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102/102

102.二人の時間

翌日の結婚式は和やかな雰囲気で始まった。

謁見室には皇帝陛下と正妃様、そして王弟であるクラウス様。


三人に見守られながらマティアス様と私が署名する。


「うむ。我が息子マティアスとその妃リンネアの婚姻が結ばれたことを確認した。

 二人とも、おめでとう。これからの帝国を頼んだぞ」


「マティアス、リンネア、おめでとう」


「ありがとうございます、父上、叔父上」


「ありがとうございます」


マティアス様が礼をするのに合わせて、私も頭をさげると、

正妃様がハンカチで涙を拭いているのが見えた。


「……二人で仲良く協力していくのですよ。幸せになりなさい」


「母上、ありがとうございます」


「ありがとうございます。二人で頑張ります」


「ええ、頑張りなさい」


これから義母になる正妃様が泣くほど喜んでくれているのがうれしくて、

私も涙がこぼれて頬を伝っていく。

それを見たマティアス様が手袋でそっと拭ってくれる。


王宮の外ではこれから王太子の結婚が成立したことが号外で知らされる。

私たちが外に出ることはないが、王都内はしばらくお祝いで大騒ぎになるそうだ。


夕方からの夜会では、エルドレドから使者として叔父様が来ていた。

お父様とお母様と二人で楽しんでいるのが見える。


たくさんの使者や貴族たちにお祝いの言葉をかけられながら、挨拶をして回る。

エルドレドよりも大国である帝国の貴族は数が多く、

最初は名前と顔を覚えるだけでも苦労した。


ただでさえ、他国の王族でもない私が王太子妃になるのだから、

受け入れてもらうためには相手のことを知らなくてはならない。


一度覚えて仲良くなってしまえば、あとはそれほど大変ではなかった。

エルドレドのように見下されることも馬鹿にされることもない。

皆さんが私を王太子妃として扱ってくれる。


「そろそろ退室しようか」


「もうそんな時間ですか」


夜会を楽しんでいたからか、時間になっていたのにも気づかなかった。

お披露目の夜会は途中で退席していいことになっている。


マティアス様にエスコートされて退席すると、

私室ではマリアやカルラが待ち構えていた。


「さぁ、しっかりと準備いたしましょう」


「お願いね」


「リンネア様!さぁ、任せてください!」


張り切り過ぎのカルラがマリアにたしなめられていたが、

あまり反省はしていないように見える。


「カルラ、少し落ち着いてくれる?」


「だって、リンネア様!これから初夜なんですよ!

 落ち着けるわけないじゃないですか!

 リンネア様は当事者なのに、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」


「そう?落ち着いているように見えるの?」


「はい。いつも通りに見えます」


そんなつもりはなかったけれど、これから初夜を迎えるというのに、

言われてみれば緊張している感じではなかった。


どうしてか考えてみたけれど、緊張よりも喜びのほうが強いからかもしれない。


ユグドレアへ旅した時から何度も同じベッドで寝ている。

だけど、マティアス様はキス以上のことはしてこない。


初夜まで待ってくれている優しさがうれしいけれど、

なんとなく物足りなさも感じていた。


ようやく本当の意味でマティアス様の妃になれる。

わくわくするような気持ちで今日を迎えた。


湯あみをし、全身を磨いてもらった後、髪と爪を整えながら軽食を取る。

すべての準備が終わった後、マリアたちは礼をして部屋から出て行く。


「リンネア様、がんばってくださいね!」


「ええ、ありがとう」


ずっと幼いころから私を守って来てくれたカルラは泣きながら手を握って来た。

私が幸せになることを心から願って、喜んでくれているのがわかる。


誰も部屋にいなくなると、マティアス様の部屋とつながっている扉が開いた。


「リンネア、迎えに行ってもいいか?」


「はい。準備はできています」


夜着姿のマティアス様が現れると、とたんに胸が苦しくなった。

さっきまで少しも緊張していなかったのが嘘みたい。


心臓が激しく鳴っているのがわかる。

恥かしくてマティアス様の顔が見られない。

きっと私の顔は真っ赤になってしまっているはず。


「大丈夫か?もう少し気持ちを落ち着かせた方がいいか?」


「……いえ、大丈夫です」


「だが、震えているだろう」


見れば、私の手が震えていた。

もしかして、怖がっていると思われた?


