第1話 歩き出した世界それは……
夏加世 威久の朝は簡単な手作りベーコン目玉焼きを食べることから始まる。
黒髪ロングの少し目つきが悪いがこれでも料理が割とできる女の子。無音のリビングに目玉焼きとベーコンを焼く音が響く。両親は海外に出張でここ数年まともにあっていない。
作り終わると威久はテレビのリモコンを手を伸ばす。電源を入れると適当にニュース番組を見る。
大きな家に1人の威久。この生活も慣れれば案外不便なことはない。寧ろ気を遣う必要がない。まあ家庭訪問の時に少しばかり気を使われるぐらいだ。
金銭面は毎月口座にお金が振り込まれるが、正直一人で暮らすには多すぎるぐらい振り込まれる。友達付き合いとしての分もあるだろうが、友達はそんなにいないから困っているが。
『近年、メタバースの影響により世界でグローバル化が……』
「メタバースね……」
最近この手の話題が多いな。VRを使ってバーチャルの世界に入り世界の人と交流ができる。インターネットの普及で近年はリモートワークという自宅で仕事をする勤務形態が流行ったとか。
駅とか近くのポスターでもリモートワークを推奨なんてキャッチコピーを付けるぐらい企業は力を入れてるらしい。まあ家から出ないで仕事できるのはある意味魅力的ではあるけど。
それの影響もあってか、メタバースという単語がそこらへんで聞こえてくる。
「流行っているとはいえ、画面越しの見えない相手に何を感じろと……」
目の前にいる相手はあくまでも仮想世界のアバター。視覚情報が全てではないが、偽りの姿であることには変わりない。正直なりたい自分の姿を全くイメージできない威久にしてみればこの手の話題は全く興味をそそられない。寧ろ顔が見えるからこそどんな人間かを判断できる。表情がないと会話は難しい。
「げ、もう8時じゃん。早くいかないと混むからな電車は」
急いで朝食をかきこみ、お皿を炊事場に置き学校に行く支度をする。こういう時に学校もリモートワークがあればなと思う。まあタラればではあるが。
玄関に置いてある鞄を手に持ち、ドアを開ける。家を出ようとした瞬間、威久は足を止める。いけない忘れてた。
「……行ってきます!!」
この言葉だけは欠かさずいうことにしてる。遅刻しようがこの家に家族の思い出があることを忘れないためにも。
駅のホームに駆け込み、満員電車をギリギリで回避し、のんびりと揺られながら目的地の駅まで待つ。変わらない景色。毎日見ている為新鮮味が全くない。
いつもの通学路を通り、時間通りに学校に着く。そこにはなんの出会いもなければ運命もない。普通の...ありふれた日常があるだけ。
威久は教室に入ると、クラスは一瞬静かになるがまたすぐににぎやかになる。なんで毎回静かになるんだよ。
特段、不良な訳でもないし頭もそこまで良い方ではない。学年でも中の中だ。とても社交的……というわけではないが、騒がしいのは好きではないし。
席に着くなり、急に威久の目の前に1人の少女が現れる。金髪の派手なネイル。耳にはイヤリングの校則をバリバリ違反しまくっているギャル。名前は鏡花。威久の数少ない
友達であり、幼馴染でもある。
毎回登校した瞬間に現れるとロクなことがない。また何かのお願いだろうか。
「……なに?」
「いぐ~!!一生のお願いがあるの!!」
「この前も一生のお願いって言ってご飯おごってあげなかった?今度は何?」
「それを言われると耳が痛いのですが……今回のは結構やばめ!!」
「今回のはやばめって……どうせ課題忘れたから移させてか?」
「それもあるんだけど……」
あるのかよ。
「今回のはつまらなそうな人生を送っているいぐに超おすすめのものだよ!!」
しれっと罵倒されたんだが!?
「で、何を持って来たんだよ。本当にくだらないものならここでぶっ壊すからな」
「こわっ!!まあまあ、今日持ってきたのはこれだよ。今はやりのRGOってゲーム!!」
「RGO?」
聞かないゲームだな。威久はネットをろくに使わないので流行などにすごく鈍感なのである。
「なんかめたばーす?って言うの?そんなのが使われてるらしくてめちゃくちゃ面白いからやってみてよ!!」
メタバース...なんか朝のニュースでも言っていたな。ゲームにも使われているのか。RGO...どこかで聞いた覚えのある単語だな。どこで聞いたかな。
軽くスマホで調べてみると直ぐに情報が出てくる。Real Game Online通称RGO。リアルな世界観を重視しており、他のフルダイブにはない第六感システムを搭載しているらしく実際にプレイしないとどんなものなのかは不明らしい。結構種類があるらしく、1000種類は軽く超えているらしい。ゲームで言うスキルという概念なのか?
