ステータスオープン魔法
コトの新魔法陣のおかげである程度魔力不足が解消されたとは言っても、将来的にはまだまだ不足する可能性があった。
「やっぱり、ステータスオープン普及させないと難しいよね」
コトが未来の魔力消費量曲線をシミュレートしながら呟いた。
「将来的に、絶対電気は足りなくなるよね。これだけ工業化進めてったら」
♦︎
「と言うわけで、ステータスオープン魔法の一般公開に踏み切ろうかと思うんですが……」
「まぁ、ヤバげな魔法たちの存在を、どうするかだね」
カナが苦笑しながら言う。
「普通にロックしとけば良いんじゃないです? と言うか、良いこと思いついたんですが!」
しおりんが、ろくでもないこと思いついた時の顔をしている。
時々、やらかすのだ。この娘は。
天使どころか女神クラスの微笑みで、やらかす。
カナがろくでもないこと考えてる時には、いたずらっ子の目になってる。
コトがろくでもないこと考えてる時には、邪神の目になってる(カナ談)
しかし、しおりんは女神の微笑みのままやらかすのだ。だから皆に警戒されている。国王なんて、何度泣かされたかわからないらしい。
「この世界に足りないものって何だと思います?」
「お兄ちゃん成分」
自衛官時代は年に一度会えるか会えないかぐらいだっただろうがっ!
「うーん、コトとのシンクロ率」
お前らいつもシンクロ率400%だわっ!
「ぶっぶー。残念二人とも不正解です。正解は『冒険者ギルド』です」
「いや、ハンターギルド有るっしょ?」
「違います。冒険者ギルドです。ほら、謎の技術のギルドカードでランク管理されて、まずはFランクで薬草取りから始めるあれですよ。あれ」
「言ってることはわかるけど、それは必要なの?」
「はい、必要なのです。で、ここに取りぃ出しましたるこのステータスオープン! もう、本当にステータス管理しちゃいましょう。適当に筋力とか魔力とかからステータス生成すれば、大丈夫ですって」
もう、何言ってんのこの娘って感じです。と言うかしおりん、そんなにラノベとか読んでたの?
……ああ、学校でハレ晴レユカイ踊ってた年代なのね。
「はい、言い出しっぺの法則ね。とりあえずしおりんまとめてみて。それ見てから検討しよう」
♦︎
しおりんがスクロール魔法さんと懇談を始めて、すでに四日が経っていた。食事や登校は一緒にしているものの、自由時間はほぼ一人でエアキーボードを叩いていた。
目の下にはクマが浮き、綺麗な黒髪がパサパサとなり、ぷるぷるお肌に血管が浮いて見える気がしてくる……デスマーチ中のシステムエンジニアかよっ!みたいな見た目のしおりん、見たくなかった。
しおりんの一番のファン、国王陛下が王妃殿下に相談し、王妃殿下からストップがかけられて、強制的にお風呂に放り込まれ、ベッドに押し込まれても、譫言のように冒険者が、ギルドが、とうめいているしおりん。
コトとカナは深く反省し、その晩はしおりんを二人で抱きしめながら寝た。
明けて翌朝、少しスッキリした顔のしおりんがコトとカナに、今日の夕方プレゼンをすると宣言した。
「と言うわけで! これが新型ステータスオープンです!」
ばばーん!
