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11.謝罪の場

マリアンナ先生は帝国から派遣されて来た皇太子妃教育の先生だった。


アンジェラ様の輿入れよりも先に帝国に帰国していたけれど、

まさかこんなところで会うことになるとは。


「女官長だったのですか?」


「エルドレド王国に行く時にはもう決定しておりました。

 戻ったら東の宮の女官長になるようにと。

 ささ、お疲れでしょう。まずはお部屋へ案内いたします」


「え、ええ。わかりました」


聞きたいことはたくさんあるけれど、今は部屋に案内してもらい、

身支度を整えなくてはならない。


皇太子様に面会を申し込むのに、このような旅衣装のままでは失礼になってしまう。


女官長の後をついていくと、建物のかなり奥まで進んでいく。

どこまで行くのかと聞こうとした瞬間、女官長は扉の前で止まった。


「こちらの部屋でございます」


「ありがとうございます」


女官たちが扉を開けてくれたので、そのまま中に入る。


「え……」


中は客室とは思えないほど広く、置かれている家具なども、

特別に用意された部屋にしか見えない。


「マリアンナ先生、本当にこちらの部屋でよろしいのですか?」


「ええ、もちろんです。湯の用意はできておりますので、

 ごゆっくりおくつろぎくださいませ」


「はぁ……ありがとうございます」


あまりにもきっぱりと答えられたために、

そんなわけはないと言い返せなかった。


「それと、こちらではマリア、とお呼びください」


「マリア様」


「いえ、マリアと」


「帝国の皇太子宮の女官長を呼び捨てにするようなことはできません」


「……」


いくら女官長が王宮の使用人とはいえ、私は属国の公爵令嬢に過ぎない。

これに関しては納得してくれたのか、

女官長は無言で礼をすると部屋から出て行った。


「リンネア様、この部屋すごいわね。本当にここに泊まるの?」


「すごい部屋ね。広さだけでもアンジェラ様の私室の倍以上ありそう」


「ただの客室ってことはないわよね?」


「いくら帝国が大きな国だとしても、これがただの客室だとは思えないわ。

 よくわからないけれど、謝罪に来るのが予想できていたから、

 あらかじめ部屋を用意してくださっていたのかも」


「じゃあ、それほど怒っていないってことよね?」


「皇太子の宮に入れてくれたというのは、そうだと思うけど……」


確証はないけれど、怒っているのなら王宮にも入れなかったはずだ。

身支度を整えたなら、一刻も早く謝罪させてもらえるように謁見を申し込もう。


カルラに手を借りて湯を使い、謁見用に持参したドレスに着替える。


ナタニエル様は私のドレス姿は地味だといつも言っていたけれど、

謝罪の場にはふさわしい気がする。


「カルラ、女官長を呼んでもらえる?」


「ええ」


準備ができたのでカルラに女官長を呼んでもらい謁見を申し込もうとしたら、

その前に扉が開いて女官長が姿を見せた。


「準備はよろしいでしょうか?皇太子殿下がお待ちでございます」


「え?……謁見の申し込みはまだなのに、お会いしてくださるの?」


「はい」


「わかりました」


まさか謁見を申し込まずに会ってもらえるとは。

驚きながらもお父様から預かった書簡を持って女官長についていく。


廊下に出て、謁見室まで行くのかと思いきや、

女官長は少し離れた隣室の扉の前にいる騎士に声をかけた。


そして、騎士たちはうなずいて扉を開ける。


「さぁ、リンネア様。こちらで殿下がお待ちです」


「……」


いったいどういうことなのかと問いただしたいけれど、

今は謝罪する方が先だ。


心配そうなカルラを廊下に待たせて、私だけ部屋の中に入る。


私に用意された部屋と同じかそれ以上に広い部屋の奥、

立っている一人の男性が見えた。


背の高い、身体つきがしっかりした、鍛えられた戦士のような印象。

遠目から見ても整った顔立ちにさらさらとした短めの銀色の髪。

そして、私を射抜くような深い青い瞳。


目に見えない力のようなものを感じて圧倒されそうになる。

近づこうとしているのに、足が止まってしまう。


お願い、動いて。

皇太子に怪しく思われる前に、きちんと礼をしなければ。


「殿下、その威圧はやめてください。リンネア様が怯えてしまいますよ」


「え、あ、悪い……」


後ろから部屋に入って来た女官長の声で、すっと場の雰囲気が変わる。

今まで恐れていたものが何だったのかと思うくらい空気が柔らかくなる。


戸惑っていると、皇太子のほうからこちらに近づいてきた。

ハッと気がついて、慌てて臣下の礼をとる。


「ああ、そんな礼はしなくていい。顔をあげてくれ」


言われるままに顔をあげたら、すぐそこまで皇太子が来ていた。

頭一つ以上に背が違うからか、見上げなくては視線が合わない。


皇太子は私にあわせるように少しかがんで、困ったような顔で少し笑った。


「驚かせてしまって悪い。つい緊張していたようだ」


緊張とは?

話しやすそうな雰囲気に変わった皇太子に聞き返してしまいそうになるけれど、

手に持った書簡を思い出して、もう一度深々と頭を下げた。


「この度は我が国の王女アンジェラが……」


「ああ、謝罪はいい。リンネアが悪いわけではないだろう。

 国から預かった手紙があるのなら渡してくれ」


「は、はい」


お父様からの書簡を渡すとその場で開けて読み始める。

そして書簡を女官長に渡す。


「エルドレドからの謝罪は受け取った。

 そして、新たな婚約者候補としてリンネアの推薦も受け取る。

 この時点より、俺の婚約者候補はリンネアとする」


「え……あ、ありがとうございます」


「マリア、中庭に用意はしてあるか?」


「できております」


「よし、行こうか」


「え?」



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