「違うのです!さっきまで大丈夫だったのに、急に緊張してしまって。

 それに戸惑っていました」


「そうか……緊張か。それなら俺もしている」


「マティアス様も?本当ですか?」


「ああ。さわればわかる」


手を取られ、マティアス様の胸に押し当てられる。

ふれただけで心臓が大きく鳴っているのがわかった。


「ほらな」


「……本当ですね」


緊張しているのは私だけじゃないんだと思ったら、急に気が楽になる。

顔をあげたら、マティアス様と目があった。


大好きなマティアス様。

これからこの人の妃になれるんだ……。


「隣の部屋に連れて行っていいか?」


「はい」


うなずいたら、マティアス様に抱き上げられる。

初めて扉の向こう側に入る。夫婦で過ごす部屋。

そこには二人で眠るために大きなベッドが置かれてある。


今日からはここでマティアス様と共に寝ても叱られることはない。


優しくベッドに座らされると、隣にマティアス様も座る。


「疲れているようなら明日でもいい。明後日でも大丈夫だ。

 これからはずっと一緒にいるのだから、焦らなくてもいい」


まるで自分に言い聞かせているようなマティアス様に思わず笑ってしまう。


「いいえ、大丈夫です。ずっと待っていました。

 マティアス様の妃になりたいです。妃にしてくれますか?」


「……いいんだな?」


「ええ、もちろんです」


最後の言葉を言い終わったかどうか。

マティアス様の唇にふさがれる。

そのまま抱きしめられたと思ったら、口づけが深くなる。


いつもよりも長く甘いキスに溶けてしまいそうになる。

身体を預けるようにくったりしていたら、夜着が脱がされかけているに気づく。


あ……そうよね。脱がなきゃいけないのよね。


いつも侍女たちに脱がされているとはいえ、マティアス様に脱がされるのは恥ずかしい。

自分だけ何もすることがないから落ち着かないのかと思い、

私もマティアス様の夜着に手をかける。


「リンネアも脱がせてくれるのか」


「自分だけ裸になるのは恥ずかしいです」


「それもそうか」


自分から脱がせたのに、裸になったマティアス様を直視できない。


目をそらしていたら、抱きしめられる。

その感触が服を着ていた時とはまったく違うのを感じた。


「これ以上は止めてやれない。いいな?」


「……はい」


覚悟を決めて目を閉じ、マティアス様に抱き着く。

それからは永遠のような、あっという間のような、

二人だけの時間が流れて行った。



目を開けたら、もう部屋は明るくなっていた。


こんな時間まで寝ているなんて。

カルラは起こしてくれなかったのかしら。


起き上がろうとしたら、すぐに引き戻される。


「え?」


隣に居たのは裸のマティアス様だった。


声をだしてしまいそうだったのを手でふさぎ、

寝ているマティアス様を起こさないようにする。


どうやら私が起き上がろうとしたのに気づいて、

離れないように引き戻したらしい。


私を腕の中に抱きかかえ、満足そうな顔で寝ているマティアス様を見たら、

ようやくちゃんと妃になれたのだと実感した。


昨日のことを思い出すと、恥ずかしくてたまらない。

熱くなった頬を冷ますようにマティアス様の胸に押し当てる。


寝ているはずのマティアス様が、私が動いたのに反応して、

少しだけ強くぎゅっと抱きしめてくれる。


これが幸せってことなのね。

実感したら、うれしくて泣きそうになる。


これからもずっとこの腕の中にいられますように、

二人で幸せだと笑いながら寄り添え合えますように。


そう願いながら目を閉じた。



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