第3話 勝負しようよ
「え?」
地面に刀が突き刺さり、身体の指導権を奪われる。何これ?身体が全くいうことを聞かない!?
「この刀は少し特殊なんだ~妖刀【浄几】あらゆる事象を吸い尽くす。まあ限度があるんだけどね~」
「そ、そうなんですね......その件とこれにいったい何の関係が?」
「私ね、一応この刀で斬った人の事がある程度わかるんだけど、明らかによそ者だよね君。それもかなり特殊な方」
一気に背筋が凍るほどの殺気と威圧を放たれ、威久は自身が生殺与奪の権をはっきりと握られていることを理解した。回答一つ間違えれば確実に死ぬ。彼女の機嫌一つで私など簡単に殺せるだろう。虫を殺すのと変わらない感覚で。
「教えて。君、何者?」
「そ、それは自分もよくわかってなくて......多分、プレイヤー?」
「何それ?全く意味が分かんない。まあどの道、私の遊び場に無断で入ってきたし、回答もつまんない。もういいや」
これは本当に殺される!!抵抗すらも出来ない状況に威久はただ目を瞑ることしかできない。ゲームだから何度も出来るとどこかで慢心していた。
いつの世界も弱肉強食。食われる絶対に変わることのない食物連鎖の頂点に彼女は位置し、その最下層に威久がいる。
「君可愛いからその顔は傷つけずに殺してあげる。またいつかの時代で会おうね人間様~」
越に据えているもう一本の刀を取り出し、刀を頭上に振り上げる。そしてその刀を振り下ろし威久を斬ろうとした瞬間、草むらからシドが飛び出してくる。
「シド!?」
「むきゅ~!!」
「あれ?白ドラ様?」
シドと少女は何故か面識があるらしく、シドの登場に威久は間一髪で助かる。
危なかった。てかシドとこの人って面識があるのか。まあ同じ角が生えてるし似た感じの種族なのかな?だったらこの子は竜人?いや明らかに見た目は鬼っぽいし......どうなんだ?接点が見えない。
少女とぽよが会話している間、威久は暇をしていた。動きを止められているし、刀もささりっぽなしであの子はどっか行くしでの状態で放置をされている。
てかこの刀って妖刀って言ってたしこの状態で放置されるのってまずいんじゃ...吸い尽くすとまで言ってたし。
限度がある物の、それがどれぐらい影響しているのかは不明だ。
シドとの会話が終わったのか、少女は威久の元まで近づき地面に刺さっている刀を抜く。
「さっき白ドラ様から聞いたよ~助けてくれたらしいね。ごめんね~私あんまし人の話聞かないからさ~」
「そうなんだ~あはは~」
いや勘違いで殺されそうになったから笑えないんだけど。
「自己紹介してなかったね。私はガリア。見ての通り鬼だよ~」
「薄々はそう思ってましたけど......私は......」
自分の名前を言おうとした瞬間、固まってしまう。そういや、私のゲーム名ってなんだ?
威久自身、ゲームもそこまでやらないため自身のゲーム名が存在しないのだ。ここで変な名前を言ってしまっても反応できないし鏡花にも気づいてもらえない可能性もある。
「私は何だ~?」
てかそもそも普通にゲーム名に本名を使うのもどうだ?分かったはもらえるけど最近は物騒な世の中だしどうしようかな。
「お~い急にフリーズするな!!」
「むきゅ?むきゅ!!」
いやでもここで即興でなんかいいゲーム名が出てくるかって言われたらうんとは言えないしな~
「いい加減になんか反応しろ!!」
「むきゅ!?むきゅ~~!!!!」
「今プレイヤーネームを......ってうわ!?何してんの急に!?」
不気味なオーラを全開で刀を抜いて仁王立ちならぬ鬼王立ちをしながら威久を睨んでいる。シドも危険を察知したのか必死で威久に知らせていた。
後数秒気付くのが遅れていたら本当に斬られそうな勢いだ。
「ご、ごめん......私の名前は、威久。よろしくねガリアさん」
「うむ、よろしくだぞ。さて、威久はどこから来たんだ?」
「私は...日本ってところから来たよ。分かるか分かんないけど」
そもそもここの地名すらわからないがとりあえずは言っておく。意外とこの子は気が長いのか短いのかよくわかんないし。
「二ホン?私の知らない国だな。まあ私もこの帝国から出たことないからわかんないけどね」
「帝国?ここって帝国って言うの?」
「そうだよ。正確にはこの島が帝国って言うんだよ」
「この島...ってことはまだほかにも色んな国があるってこと!?」
「何当たり前な事っているの?他所の国からここ帝国に来る人たちも多い。観光で来る人もいるしそのまま移り住む人とか......まあいろいろだね~」
「そうなんだ!!じゃあこの帝国について詳しく教えてくれる?」
「ん~やだ!!」
「やだ!?」
さっきまであんなに教えてくれたのに急に断られることってあるの!?名前の件もそうだし、なんかゲームぽくない。それも含めていったい何がどうなってるんだろう?