深く考え事をしていると急に鏡花にほっぺをつつかれる。
「...なに?」
「いや?また自分の世界に入ってる気がして」
「あながち間違いではないけどまあそのRGOってゲーム、少し興味があるからプレイしてみたいかも」
そう言うと鏡花は目を輝かせて威久の手を掴みぶんぶん振りまわす。威久が興味を出したのに興奮したのか、単純に自分の進めたゲームをプレイしてくれるのに興奮したのか鏡花のテンションは
上がっていた。
「だよね!!だよね!!実は間違って2個買ったからおすそ分けにあげちゃう!!これで一緒にプレイできるよね!!いつやる!?今日から!?それとも今すぐ!?」
「今すぐって...それだと学校をサボることに...」
「え?別にサボっても問題なくない?」
「いや、お前は良くても私が...」
「そんなのわからないなら私が教えてあげるし!!最近の範囲なら余裕だし」
こんなのだから忘れていたがこいつ意外と頭が良かったんだ。ただ課題をやらないタイプの天才だった。
鏡花は学年でもトップに入るぐらい頭がよく、一度見てしまえばよほどのことがない限り忘れない。記憶力が良いと言えばいいのだろう。そして持ち前のコミ力もあり敵を全く作らない。
正直うらやましいと思っていたが肝心なところが抜けている為裏では天才型ポンコツなんて呼ばれている。
だが、サボるのは正直反対だ。変にサボると先生に目を付けられる可能性がある。ただでさえこの鏡花と絡んでるだけでもリーチがかかっているのに。
「私は優等生キャラで行きたいからパス。やるなら放課後だね」
「無理!!待てない!!今すぐが良いの!!」
「高校生にもなって駄々をこねるなよ......」
「やだやだやだやだやだ!!!!今すぐがいいの!!絶対絶対!!」
出た。鏡花の面倒な駄々こねモード。小さい頃はよく言うことを聞くお利巧さんだったと聞いているが、私と絡みだしてからというもの、自分の欲に正直になったと言えばいいのかたまにこうやって駄々をこねることがあるのだ。
定期的にかまっていると満足してこのモードになることは少ないが、最近は家族で忙しいことが多く、連絡をまともに取っていなかったのだ。
「甘やかしすぎたか...」
「ようやく遊んでくれるって言ったのに!!!!」
「まあそれもそうだけど...」
最近かまってやることも少なくなっていたのも事実。このモードに入ると丸1日はこの状態になる。治る方法はもちろん鏡花が満足するまでかまってやることだけ。
ため息をつきながら威久は教科書や筆記用具を鞄の中に直す。まあこの範囲なら適当に受けてもわかるから大丈夫だしな。
「?」
「ほら、早く帰る用意しな。今からやるんでしょ?」
「...うん!!すぐ用意するから待ってて!!」
急いで鏡花は自身の席に帰り、荷物をまとめ始める。はたから見たら甘いと思われてしまうが、この状態を長年ほったらかしにしていた責任もある。ある程度の責任を持たなければ。
いつか直さなければいけないが、それは今じゃない。いまはまだ......
「お待たせ!!さ、早く帰ろう!!」
「そうね。帰ろう」
2人は堂々と早めの早退をする。
「ただいま~!!」
「お邪魔しま~す...」
RGOを行うため、威久は鏡花の家にお邪魔することになった。と言っても家は隣同士なためあまり親近感もないが。
「適当に座ってて~」
「そうする」
言われたとおり、荷物を適当な場所に置き座る。鏡花の部屋...久々に入ったな。
昔と変わらない人形の数、あこれ。
「なつかしい。私が小さい頃にあげた熊の人形」
夏祭りにくじ引きの景品でたまたま当たったが、自分の趣味ではなかったからこういう可愛いものが好きな鏡花にプレゼントしたのだ。
あの時の鏡花の顔は今でも忘れない。目をキラキラさせてずっと抱いていたっけ?
