた。


「さぁ、行こうか」


「はい」


差し出された手を取ると、カルラが笑っているのが見えた。

あとでちゃんと叱っておこうと思いながら部屋を出る。


晩餐用の部屋に入ると、テーブルには椅子が二つ。

正式な晩餐用の長テーブルではなく、小さめの丸テーブルに向かい合わせ。


非公式だからだと思うが、他の方が同席していないことにほっとする。


マティアス様は私を先に座らせてから向かい側に座る。

それから間もなく料理が運ばれてきて食事が始まった。


さすが帝国の宮で出される食事だとしか言いようがない。

エルドレド国での食事よりも見た目が美しく、味も美味しい。


気がついていないだけでお腹は空いていたらしい。

食べ進めていると、マティアス様がぽつりとつぶやいた。


「先ほどマリアに叱られてしまったよ」



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