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第5話 秘密兵器

「びっくりしタヨ!」


 アールが驚いた顔で俺を見つめる。


「なんてったって、荷物を持って現れたと思ったら、ゲロを吐くんだモノ。」


 俺は、瞬間移動の反動で息絶え絶えに膝をつく。


「はぁ…はぁ…スキルの反動で……。」


「HAHAHA!そウカ!まぁ、スキル手に入れたのも最近だったから、そうなっていても仕方がなイカ!それは、すまなかっタネ!」


 アールは、白い歯を光らせて笑う。


……まぁ、アールが喜んでくれたならいいか。


 俺は、メイドから受け取ったバッグをアールに手渡した。


「これって、何が入っているんですか?」


「ンー?」


 アールはバッグを開け、中に手を突っ込む。そして、何か大きなボタンのついた青い球を取り出した。


「何ですか?それ?」


「これはね、魔法を閉じ込めて放出する装置なんダヨ!」


 アールは球の表面を撫でながら、中央のボタンを指さす。


「このボタンを連続で3回押して、その後に1回長押しすると、数秒後に中に入っている魔法が炸裂(さくれつ)する。」


「す、凄いですね…。そんな、物があるなんて…。」


「アッシャーが実験的に使ってくれって言ってたもんデネ!」


「えッ!あの大魔法使いのアッシャーですか!」


「そうだダヨ!」


 大魔法使い、バリー・S・アッシャー。『天才』その言葉は、彼の為にあるようなものだ。


 齢5歳で冒険者学校に入学。様々な歴代最高点を叩き出し1年で卒業。


 彼は冒険者となった後も、魔法の研究や魔法道具や魔法薬の開発、高難易度クエストの攻略に明け暮れ、その功績が認められて最年少でSランク冒険者となった。


 彼は、座学の才だけではなく、魔法の才能にも恵まれ、3000の魔法を使えるという…。


 そんな彼が作った魔法道具がこの球なのか……。

 

「ダレンクン!君は、これを持ちたマエ!」


 と、アールは、俺に赤い球を投げて渡した。

 

「使っていいんですか?」


「もちろんだトモ!」


 アールは、青い色の球を持った。


「それって、どういう効果があるんですか?」


「これハネ!」


 アールは、ボールを押して結界のある火山口に投げ入れた。


「結界解除の魔法が入っているンダ!」


──瞬間、アールは、その球は、破裂し火山口にあるマグマに投げ入れた。


ズガァァン!


 轟音(ごうおん)とともに球が破裂し、火山口の結界に穴が空く。その向こうに、無数の家や畑が見えた。


 下には、集落の様な物が広がっていたのだ。


 あれが魔物達の住処(すみか)なのか…。


「ダレンクン!君が持っている球をあの穴の中に入れるンダ!私は、もう少し結界を壊スヨ!」


「わ、分かりました!」


 何十個もの破裂音が響く。結界にどんどん穴が空いていく。


 俺も続かなくては…。


(たしか…。ボタンを連続で3回押して、その後に1回長押しすればいいんだな。)


 俺は球を構え、ボタンを3回押し、その後長押しする。指先が沈む感覚が伝わる。


 そして、アールが開けた穴の中へと球を投げ込んだ。


 見事に球は、穴の中に落ちて魔物の集落へ向けて落下してゆく。


 俺は、とある事を疑問に持つ。


「あの赤い球って、アールさんが持ってる奴とは、別の効果なんですか?」


「下を見てご覧!」


 俺は視線を落とした。そこには、燃え(さか)る集落があった。


 あちらこちらで火が動いている。


 それが火達磨(ひだるま)になった魔物達だったのは、想像に(かた)くなかった。


「それは、火炎魔法が入った球サ!しかも、破裂したときに猛毒のガスを()()らすンダ!この場所だと奴らを一網打尽(いちもうだじん)にできルネ!」


 それを聞いて俺は、手が止まった。


「ダレンクン?どうしたんダイ?」


 俺は、言葉が詰まりながらもアールに言う。


「こ、これって虐殺じゃ…ないんですか?」


 アールは一瞬沈黙し、そして大きく笑い出した。


「HAHAHA! 面白いことを言ウネ!? 魔物は人間じゃあ無いんダヨ? 私たちに害を成す害虫サ! だから、これは駆除みたいなものダヨ!」


「そ、そうですか……。そうですよね…。」


 そうだ。この世には、絶対悪というものが存在する。

 万人が悪だと認める悪。

 この世界では、それは魔物なんだ。


 人類の敵。人々に仇をなすもの。それが魔物だ。


 俺は、冒険者だ。魔物を倒し、人々に安寧(あんねい)を届けるのが仕事だ。


──そう自分に言い聞かせた、その時だった。


「アァ!」


 アールが驚いた声を上げる。


「どうしたんですか?」


「見たマエ!」


 振り向くと、いつの間にか、魔物たちが火山の外に走り逃げていたのが分かった。どうやら、どこかにに抜け道が何かがあるらしい。


「まぁ、そウカ!火山から出る道が有るヨナ!よし、ダレンクン!私は、ヤツらを追いかける。君は、下に降りて生き残りが居ないか確認してきてくれなイカ!」


 アールは、スキルを使って飛ぶ。


「アァ!あとくれぐれも奴らの言葉を聞き入れないでクレ!奴らは、我々と同じ言葉を使う種だから、惑わさそうとしてクル!気を付けてクレ!」


 アールがバッグを指さす。


「下は、ガスでいっぱいだから、そのバッグの中に毒を無効化する魔法道具が入ってイル。着けて降りるんダゾ!」


 そう言って、アールは、逃げた魔物たちを追いかけていった。


 アールの言葉が、頭の中で何度も反響(はんきょう)する。


──「くれぐれも奴らの言葉を聞き入れないでクレ!」


 魔物が、人間と同じ言葉を話す?


 そんなこと、今まで聞いたことがなかった。


 魔物は通常、人間とは異なる言語を使い、意思疎通(いしそつう)は不可能だと教えられてきた。それが冒険者学校の教科書に書かれていた常識だった。


……考えても仕方がない。今は、言われた通り生き残りを確認するだけだ。


 俺はアールが置いていったバッグを開ける。


 手を突っ込むと、布製の首輪のようなものが出てきた。他には、あの球がいくつか入っているだけ。


「これか……?」


 俺は、布製の首輪の指で金具を外し、首に巻く。フックをつまみ、カチリと音を立てて留めた瞬間、青白い膜が顔の周囲に広がった。


 これで毒は防げるはずだ。


 俺は火山口の(ふち)に立ち、下を見下ろした。火の勢いはほぼ収まり、集落の建物は崩れ落ちていた。しかし、毒ガスが広まっているのか辺りには黄色い霧のようなものが漂っている。


……怖いが、行くしかない。


 俺は、降りる場所を決め、イメージすると視界が一瞬白く染まり、瞬間移動した。


──俺はその場所に降りたことを後悔することになる。



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