「そこまで帝国に行きたいなら私と勝負してほしいな」
「勝負?急にゲーム感だすじゃん。勝負内容は?せめて私でも勝てる内容でお願いね」
「そこまで難しくないよ~だって私に一撃でも入れたら威久の勝ちだよ」
ガリアはそう言って刀を抜き、威久に向かって投げる。あくまでハンデと言わんばかりの対応だ。
ゲームとはいえ、刀なんて触ったこともなければ人に向けたこともない。ガリアの投げた刀を手に取るとウィンドウテキストが出てくる。
【ガリアの刀:大業物 天羽々斬】
【詳細:何物をも切り裂く無双の一太刀】
【装備効果:不明】
不明!?ゲームみたいなテキストは出て来たけど効果が分からないってどうなってるの?てか刀って1本しか持ってないんじゃなかったの?
「こっちの浄几は白ドラ様に預けておくから安心していいよ~私は素手で相手するから」
何も持っていないと言わんばかりの素振りを威久に見せつける。そこから見えてくるガリアの余裕。格付けはすでに終わっているかのような雰囲気だ。
「ずいぶん舐められたもんだね......」
「いつでもいいよ~」
威久の闘志に火が付いたのか、刀を構え戦闘態勢を取る。すると、どこからともなくテキストが現れる。
【スキル獲得 武士の心得】
その瞬間、刀など持ったこともないのに踏み込み方や握り方など、初歩的な物が頭の中に注ぎ込まれる。
スキルを獲得するとその情報が頭の中に詰め込まれるのか。これが1000種類もあるのか。やり込みがいがあるね!!腰をそっと落とし、一撃で決める為に息を吐く。
長期戦では絶対に勝てない。戦闘のプロに正面から挑むのは無理。返り討ちにあってそのままゲームオーバーならやることは1つしかない。刀を正面に向け、両足に力を込め一気に地面を蹴る。
「正面から来るの?面白さの欠片もないね!!」
拳を固め正面から迫りくる威久に向けて正拳突きを繰り放とうとする。来た!!その瞬間、威久は上半身を右、左と交互に揺らし、フェイントをかける。
「何それ!?でも......」
「!?」
「私が近づいたら意味ないよね!?」
ニッコリと笑いながらガリアは威久に突進しながらラリアットを繰り出す。モロに食らってしまい、そのまま数メートルほど吹き飛ばされてしまう。スタンの効果があるのか身体が痺れて動けない。
この間、ガリアは追撃してこない。あくまでもこんな早くゲームを終わらせないために威久が立ち上がるのを待っている。その顔は涼しい顔をしている。
数秒経ったか、身体の痺れがなくなり立ち上がれるまでに回復した。ゆっくりと立ち上がるがまだ少しだけクラクラする。
「反則でしょ......何この威力......!!」
首が無くなったかと思った。少なくてもチュートリアルの一環じゃないのこれ!?序盤で戦っていい相手じゃない!!
ある程度の格の違いは理解していたが、ここまで差が開いているとは予想もしていなかった。普通突っ込んでくるか!?この小細工で勝てると思った自分が馬鹿だった。
これは明らかな負けイベント。時間経過で終了といったところかな?それまで守りに徹したらいい。その作戦で行こう。ゆっくりと起き上がり、刀を構える。
「フェイントをかけて私が殴ってきたところにカウンターをするつもりだったでしょ?面白いことしてくるね!!」
「やりたいことバレてんのね......」
「次はこっちから行くよ?ちゃんと死なないように加減するから......死なないでよ?」
それだけ言い残し、一気に間合いまで詰められる。あまりの速さに刀を振るうことさえ許されず、殴られそうになった瞬間、後ろからさっきの化け猫が飛び出してくる。
ガリアは殴る手を止め、急に現れた化け猫の方を見る。軽い舌打ちをしながら化け猫に向かって走り出す。
「せっかく楽しく戦っていたところに......!!」
「いや、一方的でしたけど?」
「興覚めするじゃろがい!!!!」
拳を固く握り締め、顔面に目掛けて正拳突きを噛まし、一撃で化け猫を仕留める。殴られた箇所が一瞬で砕け散り、威久はドン引きしてしまう。
私とシドが一生懸命に逃げた相手を一撃で仕留めますか。さっきまで手加減されていたことが嫌って程見せつけられる。こう見ればどっちが化け物か分かんないね。
「こいつはバイトルトキャット。ここら辺には出てこない魔獣だけど......お腹が減ってたのかな?」
「まあ襲ってくるからお腹減ってはいるでしょうね......で、邪魔が入ったけどまだするの?」
「いや、もうやんない!!せっかく楽しい時間過ごしてたのに!!」
助かった。ありがとうなんちゃら猫さん!!
「とりあえず、このゲームは無効?それとも私の負け?」
「ん~どうしようかな~威久と戦うの楽しかったしこのまま逃がすの嫌だしな~どうしようかな~よし!!」
何かを決めたのか急に威久の腕を掴む。なんか嫌な予感がする……
「余の城に来いいぐ!!」
「……は?」
「今の威久も中々才能(光るもの)を持っているが……このままじゃ帝国の本土に行く前に死ぬ」
「そんなにやばい所なの帝国の本土は……」
鏡花の所に早く行きたいけど……もしかしてこれもチュートリアルの一環なのかな?だがこのガリアの言う通り、このままじゃ多分鏡花の役には立たない。
この鬼はこの島では中々に強い部類だろう。そこで帝国の情報や力を付けれるなら付いていくのはあながち間違いではないのかもしれない。
しばらく悩んだ末、出した結論はーーー