しおりんがドヤ顔してる。かわいい。
すーっと仮想スクリーンが横からフレームインしてくる。なんか無駄に凝りッ凝りなんですが何これ。
「まず、ステータスオープン! って言ったら異世界転移ものの定番ですよね! でまぁ『おお、こんなすごい魔法がっ!』とか『なんて高いアジリティだっ!』とかやるのが醍醐味でー……」
なんかもう、いろいろ偏ってます。だいたい、あれはレアケースだから凄いんであって、みんなが凄かったら別のお話になっちゃいます。
「と言うわけで、このように戦闘力の数値化をしてみました」
「おお、それはそれで凄いぞ! しおりんやるなっ」
「まだ色々とシミュレータ上でしか動かしてませんので、このあと騎士団あたりで実験したいんですが許可取れるかしら」
「あー、おじいさま♡攻撃で何とかしてきて……」
その日の晩餐にて、国王陛下にべたっべたの『あなた♡、お願い♡』攻撃を仕掛け、無事に近衛師団への協力要請の許可をもらえたしおりんだった。
♦︎
騎士団は遠征時を除き、基本的にシフト勤務である。昼番三回夜番一回、訓練二日で一日休み。順不同だが、だいたいこのぐらいの仕事量だ。
また、昼番であっても、仕事が薄い時は訓練していたりするので、だいたいいつも誰かしらが練兵場にいる。
と言っても、トップを無視して実験するわけにもいかない。まずは王女近衛のディートリッド団長に話を通しに行く。
「かしこまりました。それを教えていただけると、我々にもアリスタ様やコリン様のような戦闘ができるのですね!」
「できるかーーーー! あれはあなた方が変な方向性へと二人を目覚めさせてしまったからです!」
「うん、わたしもレガシー魔法縛りであの二人に勝てる自信、ないわ……」
カナが寂しそうだ。特に、刀を持てば絶対の自信を持っていただけに、ショックが大きいのであろう。
「と、とにかく了承いただきました! このあと王女近衛には順番に訓練してもらいます!」
続いて男性なのだが……
「第一騎士団行かないと、ダメかな?」
「ダメなんじゃない?」
「第二騎士団の警備部の人とか、第六騎士団の監察部の人とかも王都に常駐してるし……」
「第一を無視してそれは角が立つでしょ」
「はぁ……第一の団長、苦手なのに」
「しおりんはまだマシでしょ。コトなんて第一の話題出た瞬間にいなくなったし」
第一騎士団長、ダメな方のコト信者の筆頭で有る。
「こ、これはこれはしおりん様、カナ様、よくいらっしゃいました。あの、」
「コトは来てないから」
カナが食い気味で被せる。
「今日はお願いがあって参りました。第一騎士団の皆さまに、新しく魔法を覚えていただきたく存じます」
「姫さま方の頼みでしたら何でもお引き受け致しますが……魔法……ですか? あの、第一騎士団はほとんどが男性なのですが……」
実は第一にも女性団員は存在する。捜査の都合上女性しか入れない場所や、女性の身体検査などが発生することがあるためだ。各シフトに必ず一人ずつは配置されている。
「女性は今回は除きます。男性団員の方のみが対象になります」
「しかし、団で魔法が使える隊員など……あ、一人生活魔法使えるのがいたか」
去年配属された、小柄な団員を思い出しながら答える。
「今回は全く魔法が使えない団員を対象とします。団長も対象になりますのでご協力お願いします」
翌日、まず王女近衛の皆から試した。もう、魔法の特性はだいたい把握しているので、女性で覚えられないケースは特殊な場合だけだと考えている。それこそ、卵巣や子宮を摘出している場合などである。
「はい、みなさま、今、視界内に半透明の板が浮かんでいると思います」
しおりんが説明していく。
「お名前と生年月日、お間違えないですか?」
「こくこくこくこく」
皆神妙な顔をして聞いている。
「ではその中の『魔法』と言うボタンに指先で触れてください。ご自分が今覚えている魔法がリストになってますか? 漏れはありませんか?」
「こくこくこくこく」
ここの使い方は後ほど説明します。では、一度『戻る』を押してください。
実はスワイプでも戻れるが、その辺はおいおい……
このあと、各数値の説明、現在リスト化されているのは『力』と『魔力』と『魔力量』だけである。
『器用さ』とか『素早さ』は、これから訓練や実戦のログを取りながら適切な数字を探っていくことになる。
いわゆる『レベル』もそうだ。しばらくログをとってから表示されるようになるはずだ。
「ほ、本当に詠唱省略で魔法が出せるようになった……」
王女近衛でも数少ないファイヤーボール使いが、射的場で感動の涙を流している。
ステータス・オープン魔法でできるのは呪文の詠唱省略までで、発動ワードは必要になるがそんなことは関係ないと魔法を撃ちまくっている。
あれ、魔力枯渇でそろそろ眠くなるやつだ。
