第2話 S級クエスト
アールの背中を追い、王城の奥へと足を踏み入れる。豪奢な廊下は次第に静寂に包まれ、先ほどまであった侍女たちの気配も遠ざかっていった。
歩を進めるごとに、壁の装飾は簡素になり、燭台の灯りもまばらになっていく。どこかひんやりとした空気が肌を撫で、不思議な緊張感が胸を締めつける。
アールは、何もない壁の前で止まった。
「どうしたんですか?」
アールは、俺の声には、返答せず壁に手を触れた。
すると壁からスーッと扉が現れた。
「ダレン君!ついて行きマエ!」
そう言うと、アールは重厚な扉に手をかけ、押し開いた。軋む音とともに、その向こうに広がる空間が姿を現す。
促されるままに部屋へ足を踏み入れると、そこはまるで王室の応接間のようだった。豪華な装飾が施されたイスや机が整然と並んでいる。
窓からは柔らかな陽光が差し込み、金色の光が床を照らしていた。まるで宮殿の奥深くとは思えないほど、明るく穏やかな空気が漂っている。この場所は、一体——?
「あの、アールさん。ここは、いったい…?」
「ここは、クエストの受付所サ!ここでS級クエストの受付をしているンダ!王城から呼び出されて、ここでクエストの内容聞いて、仕事に向かうって感じカナ!」
なるほど、ここはクエストの受付所なのか…。
クエストとは、商人や貴族などの依頼のことだ。
商人や貴族は、己の願いを叶えるために王城の扉を叩き、正式に依頼を申し込むのだ。
「この品を安全に届けてほしい」「森の魔物を討伐してくれ」「失踪した人を探してほしい」――依頼の内容は多岐にわたり、危険度もさまざまだ。
国はそれらの願いを受け取り、慎重に審査を行った上で正式なクエストとして登録する。報酬やリスクを見極め、冒険者たちが挑戦できるように整えるのが役目だ。
クエストには冒険者と同様にG〜Sまでの8段階のランクが存在する。通常、冒険者は自身のランクと同じランクのクエストしか受けることができない。Gランクの初心者には簡単な配送や採取の依頼が、Sランクの猛者には国家の存亡を左右するような危険な任務が課せられるらしい。
そして、数多のクエストをこなし、名を馳せた者だけが、更に上のランクの冒険者になれるのだ。
「じゃあ、クエストを受注しよウカ!」
そういい、アールは、机の上にある鈴のようなものを鳴らした。すると、どこからともなく煙が発生し、気がつくと俺の目の前に一人のメイドが静かに立っていた。
そのメイドの漆黒の髪は、滑らかに揺れ、まるで上質な絹のように美しい艶を放っている。華奢な体つきでありながら、すらりとした長身が彼女に優雅な雰囲気を与えていた。
端正な顔立ちはどこか儚げでありながらも、凛とした気品を漂わせている。そんな女性だ。
「お待ちしておりました。アール様。フォード様。」
メイドは、そう言うと、深々と頭を下げ挨拶をした。
「こちらが、ただいま発注されているS級クエストでございます。」
そう言うと、メイドは、アールにS級クエストが載っている10ページ程の紙を差し出した。
アールは、それを手にし、目を通す。そして、アールは、紙に指を差しながら
「ヨシ!このミッションにしよウカ!」
と言った。そのミッションには、こう書いてあった。
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【S級クエスト任務書】
〖任務内容〗
上級魔物によって制圧された
地区の奪還を目的とし
当該地域に生息する魔物を完全に駆逐すること
〖目的〗
制圧地域の奪還
すべての敵性魔物の殲滅
地域の安全確保
〖報酬〗
成功時に相応の報酬を支給
〖備考〗
本任務は高い戦闘能力および
戦略的判断力を要する
遂行には万全の準備を整え
慎重に臨む事を推奨する