第4話 瞬間移動
空を飛び続け、ようやく目的地へと辿り着いた。
「アールさん、ここって…。」
目の前に広がるのは、巨大な火山口だった。
「ここは、黒雷山ダヨ!!!」
黒雷山は、活火山であり、数十年前に大規模な噴火を起こしたと言われている。その名の通り、山頂付近では雷が頻繁に発生し、ほとんどの者が近づこうとしない危険な場所だった。
「でも、魔物討伐のはずなのに……なぜ火山に?」
訝しげに尋ねると、アールはニヤリと笑いながら俺を見た。
「ダレンクン!何か気が付く事はあるカナ?」
「え?」
気が付くこと……? 俺は周囲を見回したが、特に変わった様子はない。火山口を覗いてみると、そこには赤く発光するマグマがドロドロと流れていた。
──だが、違和感を覚えた。
「火山口の前なのに全然暑くないですね?」
「そうダネ!」
アールは満足そうに頷いた。そうだ、本来ならこの距離でマグマがあるなら、灼熱の熱気に襲われるはず。それなのに、まったく気温の変化を感じない。
「何でなんですか?」
「それハネ…… 魔物たちの結界 のせいダヨ!」
「ソウ! ここには結界が張られていて、 マグマは幻なンダ!」
魔物は、魔法を使う。しかし、魔物たちがそこまで高度な魔法を使うとは思わなかった。単なる結界だけでなく、マグマが存在するように錯覚させる……そんな強力な魔法を操る魔物がいるなんて。
「じゃあ、この下は……?」
「奴らの住処サ!」
アールの目が鋭く光る。
「だから、今から叩き潰すノサ!!!」
なるほど…ここの下に魔物達の住処があるのか…。奴らは、町などを占領してそこを住処にするのだが、まさかこの様な所も住処にするとは…。
しかし、そんな緊迫した雰囲気の中で、突如アールが頭を抱えた。
「ア゛ア゛ア゛!しまったァァ!!忘れたものをしてしまッタ!!!」
「えぇ!?」
いきなりの絶叫に驚く俺。アールは数秒間考え込んだ後、俺をじっと見つめた。
「私が今から取りに行くのは、時間が掛カル。ダレンクン!是非とも、君のレアスキルで城まで戻って、忘れ物を取りに行ってきてくれないカナ!」
と言ってきた。
「わ、分かりました…。」
渋々、了承した。了承するしかなかった。
僕のレアスキルとは、【瞬間移動】だ。
そう、一瞬で遠く離れた場所へ移動するやつ。このスキルによってアールは、俺をSランク冒険者に推薦したのだ。
でも、瞬間移動には条件がある。
①移動先の強いイメージが必要。
②距離や方向を大まかに把握している必要がある。
これさえ満たせば移動できるが、問題はその デメリット だった。
めちゃくちゃ疲れるのだ。数十メートルを移動するだけでも、結構疲れる。
だから、渋々了承したのは、このためだ。しかも、距離が遠くなればなるほど負担は増す。
ここから王城まで数十キロあるのだが、大丈夫なのか…。しかし、アールのお願いを無下には、できない。頑張らなくては…。
「………忘れ物って何処にあるんですか?」
「城の中サァ!さっきいたメイドに話を聞けばきっと渡してくれルヨ!頼んダヨ!」
アールは、歯を光らせ親指を立てる。
軽いなぁ…。
たしか、王城から黒雷山って30キロくらいあったような…。で、俺から見て王城は、北東だから………この方向か…。
俺は、王城のある方角を向く。
俺は、一度深呼吸をして集中する。
── イメージしろ。
王室の応接間、豪華な装飾の施された椅子や机……幾つもあったドア……。
体に力が溜まり、全身がふわりと浮くような感覚が襲う。
──今だ!
視界が一瞬で白く染まり……気づけば、俺は王城にいた。
「……着いた、のか?」
振り返ると、さっきアールが開けた窓から風が吹き抜ける。どうやら成功したらしい。
──が、その直後。
強烈な疲労感に襲われた。
「っ……!」
吐き気がこみ上げ、俺は窓へと走る。
俺は、外に向けて吐いた。自分の胃の中にあるものが外に出ていく。吐瀉物が重力に乗って下に落ちていく。
胃の中のものをすべて吐き出し、そのまま床に倒れ込む。心臓が痛い、呼吸ができない。視界が段々と暗くなっていく。ヤバい、このままでは意識が──。
──頼んダヨ!
アールの言葉が脳裏に蘇る。
……落ち着け、呼吸を整えろ。ゆっくり……ゆっくりと空気を吸い込む。
少し時間が経ち、何とか動けるようになった。
少し時間が経って落ち着いてきた。やはり、長距離を移動するのは、あまり良くない。
しかし、まだこのスキルを手にして数週間だ。ゆっくり、飛べる距離を遠くすればいい。
俺は、震える体にムチを打って立ち上がった。
さっきいたメイドを探さなくては、
視界を巡らせると、机にベルがあるのに気がついた。
さっきアールはこれでメイドを呼んでいたな…。
俺は、机の上にあるベルを鳴らす。
──チリンッ チリンッ
高い音が広い部屋の中でこだまする。
すると、先程と同じ様にどこからともなく煙が発生し、一人のメイドが静かに立っていた。あの綺麗な黒髪のメイドだ。
「どうかなさいましたか?フォード様。」
メイドは、首を傾げて聞いてきた。
「いや、アールさんが忘れ物をしたって言ったので取りに帰ってきたんです。メイドに聞いたら分かるって。」
「承知いたしました。」
メイドは、アールの忘れ物が何なのか分かったのか、俺に一礼した後、ドアを使って去っていった。
…………………………………疲れた。
てか、このベルは、何なのだろう。音を鳴らすだけでメイドが瞬時に現れるって、もしかして魔法道具なのか?これあるんだったら、俺いらなくね?
そんな風に考えていたら。メイドが帰ってきた。
手には リュックのようなもの を持っている。
「こちらでございますね?」
「…たぶん?」
何が入っているのか分からないが、アールのものに違いないだろう。
「この中って何が入っているんですか?」
「それでは。」
メイドは一礼して、去っていった。
「……無視かい。」
まぁ、とりあえず戻るか。
その後、俺は黒雷山へと帰還した………ゲロを吐いて。