「まだ持っていたなんて...」
懐かしい思い出に浸っていると、部屋の扉が開きそこから鏡花が入ってくる。手にはお菓子や飲み物など持っていた。
「なんか多いな...」
「ん?こんなものでしょ。それよりも」
「それよりも?」
「改めて、威久~!!」
「うわ!?」
鏡花は威久の名前を叫ぶと同時に抱き着き、顔を埋める。
あまりの行動に威久は驚き、引きはがそうとする。が、力が強く全然離れる気配がない。なんだこいつのこの力の強さ。
「久々の威久の感触......たまんない!!」
「キモイこと言うな...!!早く離れろ!!」
「そんなこと言わずに、良いではないか~良いではないか~」
「良くないわ!!」
「でもまあ、この感触とか匂いはちゃんと覚えておいてね」
「は?何言ってんの?」
「忘れないでね。私の事...」
急に意味深的なことを言い出す。今までそんなことを言わなかった鏡花であったが今日は少し変だ。
その言葉を聞き、威久も抱き返す。
「忘れるわけないでしょ......」
「うん......」
そう、忘れるわけない。絶対に。満足したのか鏡花は数秒後には威久から離れる。
「もう満足したの?」
「いつまでもこうしてるわけにはいかないからね。早速持ってくるね!!少しだけ待ってて」
「持ってくる?机に置いてあるのじゃダメなの?」
威久は鏡花の勉強机の上に置いてある機械を指さす。そこに置かれていたのはゲームに使うであろうゲーム機が置かれていた。
頭を覆い隠すようなデザインで、最初はヘルメットかと思ったがさっきよく見たら機械じみたものであったため、あれが今回のRGOに使うゲーム機の本体であろう。
鏡花は数秒の沈黙の後に笑いながら答える。
「あれは私が使うやつで、データとかも入ってるから。今から持ってくるのは初期設定だけしてるやつ。威久の好きにしていい奴だから」
「そうなの。じゃあ待ってるよ」
「うん。すぐ持ってくるよ」
扉を閉めるその瞬間、小声で何かが聞こえてくる。
「これで...いいんだよね...」
「...?」
何か様子がおかしいな。取りに行くあの瞬間、いつもの笑顔でも、少しだけ曇った笑顔だ。
「なんかあったのかな?まああんまし家族とうまくいってないって言ってるしそのせいかな」
人の家の家族間のトラブルにはあまり首を突っ込まない方がいいし、本人同士で解決させた方がいいし。
「まあ、あんまり人のこと言えないけどね...」
「お待たせ~持ってきたよ!!」
「それが、今回やるゲームに必要なゲーム機?」
「そうだよ?」
「なんというか......その...」
鏡花がもってきたのは明らかに机に置かれている物とは違う旧式みたいな形をしている。全体を覆い隠すようにされており、かろうじて顔の部分は開いてあるが、それ以外は機械に覆われており、デザインもお世辞にも良いとは言えない。
「見た目は置いといて、とりあえずやってみない?」
プレイするには問題のだろう。ゲームの説明にもフルダイブ機能と書かれていたし、見えないからデザインとかも関係ないのだろう。
「そうね。これを、頭につければいいのか?これであってる?」
「うん!!あってるよ!!」
ゲーム機を頭につけ、鏡花の言われた通りにベットに横になる。この姿勢でないとゲームを終えた時に体の負担が軽減されるらしい。これが最近のゲームか。
「それじゃあ起動するね?ゲームの初期設定もしてあるから心配しないでね。私も数分後ぐらいにはそっちにログインするから」
「わかったけど、どこで待っておけばいいの?」
「島の中央部...【アルガ都】でまってるよ。多分、すぐにつけると思う」
「アルガ都...分かった。待ってるから早く来いよ?」
「うん!!早くいくから待っててね。じゃあっ起動するね」
『システムの起動を確認。ゲームにログインします。セーブデータを確認中です。電源を切らずにお待ちください』
「いってらっしゃい」
「...?行ってきます?」
『確認完了。そのままゲームにアクセスします。それでは良き旅をお楽しみください』
その音声と同時に威久は深い眠りについた。意識がゲーム内に飛ばされた証だ。ちゃんと起動してあることを確認するとそのまま威久の横に横たわる。
そしてそのまま威久をまた抱きしめ、涙をこぼす。
「これで...本当に...良かったんだよね..?威久......」




