2 サザンカ
家に入りリビングのソファに座らせた。
「飲み物は何にする?」
「水と油を」
聞き間違いだろうか?アブラと聞こえたが。
とりあえず水を出したら飲み干した。
「で、油とは?」
「これ」
上下の服を脱ぎ捨てた女の手足は驚くべき事に、金属と歯車やピストン?ワイヤーで構成されていた。
「この魔導具・魔導カラクリは動力は魔力だけど、潤滑の油はどうしても必要。」
「魔導具って・・・まぁ・・・で、どのくらいの量必要なんだ?」
両手、両足から黒色のボールペンほどの大きさの筒を何本か引き抜き俺に渡した。
「これを油に浸してくれれば良い」
「普段は何の油を使っているんだ?」
「種油」
(種子油か?)
「それで不具合は無いのか?」
「カスが付く、あと流れる・・・」
(それはやはり種子油だな)
ナルゲンボトルを持って彼女とガレージに行く。
ワコーズのエンジンオイルをナルゲンボトルに入れ、二硫化モリブデンを少し足しシェイクする。
そこに渡された筒を入れると筒はオイルを吸い上げて行く。
その間パーツクリーナーを彼女の腕と足に吹きつけ、ブラシをかけ古い油カスを落としていく。
垢すりのようにボロボロと落ちていく。
かなり積層し動きを阻害しているようだった。
掃除を終えオイルの筒をセットする。
「どうだ?」
「前より動く」
両腕を取り関節部を見る。
肩肘などの関節部は太いシャフトが入っている。
その動きを滑らかにするためなのか、Oリングが入っているのだが減ってガタついている。
両手両足共に全ての軸受けが減ってカシャカシャ音がする。
「ベアリングを入れると良さそうだな・・・」
「それは?」
簡単にベアリングの説明をしてやった。
「加工すれば付けられる?」
「出来ると思うぞ」
「お願い」
女は両足を外した。
「ちょっと待て!、その前にお前は誰だ?まずその説明をしてくれ」
「俺は藤江仁だ」
「アマ王国の王女サザンカ。別の世界から来た」
「未来とかか?」
「並行して存在する全く違う異世界」
サザンカの腹の虫が鳴いているので、夕飯の残りのシチューとパンを出してやる。すぐに食い終えたのでハムステーキに目玉焼きを3つ落として焼いた。
軽く焦げ目が付いたので塩胡椒を振り、皿に移して目の前に置いてやると無表情で食べ始めた。
俺はコーヒーを飲みながらそれを眺めた。
横に置いてやったフランスパンも1本全て食べ切りそうだ。
「うまいか?」
「わからない、味覚とかあまり無いから」
「向こうの人は味覚無いのか?」
「あるよ。私は取られたから」
「取られた?誰に?」
「皇帝に」
サザンカが話出した・・・。
◾️◾️◾️
事の始まりはレイメ魔導帝国カン皇帝が病気で余命1年と宣告された事だ。
彼は夢である天下統一を目指し、周りの国に突然戦争を仕掛け出した。
天下取りを早めるために強力な魔力を持つ自分の4人の実子の生命を犠牲にし、異世界から4人の血統霊化が使える者を召喚した。
血統霊化とはその者の血筋で、最強の戦士の力の召喚が出来る。
地球と言う異世界に住む地球人だけのスキルだ。
だが、そもそも異世人召喚は未完の魔法なので、召喚された者は召喚の痛みから頭がおかしくなっているようで、人を殺しては肉を食らっていると言う話しだ。
ただアマ王国は王女サザンカが王族に稀に現れる「ワタリ」と言う血統魔法を使えた。
これは地球に渡り血統霊化を持つ者を、1人だけ連れて来れると言う魔法だ。
この力が全国制覇に邪魔になると見た帝国は、一番にアマ国に攻め込んだ。
王族は皆殺しになり、サザンカは捕えられ食堂のテーブルの上で手足を切られ、目をえぐられ生きたまま血統霊化の4人の食事となっていた。
感情や感覚を司り魔力の力を発生させる脳の一部は、皇帝が延命の為取り出し食べはじめた。
その時どこからか笛の音が聞こえてきた。
途端に光の雨が降り出し、アマ王国の城内に張り巡らされている古代の魔法陣が発動した。
王族の血を引く者以外を2時間ほど動けなくする、落城の笛と呼ばれる大魔法で、代々アマ国王族の一部に伝わっている秘匿魔法である。
要は王を逃す為の魔法なのだ。
暖炉横の抜け穴から2人の御伽衆と呼ばれる高位宮廷魔導師が出て来た。
この2人は王族の血を引いており代々、落城の笛を継承する一族で、発動した場合は王を逃す役目も担っている。
2人はテーブルの上のサザンカを、生命維持の魔法布で包み抜け穴より脱出した。