攻撃魔法が使えない団員も、イグナイトやウォーター、ウインドを駆使して近接戦闘訓練を始めた。
ちなみに、今回ステータス・オープン魔法には標準では魔法を一切載せなかった。すでに覚えていた魔法は全部そのままリストに載っている。これから覚える魔法も、同じようにリスト化される。手順を踏んで覚えても、発動まで持っていければリストに載る。
魔法陣を読み込んで覚えても、同じようにリスト化される。
アイテムボックスも、マンマジックインターフェイスとしては同じ扱いである。内部ではロックされてるだけですでに存在するのだが、習得するなり魔法陣読むなりしないと存在すら感じ取れない。
「姫さま、本当にすごい魔法を、ありがとうございました……」
ディートリッドが涙を流しながらしおりんの前にひざまづいていた。よほど嬉しかったらしい。あれはきっと、あとでアリスタちゃんのとこに報告に行くな。
更に翌日。今日は第一騎士団のメンバーが集まっている。コトはお休みだ。団長がめっちゃキョロキョロしてるがシカトだシカト。
「では、この石板の魔法陣を見てください。目の前に『インストールしますか? はい/いいえ』と出たら『はい』を指で選択してください」
なんと、インストールまでは全員行けた。ケイとルイージで苦労した甲斐があった。
ここにいるものたちは全員魔法が使えないと思っている団員だ。本当に使えないのか、生活魔法をいくつか読ませてみた。
すると、集まっている二十四人全員が一つ以上の魔法を行使できたのだ。中には生活魔法四種セットをコンプリートしたものもいる。
あ、狂喜乱舞してる。そんなに嬉しいのか。
「遠征の時など、水の確保や火の確保、衛生を保って涼まで取れるとか、なにその『ぬるキャン』ですよ」
なるほど、そういえば割と頻繁に遠征があるんだったね。
その後、模擬戦をしてもらっていたら、とうとうレベルが表示された団員も出始めた。
レベル24。これが良いのか悪いのかはまだわからないが、団の中ではかなりの手練らしい。
今の所不具合は出ていない。しばらく運用してもらってからまた確認することになった。
これが落ち着いたら、王宮魔導士のステータス・オープン魔法のバージョンアップと、王族家族への導入が待っている。
ロマーノの家のセレナさまなんて、ワクワクしすぎて寝てないとか言い出したらしい。
ついでに、スクロール魔法さんとステータス魔法もバージョンアップした。ステータス・オープン! で開くようにしたりと、地味なバージョンアップではあるが。
十日ほど運用を続け、今の所概ね好評なようである。特に、男性が魔法を使えるようになるのが大絶賛であった。
女性は、戦闘職の人以外はあまりできることが変わるわけでもないので、少し便利になったなぁぐらいの反応である。
♦︎
今日も王女近衛の訓練を覗きに来た。丁度アリスタちゃんとコリンちゃんも訓練中だったので見学してみる。
って、アリスタちゃんの戦い方、おかしくね?
行く先行く先に先行でウインドショットが展開されていて、敵を確認次第、死角から不可視の弾丸が飛んでくるとか誰が勝てるのよ。
「わたしの剣ってさ、人間相手の剣なのよ。剣道がもともと人間相手しか考えてないから仕方ないんだけど、人外相手に勝てる気がしないわ」
カナがアリスタちゃんの戦闘を見ながら解説をしていく。アリスタちゃん、人外認定キタコレ、ヒドス。
「だいたい、今あれ、何発撃ち込んでた?二十や三十じゃ効かないよね?あの数。動く巻藁叩き壊してたけど……」
反対側ではコリンちゃんが対人戦をしている。一対三で。しかも圧倒……何あれ。
しかも、相手は近接魔法アリじゃん。何やってんの! 幼年学校の児童相手に!
「ステータス・オープン魔法は凄いですね! コリンさま相手に三人で対抗できてるんですよ!」
ちょっと待てー!
今まで三人じゃ無理だったの? ねぇ、あの子達育てたの、あなたたちよね? 一体何やってんのー!
「ねぇ、今度さ、魔物討伐に一緒に連れてってもらわない? 人外の敵との戦いの経験、積まないとだめだわ」
「うん、何となくわかるわ」
(魔物討伐となると第二騎士団か第三騎士団か。ハンターギルドに依頼してもいいか。いや、それをするとしおりんが暴走するかもしれん。ハンターギルドを冒険者ギルドに作り替える気満々だったし)
(とりあえず第一じゃなければそれでいいわ。)
(魔物討伐……冒険者登録……ワクワク……ワクワク)
三者三様の思いを込めて、次回、魔物討伐!
連載始まってから、実は地球側の方が良く魔物が出ていた事実!
こう、ご期待!
お読みいただきありがとうございます。
さて、わたくしのステータスはどんな数字なのでしょうか。
皆様もぜひ、唱えてくださいませ。せーの
『ステータスオープン!』




